第8話 またオレ何かやっちゃいました?
冒険者の街、ベルダイン。
俺がアレストと出会うまで、結構な期間活動拠点としていた街だ。
初心者から上級者まで色とりどりなクエストを取り揃え た大手ギルドが所在している。
当分はここを拠点としよう。
簡単な手続きを済ませて街に入る。
ああ、長旅の疲れがどっと出てきた。
サウナ入って生ビール飲みたい。おっさんはすぐ疲れるんだ。
「さあさあ早速冒険者ギルドに向かいましょう。
きっとご主人様にわからされるために産まれてきたチンピラ冒険者が今か今かと出番を待っていますよ。
因縁を付けられたところをボコスカにイワして日間民の支持を集めましょう!」
訳の分からんことを言うムゥに押されて冒険者ギルドに歩きだす。
まあいい。
おっさんになると自律心が溶けてなくなってるからこうして引っ張ってくれる人がいないと無限にサボっちゃうんだよね。
懐かしのギルド。荒くれどもの巣窟よ。
俺は帰ってきたぞ!
「うんうん全然変わってない......いや、すげえ変わっちゃってるな」
昔は木造の小汚ない建物で、施設内では昼間から安酒を交わすごろつきどもで溢れていた。
タバコの煙が終始モクモクと充満し、先輩冒険者が新人を顎で使い、その代わり人生訓を指導する。
ウェイトレスの嬢ちゃんに軽いセクハラをしつつも一線を越えた乱暴はしない。
横暴で陰険な先輩にイビられて、いつかあいつらを見返してやると同期冒険者と慰め会う。
厳しくもどこか暖かい、そんな空間だったんだがーー
「冒険者ギルドというのは思ったより清潔な場所なのですね」
ムゥの言うように、たった4年ですっかり様変わりしてしまっていた。
清掃の行き届いたリノリウム張りの床にはゴミ一つ落ちていない。
壁の各所の 張られた禁煙の張り紙。
昔は乱雑に貼り付けられていた掲示物も、しっかりと整理されている。
俺が新人の時は何か調べようとしても全然どこを見ればよいかわからず、先輩に凄まれながら質問して、見返りのタバコ銭を巻き上げられたもんだ。
これなら自分で簡単に調べられるだろう。
テーブルでは真面目そうな若手冒険者たちが資料を広げて熱心にクエスト攻略の打ち合わせをしていた。
面食らいつつも席について生ビールを注文したところ、「アルコール類は 17時以降の提供となっております」とすげなく断られる。
仕方なくソーダ水を注文した。
おかしい。なにかがおかしい。
「うーん、昔はこうじゃなかったんだけどなあ。すっかり変わっちまったなあ」
「よいことではありませんか。
皆さん熱心にクエストに臨んでおられるようですし。
情報も整理されて効率的ではないでしょうか」
「そうやってなんでも効率効率言うけどさあ。
そればっかじゃ良くないと思うんだよね俺は。
見ろよあいつら、どいつもこいつも同じ装備の同じ髪型。自分の頭で考えるってことをしねえんだよ今のやつら。
これじゃあ本当の冒険者は育たねえよ。
俺らの時代はサァ、厳しいシゴキに耐えてサァ」
「いいですねぇ。俄然おっさんらしくなってきましたよ。
昨今の名ばかりのおっさんモノとは一線を画す確かな気骨を感じました。
流石ですわご主人様。なかなかできることじゃないよ」
ムゥの辛辣な皮肉が俺の精神に打撃を与えた。
うっ......、確かに今のは老 害丸出しだったな。
いかんいかん、反省。今の俺はイチからやり直す立場だ。
Re.ゼロから始まる冒険者生活ってやつだ。
謙虚、堅実をモットーに生きていかなくては。
「とはいえ確かにこれはいただけません。
このまま何の事件も起きないと客が逃げてしまいます。
ここはひとつ私が日間民の喜びそうなイベントを起こしてきますよ」
「おいやめろ。なにもするな。
俺は受付で冒険者登録を済ませてくるから、大人しくしてるんだぞ」
フラグしか感じないね!
とはいえ手続は必要だ。
俺は備え付けの申請用紙に必要事項を記入し、受付に持っていく。
応対してくれたのは若い受付嬢だった。
前髪ぱっつんの丸眼鏡の美少女だ。
耳が長いからエルフかな?いや、先端が丸いからハーフエルフか。
おっぱいもバインバインで大変よろしい。
「すみません、冒険者の再登録をお願いします。昔退会して、もっかい登録し直したいんですけど」
「はい、どれどれ......ええっ!
あのケビン様ですか!?”聖者の行進”と名高いあのケビン様!?」
受付嬢の大声に、にわかにギルドがざわつく。
あらら、知られちゃってる?
やれやれ参ったなー目立ちたくないんだけどなー。
またオレ何かやっちゃいました?
「あの、『世の中にはいて欲しいけど結婚はしたくない冒険者ランキング』10年連続1位の!?」
うーん、初耳ですねぇ。
評判悪すぎですねぇ。
てかなんだそのピンポイント過ぎるランキング。
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