第27話 既視感
「…イデル、あんた大丈夫?」
本の読み聞かせが終わり、
主催者のレイナが声をかけてきた。
読み聞かせの間イデルはずっと
白目をむき、中途半端に空いた口から
涎を垂れ流し続けていたという。
「…大丈夫。もう、大丈夫」
意気消沈しているイデルとは他所に
ラタンシアは興奮しながらレイナに近寄ってくる。
「さっきの読み聞かせ素敵だったわ!」
「えっ!?あ、ありがとう」
いきなり知らない少女に戸惑う。
しかし、ラタンシアは容赦はしない。
「言葉の選び方も適格だし!
わかりやすくって楽しかった!
すごいわ!!」
目を輝かせながら嬉しそうに感想を言う。
無邪気な子供そのままである。
感想を聞くとレイナはイデルの方に向き直る。
「よかったねイデル。
頑張った甲斐会ったじゃない」
ラタンシアはその言葉の意図がわからずにいる。
レイナはラタンシアに話かける。
「この話を分かりやすくしてくれたのはイデルよ
私は読んだだけ、お礼はイデルに言って。
もっと読みたかったら、うちの店きてね」
微笑んだ後レイナは足早に去っていった。
「あなた、すごいじゃない!
こんなこともできるのね」
ラタンシアは無邪気な笑顔見せ、
イデルに話しかけてきた。
「いや、別にすごくないですし」
「どうして?
他の人ができないことができるのよ
もっと誇るべきよ」
「シロさんに比べてたら
こんなの無駄知識ですし…」
「…どうして?
わからないわ、素敵なことを
どうして無駄なんていうの?」
「僕は魔力もないし力もないし、
知識があったとして
それを有効に活用できないですし」
「…どうして?」
『どうして』と言い続けるラタンシアの目は
子供のような無邪気なものではなかった。
まっすぐ見つめてくる『紫』の瞳は
力強く燃える炎のようだった。
しかし、その瞳はまばたきの後
元に戻ってしまった。
「まあ、いいけど。
ほら、グズグズせずにいくわよ」
再びイデルの手を取る。
「あ、はい。すみません」
もっと何か言われるのではないかと
身構えていた故に肩透かしを食らった。
その後もシロの捜索は続いたが見つからなかった。
イデルが捜索に身が入らなかったというのも
理由の一つかもしれない。
『どうして』と言い続けるラタンシアの目に
既視感があったからだ。
どこで見たのだろう?
いつごろ見たのだろう?
何を見たのだろう?
遠い昔だった気がするし、
つい最近だったきもする。
よくわからない感情がイデルの中で
いつまでも回っていた。
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