第23話 シロという少女について

「やあ、イデル。

 今は時間は空いているかい?」

B&Bがドアを開け、

まるで自宅のようにくつろぎ始めた。

―相変わらず自由だなあ。

椅子に長い足を組んで座る

彼の姿を見てイデルは溜息をもらす。


「シロさんなら、テクノポリスに行きましたよ」

「いや、知っている。もう会った。

 体術訓練を行う場所がメンテナンスが必要でね。

 早めに切り上げてもらった」

「そうなんですね。

 じゃあ、今見回り中かな」

「しかし、こうも吸収が早いと

 教え甲斐があって良いものだな」

「それは、僕もそう思います。

 うらやましいくらいに」

二人が他愛もない話をしていると

イデルはB&Bの持っている紙束に目が言った。

「それは何ですか?」

「ああ、これが用件だ。

 イデルの意見を聞きたい」

「別に大丈夫ですけど、

 何についての意見ですか?」

イデルは紙束の文字に目をやる。

題名は『シロについての報告書』


実験①

機械との組手

身体、能力共に変動なし

通常の人間種と同じ


実験②

B&Bとの組手

なお、魔術を使用はしないものとする

身体:瞳、胸部結晶体が『青』に変色

能力:体力などの数値に変動なし

   また、体術のパターンは

   現在習得済みのものであった。


実験③

B&Bとの組手

魔術の使用あり

身体:上記のものと着衣に変化あり

  (組手相手の姿に類似した姿に変化)

能力:魔術パターン・威力は同等

   魔力量、測定不可   


「…どうだい?」

イデルは書類に目を奪われた。

自分が気づけなかったこと。

自分が解らなかったこと。

自分が調べられなかったこと。

それらが載っていた。

特にイデルが目を引いたのは…


「魔力量、測定不可能…」

その言葉をイデルが呟く。

B&Bはそのことを待っていたかのように

喜々として語りだす。

「面白いだろう。

 魔術を使うときに一時的に

 メーターが振り切れることはある。

 だが、彼女は常に測定不可の状態だ。

 こういったことは見たことはない。

 だがより不可解なのは

 魔術パターン・威力は同等ということだ。

 メーターが振り切れるほどの魔力量が

 出ているにもかかわらず

 威力は同じ。

 これはどういうことなのか。

 萎縮か

 手加減か

 無意識か

 実に不可解」

 

イデルは目の前のあり得ないことに

訝しげな表情を浮かべる。

「…機械が故障していたとかではないんですね?」

「可能性はある。

 そのためのメンテナンスだ。

 終わった後が楽しみだ」

「…あんまり、シロさんに無茶させないでくださいね」

「わかっているさ」


二人が談義をして1時間ほどたっただろうか。

再びイデルの家のドアがノックされる。

入ってきたのは、若い獣人の男であった。

「あのう…、すみません

 ボスは、シロさんはいますか?」

彼は不安げな声で話かけてくる。

「何かあったんですか?」

イデルが問いかけると男はこう返した。


「迷子です」

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