第26話 シロ=王子様?

イデルが話を絞り込んだ結果

以下のことが分かった。


一つ、この町の中心的な人物

一つ、人型の人物

一つ、B&B以外の人物


「やっぱり、考えられる人は

 シロさんぐらいですが…」

『王子様』とういうのは

貴族の分類的には男性を指す。

しかし、シロは女性だ。

そう考えると根本的に当てはまらない。

―これをどう伝えるか。

イデルが考えるが、

それより先にラタンシアが動いた。

「あなた!そのシロ様について

 知っているのね!!」

鼻と鼻が着きそうなぐらいに

顔を使づけてくる。

『紫』の瞳が火の粉のように輝いている。

その美しさにイデルは息をのむ。

「ええ、一応シロさんとは

 一緒の家に住んではいますから」

「そう!あなたはシロ様の

 『召使い』なのね!」

イデルの心は釘を打ち付けられたような

痛みを感じた。

―そうだよなぁ。弱そうだ見た目だもんなぁ。

―同居人に見えないよなぁ。

―というか、シロさんが居候しているんだけど…。

イデルの心のうちを知らないラタンシアは

イデルの腕をつかみ宙に持ち上げる。

少女の細腕でどこからその力が出るのか

どんどん高いところへ上ってい行く。

「さあ!シロ様を探しに行くわよ召使い!」

「もう、それでいいです…」

それを下から眺めるB&B。

「私も一緒に行ったほうがよろしいですか?」

と尋ねる。

その言葉にラタンシアは

「あなたは嫌い。こないで」

と一蹴り。

「…なぜ、嫌われてしまったのだろうか?」

頭を傾げる。

無自覚は時に厄介なものだ。

それをB&Bは知らない。


ラタンシアに連れていかれ町中を周った。

上空から見まわしても、シロの姿は見えない。

「どちらに、いらっしゃるのかしら。

 早くお会いしたいわ!」

「うーん、少なくとも町にいるとは

 思ったんですが…」

「ねえ、召使い。

 あそこに子供が集まってきているわ

 何かしら?」

荒れ果てていた草地をきちん整備した

小さな空き地にラタンシアは興味を示した。

―あぁ、そうだ。今日はあの日だ。

「町の貸本屋の人が

 本を読み聞かせてくれる日なんですよ。」

「本なんて、自分で読めばいいじゃない」

「文字が読めない子はいっぱいいますから。

 それに難しい言葉だと意味が伝わらないこと

 がありますから、わかりやすく訳しているんです」

「…そういう子もいるのね」

呟くように言った。

何を思ってその言葉を言ったのかは

わからない。

しかし、その声は先ほどの子供のような

可愛らしいことは違い、大人びたものだった。

「…ちなみにどんな本かしら?」

「えー、確か今回は異世界から取り寄せた

 恋物語…だったかな?」

「何それ!とっても楽しそうじゃない!!」

「え?」

イデルは問いかけようとしたが、

それよりも早くラタンシアが動いた。

高いところからの急降下を食らった。

「いやあああああああぁぁぁ!!」

情けないイデルの声が響き渡る。

その後、本の読み聞かせが

始まってから終わるまで、

イデルはずっと走馬灯を見続けていた。

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