第29話 溢れた出した炎

「…なんですって?」

ラタンシアから笑顔が消え、

殺気を帯びた瞳となり

さらに口からは『紫』の炎が漏れている。

さっきまでの愛らしい少女の姿はなく

そこには『獰猛な魔物』がいた。


―これはいけない!

「B&Bさん!なぜそんなこと言うのですか!?」

イデルが声を荒げて言うが、

B&Bは口調を変えずに答えを返した。

「イデル、これは彼女の為だ。

 こればかりは黙っているわけにはいかない」

それを聞いたラタンシアは吼えるような声で問う。

「ラーシャの為!?

 善行のつもりかしら?

 散々ラーシャに文句をつけておいて

 あなた何様のつもりなの!?」

まるで、火に注いだ油のごとく

怒りの熱は大きくなる。

それでもB&Bは言葉を続ける。

「確かに貴女の魔力は

 他者と比べ物にならないほど強力だ。

 だからこそ、その『器』小さすぎる。

 自分ができていると思い込んでいても

 他者からは見えるものがあるのですよ。


 あなたの『器』は限界を迎えている」


箱にモノを入れる限界は

見て、

聞いて、

触れて、

わかるものだ。

しかし、モノを詰め込んでいる

本人にはわからないことがある。

その箱…

『器』の限界が。

壊れる前に大きな『器』を

用意しなければいけない。

そうすれば壊れることはない。

箱のように簡単に直せる

『器』ばかりではないのだから…。


「一度壊れた『器』は再生などしない

 漏れ出した魔力はとどまれず

 宙に帰るだけだ。

 その前に『器』を大きくすればいい

 簡単なことだ。

 あなたにはそれができるはずだ」


B&Bは淡々とした口調で言う。

これは彼の純粋な善意だ。

悪意などはない。


「…」


最後までB&Bの言葉聞き終わり

ラタンシアは静かに息を吐いた。

先ほどの殺気は落ち着き、

紫の炎も消えた。


―何とかなったのか?


イデルは胸をなでおろして、

彼女の顔を覗き込んだ。

彼女の目にはガラスのように

透明な涙を玉のように流していた。


「…!ラタンシアさん?」


イデルは慌てて彼女に触れようとしたが、

その手は叩き落されてしまう。

同時にラタンシアの悲痛な叫びが

広場に響き渡った。


「どうして!みんな分かってくれないの!

 父さまも!母さまも!

 みんな、みんな、みんな!


 私はこのままでいたいのに…!」


可愛らしい顔をゆがめ

鈴のような声をつぶし

腹の底から、心の底からの

叫びだった。


「…嫌い


みんな、きらい!


大っ嫌い!!」


その叫びが終わった直後だった。

この広場が大惨事になったのは…。

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