第35話 特別……?

メンバーの人達とも初めてまともにしゃべったんだけど、思ったとおりみんないいヤツら。


そして、なんかみんなイキイキしてるんだ。


好きなことに夢中になってる姿はやっぱカッコイイよな。


それぞれ個性はバラバラなんだけど、目指すところがみんな一緒だから、ちゃんとひとつにまとまって団結してるってカンジがすごく伝わって。


ひとたび演奏が始まるとビシッときまるんだ。


その音楽が本当に最高で。


ああ、このバンドいいな。


好きだなぁって。


改めて彼らの音楽を目の前で聴いたあたしは、心底そう思ったんだ。


で、このバンド。


どんなメンツのバンドかというとーーーー。



まずは、ボーカルをやってるB組の大谷おおたに


一見、なんかガラ悪そうなコワモテなカンジなんだけど、実は優しくて機転のきくいいヤツ。


顔も整った顔立ちで、なかなか男前だと思うよ。


さとみ達が騒いだり、ライブでキャーキャー言われてるのも納得。


そして、ドラムの幹太かんた。D組。


ちょっとガタイのいい体型で、なんか常にニコニコしているカワイイ大きなクマさんみたい。


でも、ひとたびスティックを握ると、見た目とは打って変わってキレのある軽やかなパフォーマンスで観客を魅了するナイスドラマー。


で、ベースを担当しているのがA組の佐々木くん。


黒ぶちのオシャレ眼鏡が妙に頭脳派くんに見えてしまう彼。


なので、みんなは『佐々木』と呼んでいるんだけど、あたしはあえて『佐々木くん』と呼ばせていただくよ。


実際、パソコンとかのコンピューター関係にめちゃめちゃ強いらしい。


それから、桜庭と一緒にギターを担当している、つよぽん。佐々木くんと同じA組。


どことなくふんわりした雰囲気なんだけど、ギターを持つと、ひとたび人が変わったようにキリッと凛々しくなるつよぽん。


名前は『つよし』なんだけど、たまにふざけてみんなが『つよぽん』って呼ぶんだって。


なんか性格もふわっとしたカンジだから、あたし的には『つよぽん』の方がしっくりだな。


そして、もうひとりのギター。


桜庭亮平りょうへいーーーー。


そんなメンバーで構成されているこのバンド。



バンド名は、〝from here〟。



ここからーーーっていう意味で。


ここから、始まる。


ここから、自分達の音楽を生み出す。


このメンバーで、この瞬間から。


いつまでも、ここからスタートした音楽への夢、想いをを忘れることなく、気持ちはいつも、



ここからーーーーー。



そんな想いを込めてみんなで決めたんだって。


めちゃくちゃいい名前だよな。


あたしは好きだぜ。


そんなカンジで、みんなからいろいろ教えてもらって、たくさんおしゃべりして。


あたしはこのfrom hereのメンバーとすっかり仲良しになったんだ。


みんな気さくですごくいい人達。


楽しい仲間が増えて嬉しい限りだ。


今日ここに来れてホントによかったなぁーなんて思いながら、ふと見ると。



モグモグ。


桜庭がサンドイッチを頬ばっていた。


食べた!


美味しい?美味しい?


他のみんなはうまいって言ってくれたけど、肝心の桜庭からはまだ『うまい』の言葉を聞いていないのだ。


ドキドキドキドキ。


あたしが密かに緊張しながらこそっと桜庭を見ていると。


「ーーーうまい」


桜庭が、ちょっと驚いたようにボソッと言った。


ぱぁぁ。


あたしの頭上に花が咲いた。



やったぁーーー!



大成功!


桜庭が、あたしの作ったサンドイッチを食べて、『うまい』って言ってくれた!


嬉しいっ!


「だろだろっ⁉︎スープも飲んでみてくれよ。コーンのペーストから作ったんだ」


紙コップについだ熱々のコーンスープを、桜庭が飲む。


「うん、これもうまい。立花って意外とちゃんと作れるんだな」


「ちょっと。意外ってなんだよ、意外って」


あたしがじと目で言うと。


「気にすんな。とにかくマジでうまい」


そう言いながら、大きな口でサンドイッチをぱくぱく食べる桜庭。


そんな桜庭の姿が、妙に嬉しい。


いや、とても嬉しい。


あたしの顔も自然とほころぶ。


そんな満ち足りた気持ちででニコニコしていると、ドラムの幹太が言った。


「いいなぁ、桜庭は。こんなカワイイ彼女がいてさぁ。おまけにこんな美味しい手料理の差し入れまで持って来てくれるんだもんなぁ。羨ましい限りだぜ」


カ、カワイイ彼女っ⁉︎


ぼっと火がついたように一気顔が熱くなった。


「ち、違うよ!別に彼女ってわけじゃっ……」


あたしが慌てて手を振ると。


「えー?桜庭とひかるちゃんって、つき合ってるんでしょ?」


幹太がキョトンとした顔であたし達を見る。


幹太は知らないのか?


あたしと桜庭のこれまでのいろんな噂。


いや、つき合ってると思ってるってことは当初の噂は知ってるってことだよな。


実はつき合っていないという最新の噂は耳に入っていないのか?


おっとりゆったりした見た目どおり、時間の流れものんびりだな、幹太。


「いや、あのね。それにはいろいろ誤解っていうか……ちょっといろいろあって……」


タジタジしながら、ちらっと桜庭を見ると、桜庭ってば、しらっとした顔でサンドイッチ頬ばっている。


おい、なにひとりでしらっとしてんだよ。


と思わず心の中でツッコむ。


「でもまぁ、立花さえイヤじゃなかったら、そんなようなもんだよな。桜庭が自分から声かける女子なんて、立花くらいだし」


大谷がニヤッとしながら桜庭の背中をバシッと叩いた。


その拍子に、コーンスープを飲んでいた桜庭が、ぶっと吹き出した。


「きったねーなっ。おまえっ」


「飲んでんのに、おまえがいきなり後ろからどつくからだろ!」


「ティッシュ、ティッシュ!」


その一瞬で、やんややんやと大笑いになり。


あたしと桜庭がつき合ってる、つき合ってないという話はいつの間にかお流れになった。



でも、あたしの胸は密かにドキドキ高鳴っていた。


大谷が言っていた、あの言葉。


〝桜庭が自分から声かける女子なんて、立花くらいだし〟


確かに。


教室で見る限り、桜庭が自分からクラスの女子に話しかけたりしてる様子はあまり見たことがない。


女子達がキャピキャピ話しかけてるのはたまに見かけるけど、でもそれに対しても桜庭はあくまでニュートラルなカンジで、これと言って盛り上がって楽しそうに会話してるってカンジでもないし。


と、すると。


あたしは桜庭にとって、ちょっとだけ〝特別〟とかだったりして……?


ひょーーーっ。


そんなこと!


ぶるぶるっ。


慌てて頭を振る。


あたし……今はこのままでいいって思ってたけど。


桜庭としゃべったり、一緒にいられるだけでいいって、そう思ってたけど。


やっぱりちょっと望んでいるのかな……。


桜庭にとって、あたしが〝特別〟であってほしいってーーーー。


心のどこかで望んでるのかな。


だって、だって、もしホントにそうだったら。


もし、桜庭があたしのことをちょっとでも特別に思ってくれてるとしたら。


あたし、嬉しくて空を飛んでっちゃうよ。





そして、その日の帰り道。


他のメンバーと別れたあと、途中まで送ると言ってくれた桜庭。


夕暮れの道を2人並んで歩き出したんだ。


言うまでもなく、嬉しいあたし。


ちら。


隣の桜庭を見る。


今日の桜庭のカッコは、膝がほどよく擦り切れていい具合に色落ちしてるジーンズにシンプルな黒のTシャツ。


なんか、今日のあたし達のカッコ似てるあも。


そんなささやかなことも嬉しい。


しかし、こうやって改めて並んで歩いてみると、けっこう身長差があるな。


背、高いな。


それに、いつもは制服だから、たまに私服を見るとなんか新鮮でちょっとドキドキしちゃうぜ。



「今日は、差し入れサンキューな。ホントうまかったよ。腹減ってたから、みんなすげー勢いで食ってたな」


ギターをかついだ桜庭が、笑いながらあたしの方を見た。


「みんな喜んで食べてくれてあたしも嬉しかったよ。それにしても、ホント楽しかったー。みんなとも仲良くなれたし」


最高の1日だったなぁー。



また、行きたいなぁ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る