第7話 告白⁉︎



そして、その日の放課後。



みんながいなくなった教室で、いつもの女子メンバーと真剣に見ていたのは。


今朝下駄箱に入っていた、あのラブレター。


実は、それがまた恐ろしくとんでもないラブレターだったんだ。


と、言うのも……。



「小林ゆき、小林ゆき、小林ゆきーーーー」



4通入っていた手紙のうち、なんと3通の差し出し人の名前が、全部『小林ゆき』になっているという、あり得ない事態が起こっていたのだ。


手紙の内容はと言うと。


真っ白な便せんに、たったひと言。



『好きです』ーーーーーの、文字。



もはや、あたしは白目をむいて口をあんぐり。



「これはーーー。本気も本気。かなり愛されているわ、ひかる」


有理絵の声に、あたしは更に白目で仮死状態。


「いやぁ、ひかる。さすがだわ。やることが違うもんね。なんかもう、ここまできたらむしろ極めてほしいとすら思えてきたわ」


拍手するさとみの声に、あたしはガバッと体を起こした。


「やめてくれ、さとみ。本気でホントに心底困り果ててるんだぞ?あたしは」


「っていうかさ、なんか噂で聞いたんだけど。2年の女子の一部で、ひかるのファンクラブめいたものができてるらしいよ?」


えっ?


「ファンクラブ⁉︎」


みんなの声が揃った。


「ラブレターの子達は、間違いなくその連中の子でしょ、きっと」


なんだって?



あたしの、ファンクラブぅーーーーー?



「おいおいおい。もう勘弁してくれよぉー」


ガックリうなだれるあたしをよそに、みんなは興奮状態。


「マヤ、ホントなの?それ」


「うん、ホント。ひかるさ、去年街で買い物してた時、雑誌の編集者に声かけられて『街のオシャレ女子』とかいうコーナーかなんかで、デカデカと雑誌に載ったことあったじゃん?」


「ああ……まぁ」


「でね。そのひかるが、すっごい美人だって、反響がすごくて。けっこう女の子達の間で騒がれてたみたいで。なにげにひかる、ちょっとした有名人だったんだよ。それで。この学校にもひかるのファンの子達がけっこういたらしくて。で、噂のひかるがこの学校に転校してきたもんだから、彼女達の間でちょっとしたセンセーションが巻き起こってる……ってわけみたいだよ」



「ひかる、すっごい!」


「あたしもひかるにサインもらっとこうかな。今のうちに」


あたしの心痛をよそに、またしても勝手に盛り上がるみんな。


っていうか。


センセーションってなんだよ。


んなもん、勝手に起こすな!



「あーーーっ。もう!!ちょっとジュースでも買ってくる!ついでに走ってくる!」


バンッ。


あたしは、思いっ切り机を叩いて勢いよく立ち上がった。


「あ、ひかる。あたしのも買ってきてー。あたしオレンジ」


「あたしもいるー。あたし、イチゴオレ」


「あたし、緑茶!」


「お願いしまーす」


みんな小銭を出しながら、声を揃えた。


ズコッ。


「はいはい」


みんなの分のお金を持って教室を出た。


モヤモヤしてるこの頭を、1回リフレッシュさせたくて。


あたしは、軽快に勢いよく階段を駆け下りていったんだ。



お、やっぱ誰もいないや。


1階の購買部の横にある、パックのジュースの自動販売機。


ここら辺って、この時間帯はいつもほとんど人がいないんだよねー。


あたしは、鼻歌を歌いながら頼まれたジュースを買い出した。


えっと、あとは景子の緑茶……っと。


で、あたしはフルーツジュース。


ゴトン。


最後の自分のジュースを拾い上げようとした、その時。



「あのぉ……ーーー」



え?


ふいに、後ろからカワイらしい女の子の声。


振り返ると、2年生の上靴を履いた小柄で髪の長い女の子が、ちょこんと立っていたんだ。


わぁ、カワイイ子。


長い髪の毛を両サイドで編み込みにして、小さなリボンをつけている。


顔もちっちゃくて、まつ毛くるりん。


なんか、少女漫画に出てきそうな女の子だー。


そんな彼女は、なにか言いたさげな表情をしながらうつむいたまま立っている。


「あ、ごめんごめん。ジュース買うんでしょ。もう終わったから」


あたしが慌てて下からジュースを取ってその場を離れようとしたら。


「あのっ。違うんですっ……」


「え?」


落ち着きない様子で髪の毛をいじる彼女。


「どうしたの?」


あたしが両手にジュースを持ったままその子に近づくと。


ぽぉ。


彼女のほっぺたが、ほんのり桜色に染まったんだ。


「?」


なんだなんだ?


あ、わかった。


すぐそばにトイレがあることに気づいたあたしは、ピンときた。


この子、きっと予定外の生理になっちゃって、ナプキンなくて困ってるのかも。


で、あたしが持ってないかと!


「もしかして生理?ごめん、あたし今持ってないんだ。でも、保健室に行けば……」


「えっ。あの、違いますっ」


プルプル。


女の子が慌てて首を振った。


「なんだ、違ったの?ごめんごめん」


ちょっと笑ったあと。


「ーーーじゃ、なに?」


すぐさま聞き返したんだけど。


なんかモジモジしてばっかで、なにも言わないの。


なんだぁ?


じれったいなぁ。


「あのさー。用がないならあたし行くね。友達待ってるから」


あたしはつき合いきれなくなってさっさか歩き出したの。


なんだろ、あの子。


変なの。


と、その時だった。


耳を疑う言葉が。


彼女の口から飛び出したのはーーーーーー。



「先輩っ。す、好きです!!」



ドサドサドサ。


あたしの両手から、パックのジュースが落下した。


今、『好き』って言った?


言ったよねっ?


先輩、好きですって。


もしかして今、あたし告白された……?


え、ええっ⁉︎



「ひかる先輩っ!」


うわっ。


おめめをうるうるさせながら、あたしのところに走り寄ってくる彼女。


「ちょ、ちょっとたんま。あのさ、とりあえず落ち着こうっ」


まぁまぁと両手を前に出しながら、ずりずりあとずさるあたし。


だけど、そんなことはおかまいなしにずいずい寄ってくる彼女。



「わたし、2–Bの小林ゆきですっ。先輩、わたしとつき合って下さい!!」



え。


えええーーーっ⁉︎


この子が、小林ゆきちゃんっ?


あの、ジンが狙ってたというカワイイ子っ?


あたしに何通もラブレターをくれる子っ?


し、しかも。



つき合って下さいぃーーーーーっ⁉︎








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