鬼3
「おっと……!」
これが恋の始まりだった……。
と、いうことはないが、登校中の俺は、駆けてきた少女と曲がり角でぶつかった。その衝撃で彼女は尻餅をつきそうになるが、なんとかとっさに手を伸ばし抱きとめる。
「大丈夫ですか?」
片耳のイヤホンを外して俺は彼女の顔を覗き込む。大人しそうだが、とても端正な顔立たの彼女は、昨日告白を断った八上さんであった。
いやはや昨日は大変でしたねぇなんて、冷やかしてやろうと考えた俺だったが、そんなくだらない考えは一瞬で頭から消える。
「大丈夫……?」
今度は真剣な面持ちで尋ねる。
未だ腕の中にある八上さんは小刻みに震えており、顔は蒼白、目には涙が浮かんでいた。
明らかに乾ききった彼女の唇から、絞り出すように、助けてという言葉が出てくる。
「た、助けてください!井上くんが……、井上くんが……!」
そういうと、彼女の駆けてきた曲がり角の向こうへと俺の手を引っ張っていく。
思いのほか力強い手に引っ張られ、訳の分からぬまま角を曲がった俺は、目の前の光景に言葉を失った。
「なに……?」
そこには俺と同じコナン高校の制服を着た男子生徒が地面に仰向けに倒れていた。
多分通学途中だったであろう彼は、ミズノのリュクサックを背負ったままだった。靴はアディダスで、ネクタイは赤だから2年生か。顔は……わからない。知らない、ではなく、分からない、だ。
「……なんだこれ」
彼の顔は全体が焼けただれ、誰なのか分からない状態となっていた。どういう経緯でこうなったのか分からないが、まだそんなに時間がたっていないのだろう。彼の顔からは煙が立ち上り、肉や髪が燃えた嫌な臭いが少しした。
俺はとっさに周囲を見渡すが、他に誰かいるわけでもないし、火の元になりそうなものをない。電線が切れたわけでもなさ……。
「ねえ……」
制服の上着を掴まれ、俺は振り返る。
「どうしよう……?」
そういって八上さんは嗚咽し始めた。
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