第85話教会本部へ向かいます
「……驚いた。才能あるとは思ってたけど、ここまでとはね」
特訓開始から四日後、俺のピアノ演奏を聞いたサリアが目を丸くしている。
「まるで私自身の演奏を聴いてるみたい。本当に大したものだわ」
「あはは……ありがとう」
思わず愛想笑いを返す。
実際サリアの演奏をコピーしてるからな。
対象の動きを寸分違わずコピー、再現する制御系統魔術『転写』。
シルファの剣技を真似る為に使っていた魔術だが、当然他にも応用は効く。
「でもまだまだ私の劣化版の域を出てないわね。もっと練習を積んであなたなりのオリジナリティを出せるようになればもっと高みが狙えるはずよ。ま、時間もないしギリギリ合格点をあげるわ。ぱちぱち」
そりゃ、動きをコピーしているからね。
オリジナリティなんか無理である。
「おめでとうございますロイド君、サリアからもお墨付きが出ましたね」
拍手をするイーシャ。
ちなみに
イーシャの判定はサリアより随分甘めで『転写』のレベルは十段階で言うと四くらいで合格だった。
ちなみにサリアは十段階中八まで上げてようやくである。厳しい。
そして演奏会当日、俺たちは教会本部へと赴いた。
ちなみに本日は荷物はなし、本部には巨大ピアノがあるらしいからだ。
シルファたちは各々他の黒幕候補を調べているので、来たのは俺とイーシャ、サリアの三人だけである。
鉄格子に囲まれた大きな敷地の中には、幾つもの建物が入っている。
立派な正門には衛兵まで立っていた。
「はぁ、いつ来ても大きいわね。ウチの城より下手したらでっかいんじゃない?」
「流石にそれはないと思いますが……やはり本部は違いますね。ウチの教会と比べると雲泥です」
イーシャのいる教会もかなり大きいが、此処はその十倍以上はありそうだ。
ともあれ衛兵に話しかけ、中に入れてもらう。
敷地内には沢山の信徒たちが集まっていた。
「うわぁ……すごい人だね」
「本部で行う時は大々的に告知しますからね。一般の方も入れるので、たくさん人が集まるんですよ」
「信徒を集めるのも兼ねてるんでしょうね。ったく商魂たくましいったら」
ため息を吐くサリア。
信徒でごった返している大通りを避け、俺たちは衛兵の案内で裏口からぐるりと回って演奏会が行われる本殿へと向かう。
「それにしても立派な建物ですな。坊主丸儲けとはよく言ったもんですぜ。これだけの建物を建てるのにどんだけ金がかかったのやら」
「それだけ広く信じられているのだ。ふふん、無能な魔人には出来ぬ芸当であろう」
「なんだと!?」「なんだ?」
グリモとジリアンが何やら言い合っている。
こいつら仲いいな。意外と気が合うのだろうか。
「やっと着いたわね」
歩く事しばし、ようやく本殿へと辿り着いた。
巨大なドーム状の建物で中には数千人は入れそうだ。
裏口から入った俺たちは控え室に通される。
「準備が出来たら呼ばれるから、適当にしてなさいな」
「緊張してますか? でもロイド君ならきっと大丈夫ですよ。もし失敗しても私たちがフォローしますから」
ちなみに俺は前座で、軽くピアノの弾き語りをすることになっている。
よくわからないがサリアが無理やりねじ込んだらしい。
全く無茶をしてくれるなぁ。
俺はコピーするだけだし問題はないけどさ。
それに考えてみればステージに一人だけの方が動きやすい。
「お待たせしましたー! 演奏会始まりますんで、前座の方は用意して下さーい!」
そうこうしているうちに呼ばれたので立ち上がる。
「あ、呼ばれたみたい。それじゃあ行ってくるね」
「がんばってくださいっ!」
「楽しんでおいで」
二人に見送られ、壇上へ向かう。
俺の登場に観客席に座った信徒たちは戸惑っている。
サリアとイーシャが出てくると思ったのに、俺が出てきたからだろうな。
まぁ俺の狙いは教皇、さてどこにいるのやら。
「……あそこか」
観客席を一瞥すると、その一角、開けたスペースに柔和な笑みを浮かべる祭服を着た老人がいた。
周りに高位の礼服を着た老人たちを侍らせているし、間違いなくあれが教皇だろう。
……おっと、あまり呆けていたらマズいな。
俺は一礼してピアノに座ると、演奏を始める。
――♪
ぽろん、ぽろろん、と静かに弾きながら、歌い始める。
子供向けの簡単な曲だが、サリアのピアノとイーシャの歌のコピーである。
最初は戸惑っていた観客たちも、一気に引き込まれたようだ。
――よし、今だ。
神聖魔術『微光』発動。
術式を弄り、光を出ないようにして放つ。
……だが、観客席では呻き声の一つも上がらない。
もちろん教皇も平気な顔をしたままだ。
「むぅ、自分も確認していやしたが、どいつもこいつも顔色一つ変えやせんでしたね」
「神聖な教会に仕える者たちの中に悪人などいようはずがありません。やはり他の者では?」
ふむ、念のためもう一発撃ってみるか。
今度は気持ち、長めにだ。
しかしやはり数人が瞬きしただけで、誰の身体にも異変は起こらなかった。
そうこうしているうちに演奏が終わった。
ぱちぱちと拍手の音に見送られ、俺はステージを降りる。
舞台袖ではサリアとイーシャが俺を迎える。
「いい演奏だったわよ。緊張もしてなかったみたいね」
「えぇ、えぇ! 驚きました! あれだけの人の前で全く動じないなんて、本当にすごいです!」
「ありがとう。二人共」
でも、目的は達せられなかったな。
怪しい素振りを見せた者はいなかった。
やはりここにいる人間が黒幕ではないのだろうか。
残念だがまた手掛かりを探さなければならないな。
「……初めての演奏があれで、まだ満足していないとは……ふっ、やはり私の目に狂いはなかった。ロイド、あんたなら私を超える奏者になるかもしれないわね」
「素晴らしいですロイド君。成長に何より大事なのは『満足しない事』。あれだけの演奏をして、なおそんな不満そう顔が出来るなんて……あなたなら私を超える歌手になるでしょう」
二人がブツブツ言ってるが、ステージに上がらなくていいのだろうか。
とりあえず皆の報告待ちといったところか。
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