第13話 なにもかも月島さんのおかげだったということに


「待ってよケビンお兄ちゃん!ハアッハアッ!」



「待たないよーだ!エレナは家で本でも読んでなー!」




......また子供の頃の夢か。最近妙に思い出すな。




ガキの俺を追いかけてるのは妹のエレナだ。


体が弱くて病気がちだが、いつも俺を追っかけて外で遊びたがったっけ。



俺はそれが鬱陶しくて、いつも妹を置き去りにして遊びに行っていた。


今思えば優しくないガキだ。




「こらっケビン!どうしてエレナちゃんに意地悪するの!」



「げっ!システィーナ姉ちゃん!」




突然現れたワンピース姿の少女に、俺がポカリと拳骨を食らっている。


あったなあ、こんな事。




サラサラの黒髪、クリクリの目。


活発そのものという風情だがどこか育ちの良さを感じさせるその少女は、近所に住むシスティーナ姉ちゃんだ。


俺より4つ程歳上で、あの時は凄く大人だと思ってたけど、こうしてみると全然子供だな。




「エレナちゃんに謝りなさい」



「......俺、悪くないもん!」




子供の頃、システィーナ姉ちゃんに怒られるのが何より嫌だった。


父さん、や母さんみたいに怖くはないけど、憧れのお姉ちゃんに嫌われるのが怖かった。



俺だけじゃない、近い歳のジャリどもはみんなシスティーナ姉ちゃんが初恋の人だったんじゃないかな。




「うわーん、システィーナお姉ちゃーん」



「よしよし。エレナちゃんは可愛いねえ。


ケビンなんかほっといて、あっちでお姉ちゃんと一緒に遊ぼ!」



「あっ!ズルいぞエレナ!」




たしか、俺が10歳の時にどこかの貴族様の嫁に貰われてったんだっけ。


あの時は随分泣いたなあ。



でも、あの後すぐに村が魔物に襲われて壊滅しちゃったんだ。


そう思うと、すんでの所で助かったのか。



今頃どこでどうしてるかな。


幸せでいてくれるといいんだけど。



もうお互いおっさんおばさんか。


いつか、会って楽しく話せたらいいな。



――




「犯人はラディック・カストール伯爵閣下ですね」



「......は?」




藪から棒に何言ってんだこいつ。



朝食をとろうと宿の食堂に入った瞬間、 既に食べ終えてコーヒーを飲んでいるムゥが唐突にそう言い放った。


おはようよりも先に出る言葉がこれだったんで、流石に頭の回転が付いていかない。




「おはようございますご主人様。


昨日お話頂いた、魔物による村の襲撃事件。


その黒幕はラディック・カストール伯爵殿下と断言します」



「......いやいや、お前さん。何言ってるんだよ。


何の為に領主様がそんなことするんだよ」



「わかりません」



「はぁ?


何でそれで領主様が犯人だってわかるんだ?」



「他に登場人物がいないからです。


実質的に1分の1の選択ですね。


いくらなんでもここから新キャラクターが登場してそれが黒幕ですだなんて迂遠で、 アンフェアなことはしないでしょう。


さしもの日間民もそれには黙っていませんよ」



「なんだその理由は!


いるよ!他にも一杯人はいるよ!」



この宿にも街中にもギルドにも色んな人がいただろう!


そもそも俺らの会ってる人に犯人が含まれている保証なんてないだろうが!



またそんな理由かよ!


日間民はお前のなんなんだよ!


むしろお前は日間民 のなんなんだよ!




「描写されていないキャラクターは存在しないのと同じことです。


大穴として勇者アレストが黒幕の可能性も考えましたが、まあないでしょう。


ここで激突するにはストーリー的な必然性が弱すぎますし、何より追放の件で十分ヘイトは足りています。


ここで余計な要素を足したところでボコした時の味わいが取っ散らかるだけです。


今更そんなヘイト管理ミスはしないと信じたいところですね」



「どういう視点でモノを考えとるんだ」




お前精神状態おかしいよ......。




「ああ、あとはハーフエルフの受付嬢がいましたか。


でもあれはチーレム要員でしょう。むしろ先にこちらに粉をかけてはいかがでしょうか。



あれは上玉ですよ。


結構な美少女ですし、おっぱいもなかなかにバンビエッタ・バスターバインではありませんか」



「言い方!表現!」



お下品過ぎるよこいつ!



「とは言え奥手なご主人様にはなかなか即断即決は難しいかもしれませんね。


もしもどうしても辛抱たまらなくなったら私にお声がけ下さい。


あの娘の姿で一通りのプレイにはお付き合い致します。


ご主人様を性犯罪者にするわけには参りませんので」



「夢のような存在なのかよお前は!?」



【朗報】全人類の願望、ここに叶う。



いやいやいや、人としてどうなんだそれは。


虚しさと罪悪感がハンパなさそう。


もう(本人に合わす顔が)ないじゃん。




「話を戻しますが、村民虐殺糞野郎のカストール伯の尻尾を掴む為に今すぐにでも行動を開始したいので、朝食を手短に済ませて頂きたいのですが」



「もう完全に決め付けているんだな。


調べるも何も手がかりも何もないじゃないか。


具体的に何をどうするつもりなんだよ」



「そんなものどうにでもなるのではないでしょうか。


ご主人様にはSSSSSSS級スキルがあるのですから」



「SSSSSSS級スキル……?」



SSSSSSS級スキル……?


SSSSSSS級スキル......なんかどっかで聞いたような......。



「あっ、ああああ!アレか!


あったなそんなん!」




完っ全に忘れてたわ!完っ全に忘れてたわ!


信じらんねえ!なんでこんな 大事なことを忘れられるんだ!


自分にひくわ!うわ......おっさんの記憶力ヤバすぎ......?




「ていうか、未だにその能力の詳細聞いてねえぞ!


教えろよ!今すぐ教えろよ!」



「怒鳴り散らさないで下さいよ騒々しい。


徳が下がりますよ?それこそがご主人様の能力の最重要ポイントなのですから」



「徳......?」




オウム返ししてしまった。




「はい。


ご主人様のSSSSSSS級スキル”情けは人の為ならず”は、徳の高さをパワーに変える超ウルトラハイパースキルです。


具体的には、これまでの人生で行ってきた人助けの総量がパワーに変換されるという能力です。


ただしそのパワーが発揮されるのはさらに人助けをする時に限られます。


まさにご主人様の為にあるようなスキルですね」



「人助けが、パワーに?」




ちょっと具体的な効果が想像できない。


でもなんだか俺にとって凄く有用 な能力な気がするぞ?




そういえばサラの村を復興させようとした時、凄いパワーが発揮されたな。


あれがこの能力の効果ってことなのか。




「人はお金がなくともありがとうを集めれば生きていけるという理念を体現 した能力ですね。


関係ないですが、なぜブラック企業の経営者は発展途上国に学校を作りたがるのでしょうか」



知るかよ。


従業員に基本給と社会保険料と時間外手当と賞与を十分に支給 してなお余裕があるから社会貢献したいだけなんじゃないか?(すっとぼけ)



「あれ、でもそれだと、アレストのパーティにいた時はどうなってたんだ?


魔王退治っていう広い意味での人助けをずっとやってたと思うんだけど。


あの時はまだ能力に目覚めてなかったってことか?」



「いえ、今回の覚醒はあくまで能力が表に出たというだけで、その走りのような効果はずっと発現していたと思いますよ?


実際勇者達といた頃は破竹の快進撃だったのでしょう?


ご主人様のスキルはパーティメンバーにも効果を及ぼしますので」



「えっ。でもあれはアレストの能力のおかげで」



「ノンノンノンノン。


大半はご主人様の能力の効果です。


勇者?光の加護? そんなものはSSSSSSS級スキルと比べれば消費税のようなものです。



彼らもそろそろ気付いている頃でしょう。


これまで自分達が魔王軍と順調に戦えていたのは、なにもかも月島さんのおかげだったということに」



「そうだったのか......月島?」



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