陰陽鬼

@rakusei2

序章

 素晴らしい。とても良い風が吹いている。

 窓の外で行われるグラウンドでの体育を眺めながらあくびをした。男女混合サッカーとは、非常に楽しそうだ。

 それとは反して、今教室内で行われている現国の授業はなんと面倒なのだろう。登場人物の気持ちなんてさらさらわかる気がしないし、まず活字を読む気がしない。ハムレット風に言うと、50分間を寝て過ごすか、内職をするか、それが問題だ。

「お……」

 ビブスを着けたチームがシュートを決めた。得点した男子生徒は、日本代表の真似をして大袈裟にゴールパフォーマンスをしながらチームメイトに駆け寄る。

 男子生徒は少しの間、チームメイトにもみクシャにされていたが、しばらくしてその輪を抜け出すと、一人のチームメイトの方に駆け寄っていく。

「おー……」

 駆け寄った先にいたのは、同じビブスを着けた肩くらいまでのショートカットの女子生徒。2人は少し談笑すると、照れ臭そうにハイタッチした。

「ほほー……」

 思わず口元がにんまりしてしまう。

 これが青春というやつですか。羨ましい。御歳16歳、今までそんな経験したことがない。

「おい、縣!ちょっと……」

 この感動を伝えるべしと、横の席の縣光輝の方を向く。しかし、その視線は障害物によって遮られていた。

「源間くん?」

 赴任当初はマドンナと噂されていたが、実際は若いだけでそんなに美人でもないんじゃないかと言われ始めてきた現国の教師 村上がわざとらしい笑みを浮かべてそこに立っていた。

「いつになったら問題、答えるのかな?」

 どうやら少し前に俺は何かの問いへの回答を指名されていたらしい。村上の背後では、何人かがにやにやと面白そうにしていた。

「えーっと……女の子とハイタッチってどうすればできるんでしょう?」



 きっと今思えば、あの人もこれを窓の外から見てたんだろうな。俺はふとそんなことを思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る