キス

翌朝、和明は昨日のことは夢じゃないだろうか、と目覚めたばかりの頭をフル回転させる。 

それでも、昨日のキスの感触だけは確かに刻み込まれていて、一気に目が覚めた。 


「僕、ほんとに先輩と…」 


昨日のことを思い出すだけで頬が熱くなる。 

中一の夏、初めて幸せとはこういうものなのだ、と知った気がした。 



まだ学校には余裕があるが、和明は急いで支度をし、家を飛び出した。 

向かうのは学校──ではなく、正反対の場所にある直の家。 


丁度直の家の近くの曲がり角に着いた頃、直が家から出てくるのが見え、足を止めた。 

走ったせいで乱れた息と髪を整える。 


そうしている間に直が曲がり角に差し掛かった。 


「先輩! おはようございます!」 


「うわっ! 和明くん!? おはよ。どうしたの?」 


いきなり現れた和明に驚いた様子を見せる直だが、すぐに笑顔で挨拶をしてくれる。 


「どうしたって、一緒に学校行こうと思って待ってたんですよ!」 


「一緒にって、和明くんの家からこっちって、学校と逆方向じゃん」 


「でも、もう僕たち恋人同士なんだし、一緒に登校ってのも悪くないでしょ?」 


「恋人…。うん、そうだね」 


恋人というワードに頬を真っ赤にする直の反応に、つい笑みがこぼれてしまう。 

そしたら、直に「何笑ってるの!?」と少々不機嫌になられたが、素直に直が可愛かったから、と伝えれば、今度は更に顔を赤くさせて黙ってしまった。 


「ほら、行きましょう」 


「あ、うん。そうだね」 


和明に手を掴まれ、通学路を学校へ向かって歩いていく。 

学校が近づくと生徒達の数が増えたので、繋いでいた手は離されたが、二人の距離は変わらなかった。 


「じゃ、先輩。また昼休みに迎えに来ますね!」 


「うん、わかった。じゃあね」 


直の教室の前で別れ、和明も自分の教室の方へ去っていく。 

その後ろ姿を見送りながら、こんな幸せな日がいつまでも続けばいいと願った。

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