第7話 巨躯の猛進

イデルの体は地面にたたきつけられ、体が軋む。

揺れる視界に映ったのは巨躯のオーガだった。


くすんだ赤土のような皮膚。

黒みがかった琥珀色の目。

口から見える鋭い牙。

そして、体の中でも特に目立つのはあり得ないほどの大きさの『腕』。

本体も3メートルはあるにもかかわらず、腕はほぼ同じ長さ。

木の幹の様な腕は、血管が浮き出ており脈動している。

もう『人』ではない。

完全な『魔物』だった。


「おー、兄弟!今日の獲物はこいつらダァ!

 尾無しは今やった一発でとりあえずいいヤァ。


 女を壊せ」


ゴブリンは笑いをこらえるように言い放った。


―まずい、殺す気だ!

「シロさん!早く!お願いだから、逃げてください!」

イデルは上半身を無理やり起き上がらせる。

のどから込み上げる液体交じりの声で叫んだ。

赤い体液が口から洩れる。


痛い。

痛い。

痛い。


―僕の所為だ。自分が弱いから。

―こういう、奴らにオモチャにされる。

―自分が弱いなら…


「…お願いします。彼女は関係ないんです。


助けてください。彼女だけでも…」


弱者は頭を垂れて懇願するしかない。

自分のせいで、人を死なせたくない。

ここで逃げて、本当の弱者になりたくない。


しかし…。

「なに言ってんダァ。これからがいいところじゃんカァ」

イデルは頭を踏まれ身動きが取れなくなった。

懇願したことは、無駄となってしまった。


あれだけのことがあったのにもかかわらず、シロは動こうとしない。

恐れて動けないのか、茫然としているのかわからない。

イデルは祈ることしかできなかった。

―逃げて、逃げて、逃げて!

イデルはシロを見続けることしかできない。


オーガはシロに近づいてくる。

シロはオーガを見つめる。

オーガが腕を振り上げた。

…もう間に合わない。


―嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

怖いと感じるのにイデルは目が離せなかった。

彼女に腕が振り下ろされる。


叫び声が聞こえる。

痛みに苦しむこえが。

しかし、その声は


オーガの声だった。


身もだえるオーガを見つめるシロ。

彼女の眼は『琥珀色』に輝いていた。

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