第25話 王子様を探して

「…」

ここまで辺りが静かになったのは

初めてであった。

ここにいる全員が彼女の言葉を

理解できなかった。

『王子様』

貴族の男子がこのような

貧乏人が住む町にいるだろうか?

いるはずがない。

それが解っているからこそ

ここに彼女以外の全員は困惑した。


―この子は何を言っているのだろう?


イデルは顔のしわを直しながら

彼女、ラタンシアに尋ねる。

「えー、具体的にはあなたの求める

 『王子様』についてお聞きしていいですか?」

その言葉にラタンシアは目を輝かせた。

「よく聞いてくれたわね。

 そこは褒めてあげる」

宙に浮いている体を優雅に回転させると

彼女は理想の『王子様』について語りだした。

ここで約1時間ものあいだ語られることとなる。


ラタンシア フラム キンデールの

理想の『王子様』

一つ、自分より背は高くないといけない。

一つ、自分以上または同等の知識がなければいけない。

一つ、自分以上に強くないといけない。

最低でもこれらがそろっていなければ

『王子様』ではない。


「・・・ということなのよ!」

理解に時間がかかった上に

明らかに自分とは世界が違いすぎる。

理解が追い付かないと感じたイデルは

顔のシワを伸ばすのに精一杯になっていた。

そこで、共に話を聞いていたB&Bは

冷静な声な彼女に尋ねる。

「それと、ここに来た理由が合致しないのですが、

 それについてはどうお考えですか?」

その単調な声に少し不満を持ったのか

ラタンシアは再び不機嫌になった。

「なに?何が言いたいのかしら?」

「単純に疑問に思ったですよ。お気になさらず」

「まったく、学がない方はこれだから嫌だわ」

「学があったとしてもそれを理解するのは難しいかと」

「学というのは知識だけではないのよ?

 人の心を先読みして実行するのも学の一つじゃなくて?」

「ああ、俗にいう感情論といったことですか?

 そういったことは無駄な部分も多いので、

 あまり、考えたことはありませんでしたね」

二人が会話をしていくにつれて険悪な雰囲気が漂う。

特にラタンシアの顔面には青筋がたち始めた。

口調が徐々に苛立ちを帯びた声色になる。

ラタンシアが悪意のある言葉を

意図的に発するのに対し、

一方B&Bは全く動じない。

声色が全く変わらないのだ。

これほど周りの空気が悪くなる

会話を見たことはないだろう。


―これはいけない・・・!

イデルは二人の間に入り

この空気を断ち切ろうとする。

「要するに!ラタンシアさんは

 ここに条件に合致する

 人物を探しをしている

 ということでよろしいですか!?」

その言葉に気が付いたラタンシアは

目が輝きだし、笑顔となる。

「そう!そうよ!

 最近、ここでラーシャにピッタリな

 人物がいるって聞いてきたの!

 きっとラーシャの『王子様』に違いないわ!」


…ちゃんと答えられるではないですか。

と言いそうなB&Bを遮って

イデルは必死に相槌をし続ける。

悪意のないの発言は本当に質が悪い。

イデルはそう思った。

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