第2話 思い出の秘密基地
今日は土曜日。何時に起きても怒られない最高な日。
僕は朝10時30分に目を覚ました。リビングへ行くと母さんと父さんがいた。
母さんは真剣に漫画を読んでいる。父さんはソファーで寝ている。
二人とも僕が起きたことにまるで気づいていないようだ。
僕は顔を洗った。特にすることもないので朝食を食べながらテレビを観た。
ちょうど天気予報が流れた。今日は晴れるらしい。
僕は外に散歩へ行くことにした。
早速着替えようとしたが僕は私服を全然持っていない。
僕はとりあえず母さんに相談した。
「母さん。どうしよう。僕、全然自分の服持ってないや。」
そう言ったが母さんは美代から借りた少女漫画に集中しているので僕の話を聞いてくれない。
すると父さんがうっすら目を覚ました。
「母さん!晴斗がなんか言ってるよ!」
父さんが寝言みたいな声で母さんに話しかけた。
そして、また眠ってしまった。
母さんもようやく僕の方に顔を向けて大きな声で言った。
「え!何!?服??武斗から借りればいいでしょ!!」
そういうと、また漫画の世界に戻ってしまった。確かに、まあ、そうなんだけど。
とも思いつつ僕は階段を駆け上がり武斗の部屋に勢いよく入った。
武斗はぐっすり眠っている。僕は一応、武斗に一声かけた。
「武斗の服借りるから。」
武斗は爆睡している。何となく返事らしきうめき声が聞こえた。
タンスから適当に服を引っ張り出して着替えた。そして僕は外へ出かけた。
近所の人に会いたくなかったけど軽く挨拶してから、うろうろ歩いた。
別に行く当てもないし何もしたくないけど。新鮮な空気を吸いたい気分だった。
本当は早朝の方が空気が綺麗なんだけど早く起きる気力がなかった。
空を見上げた。秋らしい青くて澄んだ空。
秋って、なんか切ない気分になるんだよなぁ。
僕は道路のわきに植えてあった
ついこの前までは花が咲いてたのに、もう散ってしまっている。
とても良い香りのする花で僕の好きな花だった。あの優しいオレンジ色の花を来年まで見れないのか…そう考えると少し寂しかった。
僕は家から少し歩いたところにある大きな公園へ行った。
到着すると休日なので人がたくさんいた。ご老人や家族連れ、子供たちが楽しそうに遊んでいた。僕はなるべく人が少ない道へ進んだ。
気づくと昔よく遊んでいた僕にとっての秘密基地がある場所にたどり着いた。
辺りに人は全然いない。本当は立ち入っていいのか分からないが立ち入り禁止とは書いていないから…多分大丈夫なはず。
僕は大きく深呼吸をした。そして植木をよけて、林のような場所に入った。
昔はよくこの場所に来たものだ。ふと僕の頭上にあるイチョウの木を眺めた。
イチョウの木から光が差し込んでいた。
地面はまるで黄色のじゅうたんみたいにイチョウの葉で埋め尽くされていた。
僕はスマホを持ってきていたので軽く写真を撮った。
思ったよりいい写真が撮れた。人がいなかったので神秘的な写真が撮れた。
何か不思議な世界に迷い込めそうだ。僕はじっと静かにただずんでいた。
遠くから楽しそうな子供たちの声が聞こえる。
僕はこの世界で一人になってしまったような気分になった。
しかし背後から枝を踏みつける音が聞こえた。誰かいる。そう思って振り向いた。
「あ、あのー…もしかして、晴斗君?」
振り向いたとたん急に声をかけられたのでとてつもなく驚いた。
そして変な声をだしてしまう。
「ひゃはい!?」
まさかこんな立ち入り禁止か分からないようなところに人がいるなんて思わなかったので尚更驚いてしまった。
「えっと…わたし、あの、覚えてるかな…?」
見覚えがあるような少女がいた。えっと誰だっけこの子…。僕は頑張って記憶をたどりやっとのことで名前を思い出した。
「お、覚えてるよ!美代の友達の…えっと、
少女は、嬉しそうな顔になった。
「…うん!柚子だよ!」
僕は一安心した。僕はすぐ人の顔と名前を忘れてしまうタイプなのだ。
たまに相手は僕を知っていても僕は相手のことをさっぱり覚えていないということがある。
というか、この子はそもそも美代の友達だし僕が覚えてなくても変ではないけど…
昔よく美代の色んな友達たちの面倒見たからなぁ…
「おー久しぶりだね!でも、びっくりしたよ。こんなところで人に会うなんて!」
とりあえず、僕は愛想よく話しかけた。
「そうだよね!確かにここ、知る人ぞ知る場所感あるよね!でも、たまに小さい子とかもここで遊んでるよ!多分、秘密基地にしてるんじゃないのかなー?私もこの場所、小学生の時に美代ちゃんに教えてもらったし!」
「へぇー、そうなんだ…!」
僕は昔、美代にこの場所を教えた。一瞬、美代のやつ、この場所のこと言いふらしたなと思ったが子供ってこういう場所好きだからね。
まぁ僕も武斗からこの場所教えてもらったし…
「あーでもさすがに高校生なってここにいるのはまずいよな…。」
「私もさすがに中学生だし、ここに来るのやめとこうと思ったんだけど、ついつい懐かしくって来ちゃうんだよね…。イチョウも綺麗だし…」
「そうなんだよな。ていうか、この場所、立ち入り禁止って書いてないしよくね?とか思っちゃってたけど、さすがにやばいね…僕はそろそろ行くね…」
そう言って僕は立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと待って!わたしも!」
僕と柚子ちゃんは、普通の道へ出た。
「はぁー。一気に現実に戻ったって感じだね。」
柚子ちゃんは、僕に敬語を使わない。まあ、いいんだけど。
美代と同じような感じだなと思った。
「そうだねー。めっちゃくちゃ神秘的だった。」
僕はイチョウの木を思い出しながらそう言った。
「いい写真が撮れたよ!あ、わたし中学で写真部に入って、さっきの場所のイチョウの木すごくいいから、これはコンテストに応募しようかと思って!」
「おー!写真部か~。だからあの場所にいたのかー」
僕は納得してうなづいた。
「そう言う晴斗君はなんであの場所にいたの?」
「えー僕は気づいたら来てたからなぁー」
柚子ちゃんは次々と自分の話をしてくれた。
「そういえば最近、美代と遊んでないなぁー」
「まぁー中学生は部活とかで予定合わせにくいよなー」
そんな話をしていた。しかし、ついに柚子ちゃんは僕に質問してきた。
「晴斗君は高校生だよね。暇なの?」
「…え?うーん、暇ではないよ。」
僕はとっさの質問に目そらした。
「晴斗君、中学の時はサッカー部だったでしょ?今は続けてないの?」
「うん。今は園芸部。」
「そうなんだー」
なんとなくサッカーを辞めてしまったことに罪悪感はある。
だけど僕にはチームスポーツは向いていないと中学3年間で思い知った。
柚子ちゃんは、ぐいぐい僕に質問してくる。
「何で辞めちゃったの?サッカー?」
「僕には合わなかったから。それに違うことに挑戦したかったんだ。」
何となくサッカーを辞めたことを聞かれるのが嫌だった。
なんで、そんな事聞かれなきゃいけないんだろうって思ってしまう。
「私てっきり晴斗君はサッカーが大好きなのかと思っていた。
足も速かったしボールさばきだって凄かったよ。
私が中一の時、晴斗君は中三でサッカー部で活躍してたから…」
柚子ちゃんはそう言ってくれたが実際には僕はそんなに上手くない。
それに、チームスポーツってそれだけじゃ足りないんだ。
広い視野、とっさの判断能力とか、チームメイトを思いやるとか…。
「いいんだ。今は、こうやって植物とか見たりするのが楽しいし。」
「そうだよね…自分が楽しいと思えることをやった方がいいよ!
もちろん、人に迷惑かけない範囲でね。
私も晴斗君がサッカーを辞めちゃった理由がわかって少しほっとした。
正直言うと私、晴斗君が中学卒業して寂しかったの。それで…その…」
柚子ちゃんは急に黙り込んだ。
「どうしたの?」
僕は柚子ちゃんの顔を覗き込んだ。
「また、お話してもいいかな?」
柚子ちゃんは少し顔が赤かった。具合が悪いのかもしれない。
「もちろん。いいよ。」
僕は笑顔で答えた。その後、軽く話をして柚子ちゃんと別れた。
家に帰ると美代が飛びついてきた。
「ねぇ、
「え、うん。そうだけど。何で知ってるの?」
「あー、なんか柚子からメッセージが来てたの!晴兄に会ったって!今日は一緒に話してくれてありがとうだって!」
「あー、こちらこそありがとうっていっといて」
美代は何かにやにやしてスマホに文字を打ち込んだ。
まったく、何考えてるんだか僕には見当もつかない。
「美代、お前さ公園の秘密基地の場所いろんな人に言いふらしただろ?」
美代は目をそらす。
「え…あの公園の?いや、本当に仲いい人にしか言ってないから」
僕はため息をついた。
「まーいいけどさ…」
僕は、もう自分が大切にしていることは、心の中に収めておこうと思った。
まさか僕がひっそりと美代に教えたあの秘密の場所が柚子ちゃんによると
美代のクラスメイトの大半に伝わっていたらしい。
今となっては仕方ない。
でも、本当に秘密にしたいことは人には言わない方がいいんだなってわかったよ。
僕はイチョウの木の写真をもう一度見直した。
多分、あの場所に行くのもこれで最後だと思う。
僕はもう、あの場所に自分から立ち入ることはないだろう。
子供の時は許されても成長すると限られてくる世界もあるのだと感じた。
その分、僕は新しい世界を歩くんだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます