勝負の時間ってことだよ。

エリー.ファー

勝負の時間ってことだよ。

 二億なんていう勝負において。

 私が自分の命をかけている、現在の状況において。

 何かも、おいて、おいて、として置きながら。

 すべてが現実である訳だが。

 私は。

 負けるわけにはいかなかった。

 別にこの勝負が自分の人生を変えるとかそういうことではないのだ。とても単純な話である。私はそもそも、勝負に余り興味がなかった。勝っても負けてもいいと本気で思ってしまっていたのである。だからこそ、ここにいる。

 正確に言おう。

 負け続けたのだ。

 負け続けてきたから、今の今まで勝負というものの無価値をただのうのうと垂れてきたのだ。

 私はそれがどれだけ私の人生から何もかも奪って来たのかを見て見ぬふりをしてきたのである。

 あえて言うのであれば。

 私は、その勝負というものから取り返さなければならないのである。

 何も。

 何も、そこにはないわけだが。 

 ただ、私は負け続けてきただけなのだが。何か、その勝負というものに自分の生き方を見ているのである。鏡というのは正確ではない、どちらかというと、擬人化している。

 死神か。

 それとも、神か。

 いや、人間か。

 別になんだっていい。

 勝負というものを特別視している。

 私は私が負けることを恐れて、今の自分を形作ってしまった。これは、とても恥ずかしいことだろう。

 戦って、戦って、今の自分ができたのであればそれでいい。

 そうではないのだ。

 私は、今の私を直視できないのである。

 私を忘れてしまいたいと私が願っているのである。

 手札の中にあるジョーカーを見つめるほかない。これがどれだけの価値があるのかは、この場にいる参加者全員が分かっていることだ。でも、今の状況では全くの無意味なのである。

 私には、このジョーカーを使いこなせない。

 だとするならば。

 誰かに渡した方が良いのか。

 私のような人間よりももっと上手く、このゲームを支配し、もっと上手く生き残ることのできる人間がいる。私ではない。私はこれからどれだけ頑張っても無理だろう。

 こびりついた敗者としての生き方は僅かだが、外見にもにじみでてきてしまっているような気さえする。

 私の身の回りにいた人間たちはどうなったのだろう。首を絞められたのか、むりやり泥水を飲ませられたのか、手首を切ったのか。

 私は知らない。

 私は知ろうとしなかった。

 ここからいつか脱却するだろう、という証拠もない自分の生き方をまるで当たり前のように通せるだろうと思っていたのだ。

 そうだ。

 そういうことだ。

 私は逃げてきたのではない。

 見ていなかったのだ。

 私がどのレベルの人間で、どのような生き方が適切で、どのような人生がこれから続く予定であるのかを全く分かっていなかったのだ。

 何もかも、持っているふりだけは上手くなって、自分の手で、何かを手にするという努力を怠ったのだ。

 目の前のプレイヤーは笑っている。

 横に座る美女も同じように笑っている。

 鴨は誰だろう。

 このテーブルの鴨は誰だろう。

 私は誰が鴨になっているかが分からない。

 ということは。

 このテーブルの鴨は。

「私か。」

 他のプレイヤーがけたたましく笑う。

 私もつられるように笑い、それから少しの時間をもってしてシャンデリアの仕掛けのスイッチを入れた。

 叫び声とともに、チップが飛ぶ。

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