鬼1

「空は〜飛べないけど〜♪」

 やはりゴールデンウィークも明けると、だいぶ日が長くなる。夕日のもと、木佐神社のやたら急な石階段を歩いていた。

 時刻はまだ16時半。こんなに早く帰れるなんて、やはり帰宅部は最高である。

 1年生の頃は全員入部ということで部活に入っていたが、2年生になってすぐに退部した。理由は2つ。

 1つは趣味の時間が大幅に削られること。俺のガ○プラ製作と仮面ラ○ダー視聴の時間を奪うなんて言語道断である。俺の趣味を止められるのはただひとり!オレだ!

 そしてもう1つは、入った部活が良くなかった。なぜ俺はそんな部に入ってしまったのだろう。顧問からの強い勧めで入部したが、とんでもない部だった。

 その名は、オカルト研究部。S○S団に憧れた10年前くらいの先輩が作った部で、日々宇宙人との交信を試み、イエティを捕獲しようと励み、河童と川流れしようとする。そんな部だった。まあ、詳細は省くとして、常人の居ていい部活ではないことは確かで、俺はそのことに入部30秒で気づき、1年間耐えるという苦行をこなしてきたのだった。

「翼〜ならあるのさ〜♪」

 あの地獄のような日々を思い出し目を細める。早く廃部すればいいのに……。

「…のさ、俺、気づいたんだ……」

 境内の奥の方から声が聞こえ、歌うのを止めた。

「前からずっと、八上さんのことが頭から離れなくてさ」

 おいおい、人の家で何をしているんだ。

 俺は、足音がしないようにゆっくりと声のする方へ向かった。ちなみにここ、木佐神社は俺の自宅である。

「で、あの、どうしようもなくモヤモヤしたりして……ああ、俺何言ってんだろ……」

 本当に何を言っているんだ。早く帰れ。

 境内の陰に隠れて、こっそりと顔を出すと、そこには昼間体育の授業で楽しそうにハイタッチをしていたあの二人の姿があった。

 確か同級生ではあるが、名前は知らない。ただ、男の方はスポーツマンといった感じで爽やかな、女の方は気が弱そうであるがなんとも言えない華麗さがある、美男美女でお似合いであった。

「あ、あのさ、俺、その、そのさ……!」

 男がモゴモゴと俯く。

 何と腹立たしいのだろう。あのハイタッチといい、美男美女の釣り合いといい、断られる要素がないじゃないか。いいからいいから、そういうのいいから。早く好きです。付き合ってください。っていって早く手を繋いで帰ってけろ。

「よし……!」

 男は覚悟を決めたように拳を握りしめる。何だか見ているこっちまで手に汗握ってしまう。

「八上さん、俺、前から好きでした!付き合ってください!」

 よし、よくいった。これで八上さんの返事は、は…

「あ、えっと、ご、ごめんなさい……」

「「……え」」

 男と同時に俺まで声が漏れてしまう。だってお似合いだったじゃん……。

「な、何で……?」

「そ、その、私、イマイチ好きとかっていいうのわかんなくて、それで……ごめんなさい!」

 目を潤ませながら八上さんはそう答えると、走り去っていった。

「あ……」

 その後ろ姿を呆然と見つめる男。そしてその姿を呆然と見つめる俺。そんな時間が多分30秒くらい続いていた。

「あ…あ……うわあああん!」

 突如男は奇声をあげたかと思うと、八上さんの消えた方へと走り出す。一瞬ではあったが、俺はその瞬間確かに目にした。男が号泣しているのを……

「壮絶ね、これは」

 言葉にならず立ち尽くしていると、背後から非常に楽しげな女性の声が耳に届く。

 そこには、人間離れした美しさを持つ女性が女神のように微笑んでいた。

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