第4話 『シロ』という少女

一晩だけのつもりだった。

シャワーを貸して、食事を与えるだけで終わりのはずだった。

イデルは自分のお人好しが嫌になった。

一週間もかいがいしく世話をしてしまった。


食器の使い方。

それを使ったごはんの食べ方。

服の着かた、脱ぎ方。

数えきれないほどいろいろなことを教えた。


そのおかげで、シロは一般的な作法をできるようにはなった。

そのせいで、イデルはくたびれていた。

まるで子育てをしているかのようだった。

わからないことがわからない、彼女を見ていたがそう感じた。


しかし、イデルは満足した。

シロは教えたことをすべて吸収した。

最初できなかったシャワーを一人で浴びることも、

服を脱いだり、着たりすることも、

席について食器を使ってご飯を食べることも、

すべて、できるようになっていた。


―長いようで短かったなあ…。

イデルは少し涙ぐんだ。

「シロさん、あなたはすごい人ですね」

シロは首を傾げた。


一週間の間、一緒にいてわかったことがある。

彼女は表情がない。

どんなことがあっても眉一つ動かない。

あるのは瞬きぐらいのものだ。

うなずくこと、首を振ること、首をかしげること。

コミュニケーションできるのはこのくらいだ。

―愛想がないけど、なんかほっとけないんだよなあ

シロがパンをほおばっているのを見ながら、イデルは思った。


この食事が終わったら、彼女を送り出す。

彼女には彼女の、自分には自分の生活がある。

いつまでも引き留めることはしてはいけない。

「シロさん、短い間でしたが楽しかったです。

 また、来ることがあったら遊びに来てくださいね」

シロは黙ってイデルを見ていた。


食事が終わって、出発の時が来た。

イデルは町の出口ギリギリまで、シロを送り出す。


―万が一あいつに会ったら大変だ。何が起こるかわからない。

―あいつに会ったら僕は彼女を守れない。


この町にいる限り、危険は消えない。

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