第39話付与術師として試されてます

「よぉしロディ坊! まずはお前の実力を見せてもらう。俺の作ったこの剣に付与魔術をかけてみな!」


 そう言ってディアンは剣を差し出してきた。

 何の装飾もされてない無骨な剣ではあるが、その分しっかり作られている。

 形が良いのは勿論のこと、刃紋の鮮やかさ、混じりっけのなさは相当な技術が必要なはずだ。

 粗悪な剣ってのは歪に曲がり、不純物も大量に入っているからな。

 刃紋なんて勿論なく、そして脆い。

 下手したらただの棒の方がマシ……というひどいものである。

 だがこれは一流の鍛冶師と言える技術だ。

 これ程の技量になるには相当の年月を費やしたに違いない。


「ディアン兄さんは本当に鍛冶が好きなんですね」

「……ッ!? お、親方と呼べと言っただろ!」

「そうでしたね。親方」


 俺がくすくす笑うと、ディアンは腕組みをして顔を背ける。

 ……何だか顔が赤い気がするが気のせいだろうか。


「と、とにかく早くやりやがれってんだ!」

「わかりました」


 付与魔術のやり方は魔髄液に術式を編み込み塗布するだけ。

 ただし術式を増やし過ぎれば武器に負担がかかり、へし折れてしまう。

 これは単純に術式の量だけでなく、金属との相性、魔髄液の純度、その他諸々に影響する。

 正確に武器と術式の許容量を計る事が付与術師としての技量だと俺は思う。

 ……まぁ始めて間もない素人考え。違ったらディアンに正してもらおう。


「では――」


 魔髄液を専用の器へ注ぎ、術式を付与していく。

 この剣なら多分三、いや四枚ってところか。

 ぱぁぁと魔髄液が光り輝いて、付与の術式が完了した。

 ……とりあえずこんなものだろうか。

 ディアンの方をちらりと見ると、眉をひそめて難しい顔をしている。


「おいおいおいおい、信じられねぇ……魔髄液に直接術式を編み込んでやがるのか? 普通は呪符に術式を込め、ゆっくり液に溶かしていくもの。じゃなきゃ混じる前に消えてしまうってのに……余程の大出力でないとありえねぇ! あんな技が出来る付与術師はバートラムにはいなかったぞ……!」


 なんかすごい顔で見てくるが、もしかして間違った手順でやってたかな?

 だったら教えてくれればいいのに、何も言ってこない。

 むぅ、認めたとか言ってたが、やはりまだ試されているのか。


 俺は緊張する手で鞘を抜き、剣の出来栄えを見る。

 四枚の付与術式は問題なく成立している……が、これでは満足してもらえないかもしれない。

 あと一枚、いや半枚ギリで上乗せできる。

 俺は術式を解除し、再度同じ工程を繰り返す。

 今度は四枚半。剣先が悲鳴を上げているが、術式は何とか成立している。

 これならそのうち馴染むだろう。

 ……うん、ギリギリだがこれ以上は無理というところまで付与できたはずである。


「ふぅ、出来ました」

「……ちょっとよく見せろ」


 俺が剣を渡すと、ディアンは虫メガネを片手にじっと剣を見始める。


「やはり四枚半……先刻の四枚だって相当無茶だ。通常なら一、二枚。熟練の者でも三枚が限度だろう。にもかかわらずこの枚数……まさか術式を圧縮してやがるのか? しかも強度増加だけでなく、弾性強化、自浄作用、自己修復とバラバラの付与をかけている。しかもわざわざもう一度付与を剥がしてまで……! 妥協せず踏み込める感性、使える術式の豊富さ、こいつの付与術師としてのセンスは常軌を逸してやがる……! くくく、いいじゃねぇか。俺の相棒となる男はこうでなきゃなぁ」


 ディアンは何やらブツブツ言い始めた。

 ちょっと怖い、大丈夫だろうか。


「ロディ坊!」


 かと思うといきなり声を上げた。びっくりするじゃないか。


「……今から魔剣を作るぞ」

「! 魔剣、ですか」


 剣の作り方は溶かした鉄を叩いて中の不純物を飛ばし、折り、そしてまた叩く。

 それを繰り返して徐々に剣の形になるのだが、魔剣を作るにはその間に術式を編み込む。

 こうして作られた剣はただ付与した武器に比べ、圧倒的に強い。

 付与では不可能な長い術式も組み込める為、武器として以外にも使えるのだ。

 まさか魔剣を作れる日が来るとは……アルベルトには感謝である。


「俺の夢。俺だけのオリジナル魔剣の制作だ。嫌だと言って付き合ってもらうぜ、ロディ坊!

「はいっ!」


 俺はディアンの差し出した手を、強く握り返した。


 ■■■


「よぅし、やるぜ!」


 腕まくりをしながら、ディアンは剣を作り始める。

 炉に火を入れて鉄を溶かし、真っ赤な鉄を叩く。

 カン、カンと力強い音が響く。


「そういえばどういった術式を書き込むつもりですか?」

「……実は俺は魔術ってのが使えなくてよ。いつか使ってみたいと思って俺なりに頑張ったんだが……生憎と俺は頭が悪くてな。どうしても出来なかった。その時アル兄ぃに聞いたんだ。魔剣を使えば振るうだけで魔術を使えるってな」


 いくら魔力を持ってようと、本人に素養がなければ魔術を行使することは難しい。

 世の中には本を開くだけで眠くなる人間もいると聞くし、如何に才能があろうと向き不向きというものがあるのだ。

 俺も運動は嫌いだし。こればかりはどうしようもない。


「だからよ、そういう魔剣を作ってみてぇんだ。俺だけの魔剣を……! 出来るかロディ坊?」

「えぇ、尽力します。共に力を合わせましょう!」

「おうっ! 頼むぜ相棒!」


 いつの間にか相棒になっているようだが……結局テストは合格でいいのだろうか。

 それにしても魔術を発動させる魔剣か。

 俺にとってはあまり意味がないが、製作自体にはとても興味がある。

 ワクワクして来たぜ。

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