第6話 楽しい瞬間

「やっぱり、なんか臭いと思ったらこういうことカァ

 『尾無し』にしては面白いことやるネェ」


悪意というものを具現化したのならこのことを言うのだろう。

笑い声は金属がこすれるような不快な音。

目と口は吊り上がって薄気味悪い顔で笑っていた。


「なんで…」

イデルは絶望の色を顔に浮かべる。


汚泥の塗ったような肌、

顔には口まで垂さがった鼻先、

細身の上半身と異様に突き出た腹、

ゴブリンといわれる種族である。


「いやネェ、よそ者の臭いがすると思ってそこ行くじゃん?

 そしたらオマエが、ご丁寧に連れ帰ってるじゃん?

 そんでオマエせっせ、せっせと世話するじゃん?」

聞きたくもない声が早口でしゃべる。

「なにが、言いたいんです?」

イデルは威嚇をしながら問う。

「なんだよ、『尾無し』の癖に。黙って聞いてろヨォ」


『尾無し』

奴がイデルのことそう呼ぶ。

獣人は生まれながら『尾』があるものだ。

そして、『尾』の長さ、大きさ、本数などで魔力の大きさが測れる。

イデルには生まれながらに『尾』がない。

能無し、弱きものの象徴である。

肉体に宿る魔力も物理的な力もない彼もとって

その言葉は侮辱的なものだった。


なおも奴はしゃべり続ける。

「一生懸命作ったものってサァ、壊したくなるじゃん?

 今までもそうやって楽しんできたんだけどサァ

 こいつはいいヤァ!」

そういうとシロを舐め回すように見る。


イデルはシロを背にして相手に叫んだ。

「彼女は今日!この町から出ていくんです!

 あなたには関係ない!」

体の毛を逆立て、牙をむく。

しかし、シロと繋いでいる手は震えていた。


奴は変わらずニヤニヤしながらこう言った。

「なに言ってんダァ?ちゃんと待ったじゃん

 何のために一週間待ったと思う?


 そのほうが『壊す』の楽しいだろゥ」


イデルは寒気が走った。

―彼女だけでも逃がさなきゃ!

「シロさん!逃げ…」

そう叫んだ瞬間、イデルの体は吹き飛んだ。

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