第4話 最後のが一番ひいた

『ごめんねケビン。お前をずっと、守ってやりたかった』



どこか懐かしい声が優しく俺を包む。


『母さん!嫌だ!死んじゃ嫌だ!』


聞き覚えのある、幼い声が響いた。

......これは、俺の声?ガキの頃の自分か?



土砂降りの荒地の中、村を襲って来た魔物達から一家で必死に逃げていた。


そうだ、最初は病気の妹、エレナが奴らの手にかかったんだ。

次は父さんが俺達を逃すために囮になった。

その後母さんが俺を庇って傷 付いて、それでも2人で必死ににげて。

それで。それで......。



気付けば1人で荒野を歩いていた。

でも所詮子供の足だ。

あっさりと魔物 に追いつかれた。

これまでか。そう思った時--



ザシュッ。

突然現れた誰かが、次々と魔物達を斬り伏せた。


......割と若いな。

あの時は凄く大人だと思ったけど、10歳だった俺と一回りも離れてないだろう。



「助けてくれたの?おじさん」


「おじさん!?ひでえな、ははっ。

大丈夫かい坊主。

家族か誰か、一緒じゃないのか」



じっと黙り込んだ俺に、その男は悲しげな、それでいて優しい目を向けてくれた。



「坊主、名前は?」


「......ケビン。おじさんは?」


「俺か、俺の名前は......」



ーーー



「夢か......」



ズキズキと痛む頭を抱え、俺は体を起こした。


30過ぎてから飲んだ翌日のダメージがすごいんだよな。

治療魔術と解毒魔術を使って体調を回復させる。

やっぱ便利すぎるわこれ。



村人達はみんな寝こけているが、さっさと起き上がって行動を開始する。

歯を磨き、顔を洗い、残り物らしい飯をさっと食う。

そして村の広間に移動 して、魔術を発動する。



「建築ゴブリン、採取ゴブリン、清掃ゴブリン、開墾ゴブリン、それぞれたくさん召喚!」



村の復興の為の労働力として、大量のゴブリンを召喚するつもりだったんだが......。



ズラララララララっ!



多すぎね?これ。

こんなに召喚したかなあ。


っていうか一人一人がやたらと精悍な顔してるような......。



「ご命令を。マイマスター」



えぇー。喋り出すんかい。

ていうかなんだそのキャラ。

できる男のオーラ 出しすぎだろ。



「あ、ああ。

んじゃあ村を復興させるために、建物の修復と村の回りに柵を立てて。

見張り台設置と、畑の手入れ、見開墾地の開拓に食料庫の補強。

あとは今後のために収穫されちゃった食料を保存食にする作業を・・・・・・」


「了解しました。聞いたなみんな!全員で一致団結して午前中に終わらせる ぞ!」


「オオッ!」



話の途中で全員が統率された動きで走り出した。

その仕事、迅速にして精緻。


こちらから指示しなくとも自分達で考えて行動し、判断を要することは 理路整然と論点を整理した上で報告・連絡・相談し、俺の言葉の裏にある考えまでも考慮した上で最善の動作であらゆる問題を解決した。

有能すぎてひくわ。



「終わりました!マスター!」


「あ、ああ。お疲れさん」


本当に午前中に全部終わらせたよこいつら......。


数日はかかると思ったのに。

俺自身は状況が全く理解できないが、村人は大興奮のるつぼだ。

昨日にも増して俺を称賛する歓声が鳴り響いている。

いいのかなぁ......。



「では、おさらば!」



ハスキーな声と明瞭な口調でそういったかと思うと、数百体のゴブリンが一斉に自分の首をハねた。

その体が青い粒子のような魔素に分解されて大地の養分と化す。

最後のが一番ひいた。



「大英雄!大英雄!」


「ケビンとかいうこの世界が産み出した一滴(ひとしずく)の奇跡」


「なんだ、ただの神か」



デタラメな称賛を背に、俺は農村を出て街に向かった。

散々村に留まるように引き留められたが、なんとか断りきった。



あの用心棒のような生き方も悪くはないが、俺自身今朝の現象を理解できていないので居心地が悪い。


そういえば、昨日レベルが上がったんだっけか。

いや、それにしてもあれは異常だ。



......なんか同時に別の情報が頭に入ったような気もするけど。

思い出せん。



酒も入ってたし、年いくとホントに記憶力がやばくなってくる。

一昨日の昼飯とか絶対思い出せん。



ーーケビンよ、能力です。貴方はSSSSSSS級能力に目覚めたのですーー



うおっ!なんか頭の中に声が!

ものっそい気持ち悪い感触!



ーー能力の使い方は、頭の中にガイダンスをインスコしてあります。

紙にすればA4で2千ページ(両面)ぐらいの仕様書なので、読破した上で使いこなしてくださいーー



なんかすごい不親切なことを言われている気がするんだが気のせいか?

一生使いこなせる気がしませんぜ。

なんだこれは、神かなにかなのか。



ーー仕方ありません。では、ガイドをつけましょうーー



そんなメッセージが頭に響くと、目の前に強烈な光が集まる

うおっまぶしっ。



光がはれると、そこには一人の少女がいた。



黒のショートカットで、黒を基調としたやけに露出度の高い服を身に纏っている。

特徴的なのは頭とお尻だ。

まるで黒猫のような耳と尻尾が生えている。



「はじめまして、ご主人様。

女神様より、ガイドとして使わされました。

これよりご主人様の助けとして仕えさせていただきますので、よろしくお願い致します」



そう言って俺に向かって静かに一礼する。


ドキっとした。

ちょっと信じられないぐらいの美少女じゃないか。



「よろしくお願いします、だニャン」



なんか付け足してきた。

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