第7話 とてもよいお考えだと思います
快晴の草原を貫く街道。朝から街に向かって歩き続ける。
今日中に街に着くといいな。
「ところでご主人様。
聞きにくいことを平気な顔で聞いてもよろしいでしょうか」
「平気な顔は余計だけど、いいよ。なんだよ」
大体予想は着くけどね。
「いえ、ご主人様はどうしてお一人で行動されているのですか?
村での活躍を見るに、中々の実力をお持ちのご様子。
なのにその歳まで行動を共にする安定したお仲間などできなかったのでしょうか?」
「やっぱりその件か。本当に平気な顔で聞くなあ」
「加齢臭のせいでしょうか。
でもそれなら近い年代のお仲間と組めば問題ないのでは。
周囲から見れば地獄絵図ですが。
それとも他人の臭いは気になるものでしょうか?」
「体質のことは言うなや!
いくらなんでも酷すぎるだろ!」
それから俺はムゥに、これまでの歩みを話した。
四年程前まではフリーの 冒険者として、色んなパーティに出たり入ったりしてまあまあ上手くやれてたんだ。
みんなレベルが上がると金や名声や実績を求めてハイレベルなクエストを求め出した。
でも俺は自分の力を、弱い人や恵まれない人達の為に使いたかった。
たとえ見返りが全然なくても。
そんな俺と他の冒険者は方向性が合わなくなって何度も別れて来た。
大体は理解してくれて、円満に脱退したけどね。
「音楽性の違いというやつですねぇ」
「訳の分からない水を差すな」
それで四年前に、まだまだヒヨッコだった勇者アレストに出会った。
右も左も分からず無謀な特攻を繰り返す彼に、冒険のイロハを教えてやった。
その時は凄く懐いてたんだぜ?マジで。
彼の”光の加護”の恩寵もあって、パーティはかつてない速さで強くなっていった。
俺も、魔王を倒して世の中が平和になるならと、夢中になって協力した。
でも所詮はしがないサポート係。
成長についていけなくなった俺は、あっさりと捨てられた。
”光の加護”の恩寵が無くなった今、自分がどの程度この世界に通用するかわからないのが不安だな。
「zzz...はっ!ナルホド。事情は完璧に理解しました」
「今寝てなかった?」
「恨んでは、いらっしゃらないのですか?」
ムゥがじっと俺の目を見て聞いてくる。
「初心者の頃は散々お世話になっておきながら、用が済んだらティーバッグのようにご自分を捨てた勇者達のこと。
ご主人様はお恨みにはなられないのでしょうか」
「......」
どうにも言葉に詰まる。
そりゃあ、ムゥの言うこともわかる。
俺自身、まだ気持ちが整理できてない。
でも。
「恨んでないよ。
いや、ムカついてはいるけど、まあそれは抑えられるよ。
そもそも無理があったんだ。
年齢も考え方も才能も違うもの同士、これからを生きるあいつらとこの先のない俺。
ずっと一緒に居られる訳がない。
だから、本当は頃合いを見て俺の方から離れるべきだったんだ。
あいつらの成長を見るのが楽しくて、つい長居しちゃったよ。
だから、嫌な役目をアレストに押し付けちまった」
カッコつけ過ぎか?
でもまあ、あいつらも若いからな。
ああいう言葉が出 ちまうのも仕方ない。
それでもあいつらは言い過ぎだと思ってるけどな!
「そら嘘や」
不意を突かれたせいか、一瞬それがムゥの発言だとわからなかった。
冷めきった真顔でこちらを見ている。
「そら嘘や、そら嘘や、そら嘘や、そら嘘や」
バレリーナのように両手で頭上に輪っかを作ってクルクルとその場で回転しつつ俺の発言を責め立てる。
同じ台詞を同じ口調で4回繰り返されるのが死ぬ程気持ち悪い。
最後にピタッと見事なポーズを決めて、ムゥは更に言葉を続ける。
「それは嘘ですよご主人様。
ご自分の気持ちに蓋をしてはなりません。
悟ったフリなんてやめましょうよ。
これ以上傷付くことが怖いだけでしょう?
大丈夫です。私が付いています。
目にものを見せてやりましょう。
復讐は 徹底的にやらないとブクマも伸びませんよ?」
「いや、復讐なんてしねえよ!
そもそも勇者をやっつけちゃったら魔王を倒せなくなって困るだろ。...ブクマ?」
訳の分からん単語が聞こえたがまあ一旦それは置こう。
「ご主人様は三勤務交代制という言葉をご存知でしょうか」
「三勤務交代制?いや、聞いたことないな」
「ふむ、やはり知らんか。私の作った言葉だ」
「お前の作った言葉を俺が知ってる訳ないだろうが」
マジで何言ってんだこいつ。
「勇者という存在は、魔王ある限り常にこの世に一人産まれます。
もしも今の勇者が死ねば、必ず一年以内に新たな勇者が産まれ、”光の加護”を授かるのです。
まるで、交代するかのように」
「......そうなのか?初めて聞いたぜそんなこと」
でも、天界出身のムゥがそう言うならそうなんだろう。
「はい。ですので、勇者が死んでもさほど問題はありません。
次代の勇者が 成長するまで、魔王を倒すのに時間がかかるというだけです。
だからジャンジャンバリバリやっちゃいましょうよ。
Let's復讐!痛覚を持って産ま れて来た事を後悔させてあげましょう!」
いやいやいや。その理屈はおかしい。
「復讐ってかさ。
仕返しというか、見返してやりたいと全く思わないって言ったら嘘になるけど、忘れることにするよ。
恨み続けて生きるってのは精神的にキツい。俺には合わねえや。
彼らが無事に魔王を倒してくれることを祈りつつ、俺は俺が幸せに生きてくために頑張っていくさ」
言ってるウチにちょっとスッキリした気分になってきた。
ムゥに反発して 極端な事言っちゃってるかもしれないけど、これが嘘ってわけじゃない。
するとしばらく黙り込んだムゥが、フッと柔らかな笑顔を見せた。
「とてもよいお考えだと思います」
うっ......。
その微笑みがあまりにも暖かくて。あまりにも優しくて。
迂闊 にも動揺しちゃったじゃないか。
待て待て。見てくれに騙されるな。こいつは異常な女だ。
これはムゥに一本とられたかもな。
自分の本音に気付かせる為の療法だったのかも。
「復讐モノは流行りのピークを過ぎた感もありますし、ハマるハマらないが 博打になりますからね。
その点スローライフは底堅い人気があります。
日間民に好かれるためには無難な選択ではないでしょうか」
「ニッカン......?今なんつった?」
「間違っても建国に手を出そうなどと考えないで下さいね。
内政やらなんや ら調べ出したらキリがないのですから。
整合性が気になって筆が重くなるのが一番最悪なんです!
半エタ作品を頑張って更新しても誰も読んでなんてくれませんよ!?
書けもしないものに挑戦しようなどとくれぐれも考えないで下さい!」
「誰に向かってなんの話をしてるんだ!?
頼むから俺にわかる言葉で話してくれ!」
そんな訳の分からんことを話している内に辿り着いた。
冒険者の街。懐かしのベルダインに。
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