第14話 社畜か!意識低い系の社畜か!


「まあ、それはいいとしてだ。


 俺のSSSSSSS級スキル、情けは人の為ならずだっけ。


 これはどうやって使えばいいんだ?


 人助けしようと思えば自動的にパワーアップとか、そういう感じなのかな」




 単純にパワーアップとかだと事件解決にあんまり役立たないような気がするな。


 他の効果とかあるのかな?




「ええと、スペック自体の向上は実はそこまでではなかった、ような。


 ああ、確かパーティメンバーはかなり強くなるんですよ。


 仲間のスキルの効果も何倍も増幅させて。


 でも自分はそんなに強くならなくて。


 そうそう。とことん自分以外を助けるという主題の能力なのでそういう感 じになってる、......みたいな感じだったかとは思うのですが……」



 なんだ?


 ムゥにしては珍しく歯切れが悪いな。



「実は私もイマイチその能力について把握してないのですよ。


 女神様が行けと言うから、バカンスがてら来てしまったもので」




 はぁ?




「っはぁぁぁ!?なんっっっだそりゃあ!?」




 何をやってるんだ女神!


 何のためのガイド派遣だ!


 これはいけませーん!




「いやまあ一応随分前に集合研修は受けたんですよ。


 一日中プロジェクターで動画流す系の。


 でもあんなの開始15分で全員寝るじゃないですか。1営業日休憩入ったわ、みたいな。



 それで女神様に、「君あの研修受けてるからこの仕事できるよね?」とか言われたら、「はい!任せて下さい!」って言うしかないじゃないですか」



「社畜か!意識低い系の社畜か!」




 マジふざけんなよマジふざけんなよ。


 それは予想しとらんかったわ。



 その部分だけは信用してたっていうか疑う発想持っとらんかったわ。




「ま、ままままあ。正味問題ございませんよ。ご主人様。


 一応研修終了時に理解度チェック試験は突破してるので大体なんとなくはわかっていますよ。


 10問マルバツ形式で7割以上合格、何度でもトライできる系のテストでしたが」




 ええー。それ絶対わかってないのに突破できちゃうやつじゃん。




「それにご主人様の脳内にガイダンスをインストールしているそうではないですか。


 それを参照しつつ協力すればいけますって。ヘーキヘーキ」




 本当かぁ?なんかキャラ変わってんじゃん。


 こいつでも動揺するとこうなるんだな。




「ええとですね、そうだ!思い出した思い出した!


 ご主人様は治癒士兼召喚術士ですから物凄くこの能力とは相性が良いはずです。



 まず治癒士としてですが、自分以外を治療する場合、どんな重症や猛毒、 難病や呪いなどが相手でも軽々と患者を助けられます。


 その上細胞の老化を遅らせたり未来の病気を予防したりと、恐ろしく多彩 な治癒魔術を容易く扱うことができます。


 しかも極めてローコストなので、大量の人々を救うことができます。



 注意点は、治療相手が自分の場合はスキルが働かないので、本来の力量で の治療しかできないことですね。また死人を生き返らせることはできません」




 ......おお!それは凄いぞ!


 えっマジでいいの?相当強力だよな?



 自分の治療には効果ないのは要注意だな。


 能力の特徴だから仕方ないのかー。



 老化、マジで止めたいんだけど。マジで。マジで。




 死人を生き返らせられないのは仕方ない。


 そんなこと、神にだってできないだろう。




「具体的にどんな治癒魔術が使えるのかは……申し訳ありません。


 ガイダンスの目録を参照頂いてよいでしょうか」



「ああ、わかったよ。


 それはもう仕方ないから、そんな顔するな」




 あのムゥが流石にバツが悪そうだ。


 なんだか気の毒になってつい甘く接してしまう。


 いや本当は許していいことじゃないよなこれ。




「召喚魔術についても効果は絶大です。


 普通に魔物を召喚した場合でもその性能が劇的に向上し、また燃費も非常に良いため大量の魔物を召喚できます」



「おおー。


 そういえばサラの村を復興させた時、めちゃくちゃ有能なゴブリン達を召喚しちゃったんだよね。


 あれホントきもかった。でも凄い能力だな」



「いえ、この能力の目玉はここからです」




 お?まだあんの?


 テンション上がっちゃうね。




「なんと!


 召喚術士がこの能力を発動すると!


 他では召喚できない新種の魔物が召喚できるのです!」




 ……へえ。




「すげーじゃん。


 うん、凄い凄い。いい感じの能力だ。


 超便利そうじゃん。


 新種かー。きっと面白いのが色々いるんだろうなー」



「いえ、そんなマイルドなリアクションする代物ではありません。


 もう、ホント凄いんです。


 いつだったか同僚達と一緒にカタログ見て全員でドン引きした覚えがあります。



 その日皆んなでカツ丼食べに行く予定が、テンション下がり過ぎて蕎麦に変更したレベルです」



「天界の人達ってそういう食生活なの?」




 妙に俗っぽいなぁ。




「さあさあご主人様。


 早速ガイダンスを閲覧してみて下さい。


 Ctrl+F で『情報収集』や『隠密』などを検索して領主の悪行を調査する駒を確保し ましょう」



「もう領主が悪玉って事は確信しちゃってるんだなあ」




 とは言え俺も気になるもので、言われるがままに脳内を検索してみる。



 ……うーん、独特な感覚だ。


 頭の中に確かに情報はあるのに、意識を向けなけ ればそれに気づけないというか。




 しばし検索して俺は絶句した。


 ......なんじゃこりゃ。 マジなのか。


 何かの 間違いではないのか。




「なんかさ、『透明・無音・無臭・高速機動・壁抜け・感覚共有ゴブリン』ってのが出てきたんだけど......」



「素晴らしい性能ではありませんか。


 それを100体ばかり召喚して領主の館を潜入調査させればどんな悪行でも証拠を掴めますね。


 おかげで午前中には事件解決に至れそうですね。



 よかった。今日は昼から 強く雨が降るそうなので」




 そんな買い物でも済ますような感覚で言われても。


 ってかなんだこのゴブリン(驚愕)!?



 流石に便利とかどうとかの前にドン引きが先に来る。




 身もフタもないにも程がある。


 ゴブリンって付ければなんでもいいと思ってんじゃないか。


 これがアリなら何でもアリじゃねえか。



「何しろSSSS SSS級ですから」というムゥの補足を受けても飲み下せない。




「でもさあ、なんの根拠もないのに領主の館にこんなのけしかけるってのはどうなんだ。


 これなら確かにバレないだろうけど、その行為自体が犯罪的っていうかさ」



「ご主人様。


 捜査というのは決め付けてかかり、間違っていたら「ごめんなさい」でいいんです」




 椅子の上で猫背で体育座りするような妙な体勢でムゥがそう言う。


 ちょいちょい発想が犯罪者寄りなんだよなぁこいつ。




 とは言え、実は俺の中でも領主が気になっている点がないでもない。


 疑っているというレベルではないが。



 まず村が魔物に襲われ始めた10-15年前というのが、現領主が就任した時期と重なっている事。



 また村を人為的に魔物に襲わせているのならば、召喚術士が魔物を使役している可能性を疑うのが最も自然であること。



 また、何処かの村が流行り病の被害を受けた場合、最初にその情報を得る のは領主の立場であること。



 逆に特定の村に人為的に流行り病を蔓延させる となると、しかもそれが発覚しないように実行するとなると、かなりの力の 持ち主でなければ不可能なこと。


 それこそ貴族や大商人、広域指定の犯罪組織など。




 こんなのは言いがかりだ。


 根拠とも言えないし、推理の内にも入らない。



 本当に領主が悪行を働いている可能性など、現時点では1%もあるかどうかというところだろう。




 とは言え、今の俺にはそれを調べる方法がある。


 それも相手に迷惑をかけず、不快にすらさせずに。



 私的空間を覗き見するというそれ自体が悪行なのは間違いないが、もしこれで何らかの犯行が未然に防げるのなら......いや、どうかな。




 自問自答は長く続いた。


 潜入調査をしてはならない理由に対して多種多様 な言い訳をぶつけ、結局はゴブリンを送り込む方を選んだ。



 もし誰かに、社会正義を言い訳に自分の好奇心に流されただけだろうと言われたら、全く反論する自信はない。




「そうと決まれば善は急げです。


 100体のゴブリンを召喚するのですから、ここでは手狭ですね。


 街の広場に参りましょう」



 ムゥに手を引かれて宿を出た。


 こいつに振り回されているなんて言い訳はするまい。


 決めたのは俺だ。



 そう思って広場で例の透明・無音・無臭・高速 機動・壁抜け・感覚共有ゴブリンを大量に召喚する。




 こいつら本当に見えない聞こえない臭わないから周りの人はゴブリンの出現に全く気付かない。


 はたから見れば突然俺がブツブツ詠唱しだしたみたいで気持ち悪い人だと思われてるだろう。


 悪目立ちしちゃうなぁ。




「なんにせよ、果報は寝て待てだ。


 そこのカフェで朝飯食いながら奴らの報告を待つことにしよう」




 そう言って俺は適当に注文をすませる。


 カフェオレと、サンドイッチでいいか。



 ああ領主様、悪い事なんてしてないでくれよという思い。


 逆にここまでやったんだから悪事を働いていてくれないと困るなという思い。



 それらがない混ぜになった複雑な心境での食事はロクに味を感じることもできなかっ


 た。




 ゴブリンを放ってわずか1時間後。


 もたらされた報告は思ってもいないものだった。




「行くぞ、ムゥ。


 今すぐ領主の屋敷に出向いてやる。


 荒事になるから気を引き締めてくれ」




 カストール伯爵。


 貴方が善なる統治者であると信じていたかった。


 だが、俺の、領民の信頼は裏切られた。




「おお、素晴らしいですねご主人様。


 その即断即決の姿勢ははきっと日間民にも......ひっ!?」




 言葉の途中でムゥが悲鳴をあげて黙り込んだ。


 なんだ、俺の顔に何か付い ているのか。


 ああ、俺の激怒が表情に浮かんでしまっていたのか。



 こんな顔はこいつには見せたことがなかったな。


 だが仕方ない。




「俺は怒っているよ。


 許さないぜ、あの領主。


 こんな凶行はのさばらせておくわけにはいかない。



 今すぐ攻め込んで解決するぞ。


 昼から雨が降るんだったか?

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