紫の少女

第22話 どうしてこうなった

―どうしてこうなった。

イデルは思った。

いたって平穏な日常だった。

平穏だったはずだった。

今、目の前には


『紫』の炎の渦


町の広場の中心でゆっくりと回っている。

地肌に感じる焼けるような熱さ。

目を開けることもつらい。


「こいつはすごいな」

B&Bはのんきにその風景を眺めていた。

「あの…、お願いが…」

「安心しろ、周りに防御壁は貼ってある」

「ありがとうごさいます」

この威力の炎だ。

周りに引火したら大惨事になることは間違いない。

木材を使った家はよく燃えるだろう。

辺りの住人は一応のため避難をさせた。

しかし、これは一時的にかならない。


「本当に、なんでこうなったんだ…」


…さかのぼること数時間前。

時刻は朝。

イデルは朝ごはんを作り

テーブルに並べる。

最近取り付けられた豆電球が

部屋を照らしている。

火を使うのを最小限に抑えられるのは

安全でうれしい。


「イデル、おはよう」

寝室からシロが現れる。

「シロさんおはようごさいます。

 ご飯できてますよ」

「うん」

「今日のご予定は?」

「町の見回りをしてから、

 テクノポリスに行く」

「ああ、B&Bさんのところに。

 わかりました。

 夕方までには帰ってきてくださいね」

「わかった」


会話が成立する。

前とは比べ物にならないほど

成長している。

口語・文語などの言葉を使い

意思の疎通をとる方法を教わった。


他にも

組み手を行い戦闘技術を

向上のための訓練。

テクノポリスにいる住人たち、

『機械』についての知識。

など、さらに覚えることができたようだ。

―ありがたいことだなあ。

イデルはこの会話の中でそう感じた。


朝食を終えると

シロは家の出口に向かう。

ドアを開け、振り返る。

「いってきます、イデル」

その言葉は家族のいないイデルにとって

とてもうれしいものだった。

少し照れ臭そうに返す。

「いってらっしゃい、シロさん」


それから1時間ほどたっただろうか。

家のドアをノックする音が聞こえた。

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