第10話 誤解カップル
「えーーーーーーっ?告白されたぁっ⁉︎」
次の日。
有理絵の高い声が、休み時間の教室に響いた。
「しっ!声がデカイっつーの!」
あたしは慌てて有理絵の口を押さえた。
昨日の出来事を話そうと、有理絵の席にやってきたのだ。
「ごめん、ごめん」
有理絵は慌てて小声になって聞いてきた。
「昨日のあのジュース買いに行ってた時に告白されたってわけ?それでなかなか戻って来なかったのねぇ。でも、なんでその時教えてくれなかったのよー」
「いや、ちょっとなかなかいろいろあってさ。教室までの道のりだけではちょっと話しきれない内容でさ。みんなもいたし。ほら、また健太の耳にでも入ったらこれまた面倒だろ?とりあえず有理絵にだけ話そうと思って」
「なるほどね、で、その一件はどうまとまったわけ?いろいろって?」
「それがさーーー……」
話し出そうとしたその時、健太がやってきた。
「よぉ、今日は中坊じゃないじゃん」
いつもの悪ガキ面で、あたしと有理絵が座ってる席の近くにぴょんと座る。
「ホントはけっこう好評価だったんだろ。残念だったな、今日はその中坊じゃなくて」
「バーカ。ところで、その後どうだ。おまえのファンとかいうヤツらは」
「昨日はまたラブレター入ってたけど、今日はひとつもなし!」
ネクタイをピシッと直しながら胸を張って言うと。
「って。喜んでいられないんじゃないの?ひかる。ラブレターよりももっと刺激的じゃん」
「有理絵っ。なんで言うかなっ」
頬杖ついてる有理絵がニヤッと笑ってぺッと舌を出すと、それを見た健太がガバッとこっちを向いた。
「ラブレターより刺激的って。おまえ、まさかまた直接告白されたのかっ?」
「ああ、もぉー。大声出すなよっ。そしてあたしを責めるなっ。あたしだって、されたくてされてるわけじゃないもん」
「で、誰にだよ」
「小林ゆきちゃん。ジンがカワイイって騒いでた子よ」
あたしに代わって有理絵が答えた。
「マジ⁉︎あの、ひと言〝好きです〟のラブレターの子⁉︎マジかぁ……」」
健太が呆れたような、半ば気の毒そうな顔であたしを見る。
「なんだよっ。しょうがないじゃん。されちゃったんだもん」
あーあ。
これが男からの告白だったらなんの問題もないのに。
むしろ嬉しいのに。
「あーーーっ。もう!」
ぐしゃぐしゃぐしゃっ。
「ひかる、頭がぐしゃぐしゃしないのっ」
あたしが髪の毛をぐしゃぐしゃ引っかき回していると。
「おい。なんかあっち騒がしくねー?」
健太が廊下の方を指差す。
「騒がしい?」
あ、ホントだ。
見ると、女子達がヒソヒソキャーキャー騒いでいる。
と、思ったとたん。
ガラッ。
教室のドアが勢いよく開いて、さとみとマヤが駆け込んできたんだ。
「なにごと?」
「さぁ」
有理絵と首を傾げていると。
2人が机の間をぬって、こっちに向かって走り寄ってきたの。
そして。
「ひかる!!」
ガタンッ。
さとみとマヤが、机にぶつかりながら息を切らしてあたしの前に立ちはだかったんだ。
「ど、どーしたんだよ」
みんなの視線があたし達に集中してる。
そんな中、荒い息のマヤがごくんとツバを飲み込んで口を開いたんだ。
「ひかるっ。桜庭とつき合ってるって、ホントなの⁉︎」
え。
一瞬の沈黙のあと。
たちまち教室中が騒ぎ立った。
「マジーーー?」
「ウソ、立花と桜庭がっ?」
「ヒューヒュー」
指笛まで聞こえ出す始末。
おいおい!ちょっと待てっ。
「ひかる!ホントなのっ⁉︎」
「おいっ。聞いてねーぞ、そんな話」
有理絵と健太があたしの肩をつかむ。
「ち、違うって。つき合ってないよ!」
と、いう声も、みんなの大騒ぎでかき消され。
「ひかるっ。ちゃんと教えてっ」
詰め寄るさとみとマヤ。
ちょっと待ってくれよーーーっ。
一体どっからそんなでたらめな噂がっ。
「……あ!」
も、もしかして、昨日の〝あれ〟ーーー?
ガタンッ。
あたしは思わず立ち上がってしまった。
ヤバいっ。
誰かがそれを見て勘違いしたんだ。
サーーーー。
みるみる血の気が引いていく。
ど、どうしよう、この騒ぎっ。
っていうか、桜庭にすごい迷惑かけちゃう!
パッと後ろを振り向くと、いつもの席に桜庭の姿。
そして案の定、既にクラスの男子達にやいのやいのとこづかれまくってる。
あたしは青ざめた。
た、大変だ……。
早く誤解を解かなければっ!
慌てて声を張り上げる。
「ち、違うんだよ!だから、そのっ……。あたしが桜庭のことを彼氏と言って、つき合ってると言ったのは。つまりっ……!」
あたしが必死に説明しようとしている側から。
「うおっ。立花から『彼氏』出ました!よっ」
「『つき合ってる』もいただきましたっ。ごっつぁんです!ラブラブー」
クラスの聞く耳持たないお調子者の男子達がはやし立て、またまた教室中で大騒ぎ。
だからっ!違うんだってばーーーー!
ジダンダ踏みながら、思わず桜庭の方を振り向くと。
パチ。
目と目が合ってしまった。
なんか言ってる。
え?なに?バ、カ……?
そう口でパクパク呟いた桜庭は、頬杖ついて知らん顔しながらみんなの言葉もスルーしてる。
廊下の方から、他のクラスの女子達が騒いでいるのがうっすら聞こえてきた。
「ウソー。ショックー」
「桜庭くんって、彼女いたのぉ?」
「彼女って誰?誰?」
ど、どうしよう。
なんかえらい騒ぎになってる……。
まさかこんなことになっちゃうなんて。
桜庭がこんなにも人気者だったなんて。
『違うんだよ、その噂は勘違いで。ホントは……』
かくかくしかじか……こういうわけで。
ーーーそう、みんなに説明しようと思ったあたしだったんだが、出かけた言葉にブレーキがかかった。
考えてみたら、昨日のことは小林ゆきちゃんのことが関係してるから。
もしあたしが、誤解を解くために昨日あの子に告白されたことをみんなに話したら。
きっとそれもまた噂で広がるだろう。
しかも、ことがことだけに彼女を傷つけてしまうかもしれない。
きっと桜庭は、彼女とあたし、両方の気持ちを考えてくれて、あえてなにも言わずにいてくれてるんだ。
ホントは違うんだって、桜庭だって言いたいハズなのに。
昨日のこと、誰にも話さずに黙っててくれてる。
冷やかされて、誤解されて。
イヤなハズなのに。
……あたしのせいだ。
桜庭にすごい迷惑かけてる。
迷惑、かけてるーーーーー。
そう思ったら。
あたしは、いてもたってもいられなくなったんだ。
やいのやいのと質問ぜめにあってる桜庭。
……助けなきゃ。
あたしのせいで、こんなっ。
助けなきゃ、桜庭を!!
そして謝らなきゃ!!
そう思った瞬間。
あたしは、騒ぎ立つみんなの間をすり抜け。
「桜庭、こっち!」
アイツの手をつかんで教室を飛び出し。
そのまま屋上へと駆け上がって行ったんだ。
そして、屋上に着くなり、あたしは思いっ切り桜庭に謝ったんだ。
「ごめん、桜庭っ。あたしのせいで、変な誤解招いて変な騒ぎになっちゃって……。迷惑かけてごめん。ごめんっ!」
ぎゅっと目を閉じて、あたしは90度に頭を下げた。
「おい、頭に血ィのぼるぜ」
桜庭の声。
ちょっとぶっきらぼうな言い方だったけど、明らかに優しい口調だった。
「……怒ってないのか?」
あたしは静かに顔を上げた。
「怒ってなんかねーよ。でも、なんで屋上?」
「え、だって。桜庭、みんなにギャーギャー言われてから。昨日のこと……ことがことだから。たぶん言いづらくて言えなくて困ってると思って……。そしたら、助けなきゃと思って。ちゃんと謝りたかったし。でも、みんな勝手に騒いでて収拾つかないからーーー。とりあえずこの場から脱却しなきゃと思って……」
「なるほど。でも、今のでいっそう盛り上がってんじゃねーの?」
「え」
ハタと気づけば。
あの状況下の中から、2人で教室を飛び出すなんて。
まさに火に油を注いでるようなもんじゃないかっ。
ぎゃーーー!!
またしてもあたしの顔は一瞬にして青ざめた。
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