第3話 何もできない少女
「あのですね。あなたが『人間』であっても、無くても
服の着方ぐらいは知っているでしょう。
というか、今までどうやって服着たり脱いだりしてたんですか?」
彼の問いかけに彼女はただ首をかしげるだけだった。
彼女は生活するにあたっての知識がほとんどない。
服は脱いでも着ない。
体は水で濡れたまま。
さらに、シャワーの水は出しっぱなし。
だらしがないというよりどのように生きてきたのかがわからない。
結果、彼が彼女の体を拭いたり服を着せたりと世話をしなければならなかった。
「今度から、自分でやってくださいね」
彼はその言葉とともに溜息を吐く。
彼女はそれをただ見ているだけであった。
―本当にわかっているのだろうか?
彼はますます心配になった。
「ああ、すみません。さっきから小言ばかりで…。
ぼくの名前はイデルといいます」
そういうと彼は
イデルは彼女と向き合い、訪ねた。
「あなたの名前は?」
彼女は答えない。
―やはり答えないか。
そうイデルは思ったが…
「シロ」
彼女の口から初めて言葉が聞けた。
抑揚はなく、無機質であるかのような声だった。
イデルは驚いたが、少しうれしかった。
「はじめまして、シロさん」
彼女は
シロはうなずいた。
「まあ、何の用があるのか。どこに行くかは知りませんが
とりあえず、少し休んでいってください。
せまくて、暗いところですが…」
イデルはおもむろにキッチンにあった鍋からスープを皿によそる。
そして、小ぶりのパン、食器とともにテーブルにおいた。
「食料はこれだけですが、よかったら食べてください」
イデルはそういうと自分の分の食事も準備する。
しかし、シロは立ったままである。
一向に席に着こうとはしない。
「…食べていいですよ」
イデルはシロに呼び掛けた。
そしてシロは立ったまま、食器も使わず皿を持ちあげる。
口元に皿を傾け、スープをこぼして服を汚した。
イデルはこう思った。
―こいつは教え甲斐がありそうだなぁ。
イデルの苦労は尽きそうもない。
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