10.技は使えたけど、正直、生きた心地がしません。

まずい。

後ろは崖、前にはバケモン。

完全に追い詰められたってやつだ。


どーする?!

頼みのとやらは聞こえないし、霞の奴も固まってる。俺もだが。

俺がオトリになってこいつだけでも…!

っていうシーンも無理そうだ。前に突っ込んだところで、一瞬でやられて、霞の所にすぐに行くだろう。

やばぇ、死亡フラグ。

俺まだ17歳なんだけどー?!!!

可愛いい彼女もなしで死ぬのか?!!!


「あわわ、あぶない。」

「でもでも、なにもできないよぉ」

「けがれちゃう。」

「きえちゃう。」

鈴の様な可愛らしい女の子の声が聞こえた。こんな所に女の子?!

えっ、危ない!

どうにか女の子だけでも、、

「えっ」


いきなり霞に腕を引かれ、何故か浮遊感が襲う。


「はぁぁー?!!!」


俺は霞と崖の下にダイブしていた。

化け物がだんだん遠くなる。

「霞?!!」

喰われるのも嫌だけど、転落死もすげぇ痛そうじゃん!

「?かすみ?」

「…力とし、その姿を…」

真剣な表情で深刻そうに何かを唱えていた。…呪文?いや、詠唱?

ふわっと向かい風が吹き、落下速度がゆっくりになった。


が。


ちょっとゆっくりになったくらいで、このままいくと間違いなくバットエンドだ。

というか、こいつ術使えたのかよ?!声は知らないって言ってたのに!

霞は辛そうに、術を発動し続けている。


…俺は、俺は何かできないのか?こいつは諦めてないのに、俺は流れに任せちまっていいのか…。

何か手はないのか?

俺には水の適性があると聞いた。適性があっても術を使えるかは別みたいだ。でも、そんな事言ってられない。たとえ使えなくても1回くらいならどうにかならないか!どうすればいい?声ってなんだ、声って!不思議な声なんてなんにも、


…。


…。

そういえば…あの女の子の声って、どこから?

あの崖には俺たちしかいなかったよなー?

じゃあ、って…?


「おちちゃう。」

「わーかぜだけじゃたりない」

「そっちのこもつかえばいーのに。」

「つかえるのかな?」

「つかえないのかな?」

 また聞こえる。

俺らの事を見てるのかー?

「頼む、教えてくれ。どーやったら術を使えるー?」

無意識に手を伸ばした。

「?」

「みえてる?」

「ぼくたちのこと、みえてる?」

僕たちー?

「声がきこえるー」


その瞬間、冷たい何かが頬をさわり、落下が止まった。


「えっ?」

見渡すとそこは、湖の真ん中。

俺は湖の上に立っている。

空は白く、空気は澄んでいる。


ここは…?


「きこえるんだ!ぼくたちのこえ!」

「わー、にんげんとおしゃべりできるなんて」

どこからかさっきの声が聞こえた。

「えっ?あの、」

「なに、はなそうかなー?」

「たくさんあそぼう。」

「ここにいてもらう?」

「ちょ、遊ぶ前に俺、死にそう…」

「?あ。そっか、おちてたねー」

「みずをブワってしてみたら?」

「ブワッて?」

何を言ってるんだ…?

「かんがえるんだよ!ブワってイメージを!」

 「ブワってー!!!」

銀髪の小さな男の子と女の子が両手をあげ、ぴょんぴょんしている姿が見えた。

「ブワッて…」

言ってることはよく分からんが、やるしかない。ブワってことは、とりあえず水が、こうグワっとなればいいって事だよな?

「「ブワッてーーー!」」

水が溢れる様なイメージをする。

グワっと溢れて俺たちを受け止めてくれる水が欲しい!!


「「いまこそわがちからとし、そのすがたをきよくあらわしたまへ」」

2人の声が、何故かぐっと心に染み渡る。その言葉に何故か懐かしい様な響きを感じ胸がきゅっと詰まる。

「今こそ我が力とし、その姿を清く現したまへー」


グワっと身体の芯から力を感じる。いける!そう思った瞬間、俺は現実に引き戻された。


感じたモノを放つ。


「「!!」」


水がこちらに向かって勢いよくぶつかってきた。霞の向かい風と合わさって、より激しく俺たちに水がふっかかってきた。

「ぶわぁ!」

「ごっふ」


バザバザバサ


「うわ」

「いて!」

落下先には木が生えていたようで、そこにダイブした。

枝がクッションになってくれた。


地面に身体がつく。


「潰れてねぇ…」

「あぁ、どこも千切れてない…」


上を見上げると、落ちた所は遙か彼方だ。

「よく生きてたな。」

「あぁ…」

本当に生きてる…。

ぬれている手を握ったりひらいたりする。

霞は頬をつねっていた。

「痛い…」

「現実だな…」

お互い力が抜け、何も言葉も出ず、そのまましばらく放心していた。

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俺、実は主人公だった!…と思ったらやっぱり普通だった件について 雪鏡 @Yuki-kagami0729

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