第28話 小さな器

「結局いらっしゃらなかったわ…」

小さな町を空中から周ってもシロの姿はなかった。

シロが家を出発してから数時間は経過している。

この時間には基本的には町のどこかにはいるはずだった。

しかし、一向に姿が見えない。

―どこに行ったんだろう?

何かあったのではないかとイデルも心配になる。

とにかく、埒が明かないので最初の広場に帰ってきた。

「やっと帰ってきたか」

そこにはずっとそこにいたのだろうか、

B&Bの姿があった。

ラタンシアは表情を曇らせる。

相当嫌われているらしい。

「B&Bさん。

 まだいらっしゃったんですね」

「ああ、彼女に一つ聞きたいことがあってね」

「そうなんですか…」

―頼むから変なことは言わないでくれ…。

イデルは心から祈った。


「レディ、お時間よろしいですか?」

「…あなたにラーシャの大事な時間はあげたくないのだけど」

B&Bの呼びかけに

ラタンシアは目線も合わせることなく答える。

「そうですか、では手短に

 その器を早く変えたほうがよろしいかと」

「…!」

B&Bの言葉にラタンシアは驚いたような顔をした。

そして、口元だけ笑みを作る。

「わかっていないのね!

 ラーシャの強い魔力見抜いたのは褒めてあげる。

 でも、真の美しさに気づくことのできない

 かわいそうな人ね」

ラタンシアはB&Bと向かい合った。

わざわざ、顔と画面が付きそうなほど至近距離で、

尚且つ強い口調で、

「ただの『小さな器』だと思った?

 この器に隠された強い魔力。

 でも、本当に強いのは

 この器に留められる

 制御ができていることが素晴らしいの!

 これがラーシャの『美しさ』よ!」


例えば箱があったとする。

自分の持っているモノをどんどん入れていくと

もちろん溢れてくる。

では、どうしたら良いか。

簡単なことだ。

箱を大きくすればいい。

でも、もし箱を変えずとも

モノを入れられるなら、

そのような箱が…

『器』があったらどんなに良いだろうか。


「…」

B&Bはラタンシアの言葉聞いて、

少し考えた。

その結果出た言葉が


「それが『できていない』

 故に私は申し上げているのですよ」


だった。

それを聞いてイデルは

恐れていることが起こってしまう

とわかってしまった。

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