第2話 なにもかも俺がなんとかしてやる!

「おじさん、助けてくれたの?」


姉と思われる娘がこわごわと話しかけてきた。

14歳くらいか。



「ああ。大丈夫か君たち。怪我があれば直してあげよう」


「ムリだよ。俺達にそんな金はねーよ!」



弟と思われる少年が突っぱねる。

12歳くらいだろう。


その態度に俺は心を痛める。

拒絶されたことにではない。

この状況で俺を拒絶しなければならない、その少年のそれまで受けてきた仕打ちが悲しいのだ。



「大丈夫、金なんか取らないよ。

ほれ、治癒ヒーリング

どうやら、足を斬られたみたいだな」



「嘘だ!そんなやつ今までーーえっ、治ってる!?」


「エド!よかった...!

おじさん、なんとお礼を言ってよいのか。

お返しできるものといったら、とても少ないですが」



そう言ってポケットをまさぐり始める娘。きっと有り金を払おうとしてい * るのだろう。俺は片手を上げてそれを制する。



「いらないよ。俺が勝手にやったことなんだから。

それより、君たちどうし てこんなところにいたんだ。

薬草なんて、ちゃんと冒険者に依頼して採取しないと危険じゃないか」



そういうと、姉弟は困ったような表情で顔を見合わせた。

おずおずと、姉の方が話し出す。



「助けてください!私たちの村が、お母さんが危ないんです!」



ーーー



姉弟ーー姉のサラと、弟のエドの話はこうだった。


二人が暮らす農村を、突然流行り病が襲った。

幸いにして二人は無事だったが、彼女らの父を含む何人もの男でが病に倒れ、さらには村の用心棒だった元冒険者の男まで倒れてしまった。



そこへ武装したオークの群れが図ったようにやって来た。

まともな抵抗もできずに村は蹂躙された。

家は壊され、畑は荒らされ、保存食も皆奪われた。


そればかりか、村の女達もさらわれてしまった。

サラ自身も、母が身代わりになってかくまってくれなかったら連れ去られるところだったそうだ。



「だから、薬草が必要だったんです。

これで用心棒の先生の病気を直して、お母さん達を助けてもらわないと!

でも、先生だけでは勝てるかどうかわかりません。

オークと戦ってくださいとは言いません!

どうかおじさん、村の大人達をその魔法で治してください!

みんなで戦えば、きっと!」



「うーむ」



おれは顎に手をやって考え込んだ。



もしこの話を街の冒険者ギルドに持ち込んでも、黙殺されるだろう。

当然だ。村の連中は財産をなにもかも奪われているのだ。

対価を払うアテがない以上、命を懸けて村に行く者などいない。


ならば領主にでも掛け合うか?

無駄だろうな。

ちっぽけな農村一つのために兵を動かしても、コストとリターンが見合わないとして見捨てられるだろう。


勇者ならばーーどうだろうな。

このサラはよく見るとなかなかの美少女だ。

誠心誠意頼み込めば、アレストの奴も言うことを聞いてくれるかもしれない。下心をもって。

弟の方が頼んでもダメだろうな。



「おじさん、どうか!」



藁にもすがるような目で俺に懇願してくるサラ。

今俺が考えていることな どとっくにわかっているのだろう。

むしろ、すでに方々で断られたあとかもしれない。

頼みつつも、諦め半分の心境だろう。


だが。



「俺に任せろ。

病気の人たちもさらわれた人たちも村も食料も。

なにもかも俺がなんとかしてやる!」


俺はそのために故郷から旅に出たのだから。



ーーー



3時間程歩いてたどり着いた村の状況は想像以上に酷かった。

家々は焼け落ち、村人は傷だらけで項垂れている。


不潔な包帯で申し訳程度に手当しているが、あれでは処置として不十分だろう。

とにかく不足しているのだ。

物資も、食料も、薬も、人材も。



「色々と聞きたいこともあるけど、まずは怪我をしている人達の治療だな。

その次は病気の人の治療。

用心棒に話を聞いてオークの討伐に乗り出すのは、それからだ」



「ええっ、村人皆んなを治療して下さるのですか?

今村にいるだけでも10 0人近くは要るんですよ!?

街の治療士に頼むと、1人だけでもかなりの金額が取られるのに!」


「大体、1人でそんなに治療できる治療士なんて聞いたことがないぜ。

一人前の治癒士でも1日で治療できるのは10人、多くとも20人は無理だっていうぜ」


「まあ、俺はこういうの慣れてるからね。

本気出せば300人くらいはいけるよ」



ってもその後のオーク討伐に余力残すこと考えると、ここで出し切っちゃうわけにもいかないけどね。



半壊した家々を巡り、怪我人と治療を看て、回った。

幸い、俺の腕なら流行り病も全員完治させてやれた。



「信じられない......こんな人がいるなんて」



サラが何か言ってるが、今は無視だ。

サクサクと村人達をケアして回って、 最後の1人。

用心棒さんに治療をしながらオーク達の話を聞いた。



今回村を襲ったオークは約30体。

全員が武装しており、たとえ彼が健康体でも1人ではちょっと厳しかっただろう。



「大体わかった。

オーク達の拠点は徒歩で6時間ってとこか。

斥候ゴブリン召喚×3!」



俺の詠唱と共に、小柄のゴブリンが召喚された。

戦闘力は低いが、機動性に優れ、かつ術者の俺に即時の情報伝達の特殊能力を持つという優れものだ。



シュババババっ。

目にも止まらない速度でゴブリンが走り出す。



報告を待つ間に用心棒の話を少し聞いた。

彼は引退した元B級冒険者だった。

年齢は俺より少し上くらいか。


普段は村人と一緒に農業とかやりつつ、有事の際には荒事を請け負うって約束で村に住ませてもらってるそうだ。


こういう人は結構いる。

村人との人間関係さえ上手く保てれば引退冒険者 としては良い方のキャリアだろう。

これまでも何度か魔物を追っ払って、そ れなりに村人の尊敬を集めていたらしい。



そんな事をしている内に斥候ゴブリンから報告が入った。

オークの拠点は、 山奥の洞窟。

殺されてもいいから特攻して、敵の数や罠の有無を調べるよう命ずる。


召喚モンスターといっても俺の魔力で作った擬似生命だ。

死という概念はない。



「よし!ありがとう治療士殿!

用心棒の意地にかけて、女達を助け出してやる!」


「待ってくれ用心棒の旦那!

あんた1人に行かせねえぜ!村の一大事だ!

男連中全員で攻め込んでやるぜ!

魔物め、俺の女房を傷つけてたらただじゃおかねえ!」


「治療士の先生、申し訳ないが子供達を見ててくれないか。

厚かましいが、もし俺達が戻らなかったらこの子達を街まで連れて行ってやってくれ」



「ま、まあ待って下さい。みんな、落ち着いて」



突如として盛り上がる村人達を慌てて宥める。

オーク達への憎悪が燃え盛っているのはわかるが、気持ちだけで勝てるのならば苦労はない。


「みんながやられちゃったら、だれが子供達を守るんだ。

街に行けば仕事にありついて生きていける、なんて甘いこと考えてないよな」


「でもよう、先生」


「気持ちはわかる。

でもみんなで攻め込んじゃったら、それに気付いたオーク達はどうすると思う?

間違いなく女達を人質にするだろうよ。

そうなった時、冷静に対処できるのか?

戦闘経験もないあんた達が」」


「うっ......」



黙り込む村人達。



「だから、俺1人で行ってくるよ。

みんなは村を守っていてくれ」


「先生、そこまではさせらんねえ!

俺達の村の問題だ!そんな無茶をさせる わけにゃ......」



そこで俺は召喚魔術を唱える。



「兵隊ゴブリン召喚......」



次々と展開する魔方陣に、村人達の顔が驚愕に染まっていく。



「......×100!」



視界を埋め尽くす様に出現したゴブリン達に、村人達は腰を抜かしていた。



「ざっとこんなもんだ。俺に任せといてくれ」

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