第38話鍛冶師を紹介されました
「よぉしシロ、いい子だぞ」
「オンッ!」
先刻投げたボールを取ってきたシロの頭を撫でてやる。
魔力の性質変化を利用したイメージの共有はかなり便利で、これを使えば大抵の行動はさせられるようになっていた。
ちなみにさっきもただ普通に投げたわけではなく、滅茶苦茶高く投げた。
風系統魔術を使って、城の城壁くらいの高さにだ。
それを壁と壁の間を登らせて、取りに行かせたのである。
魔獣ならではの動きだ。やるなシロ。
ただ動き回るシロを常時魔力で繋いでおくのはそれなりに負担な為、魔力刻印を用いて命令したい時だけ魔力を飛ばしてシロと繋がることで解決した。
とりあえずこれで日常生活に慣れさせていくか。
「やぁロイド」
そんなことを考えていると、芝生の向こうからアルベルトが歩いてくる。
第二王子アルベルト、俺の九つ上の兄で金髪長身のイケメンだ。
魔術に関してはかなりの腕前で、俺をよく魔術の訓練に連れて行ってくれる。
ちなみに王位継承最有力候補と噂されているようだ。
……ん、隣にいるのは誰だろう。
アルベルトの横にバンダナをした黒髪の男がいた。
かなり鍛えているようで、細いがマッチョである。
歳はアルベルトと同じくらいだろうか。
鋭い目つきで俺をじっと見ている。
「シロは随分お前の言うことを聞くようになったみたいだね」
「はい、アリーゼ姉さんにご教授いただきました」
「アリーゼに……? よ、よくあの説明で理解出来たね……」
「あはは、少し難易度は高かったですけれど」
苦笑する俺を見て、アルベルトは口元に手を当てる。
「ふむ、まさかアリーゼの纏う魔力の動きを読み、魔獣を操る技を推理、習得した……? いやいや、いくらロイドでも流石にそんな事は出来ないだろう。単に魔獣がロイドに慣れただけだろうな。うん。ないない」
アルベルトは冷や汗を浮かべながら首を振っている。
何だか顔色が悪い気がするけど大丈夫だろうか。
「おいアル兄ぃ、何ブツブツ言ってんだよ」
男がしびれを切らしたように声を上げると、アルベルトは思い出したように咳払いを一つした。
「おっとすまない。……紹介するよロイド。彼はディアン。お前の兄だ」
「えっ! 兄さん、ですか?」
「おう、久々だなロイド! ……っても俺はお前が小さい頃から隣国バートラムに行ってたからな。憶えてないか。デッカくなったじゃないか! 今帰ったぜ!」
ディアン=ディ=サルーム。
第四王子で俺が三歳くらいの頃、アルベルトと一緒に俺を見に来たんだっけ。
顔にちょっとだけ面影がある。目つきが悪い辺りとか。
ディアンは俺と同じくらいの歳の頃から優れた鍛冶技術を持つ隣国バートラムに留学に行っていた。
多分政治的な理由だろう。友好の証とか。
王子の身ながら国の為に勉強に行くとは立派だと思った記憶がある。
そんなディアンを何故アルベルトは俺の元へ連れてきたのだろうか。
「アル兄ぃ、なんで俺をロイドの所へ連れてきたんだ? 顔合わせならいつでもいいだろ」
どうやら向こうも同じことを思ったようだ。
アルベルトはニヤリと笑う。
「実はなディアン、このロイドこそが例の付与術師なのだよ」
「な……っ!? 嘘だろアル兄ぃ! こんなチビがこの魔剣に付与を施したってのか!?」
ディアンは以前俺がアルベルトに付与した魔剣を指差して驚いている。
そして俺の目の前にしゃがみ込むと、顎に手を当て舐め回すように見つめてきた。
「ぬぅ、信じられんがアル兄ぃが嘘を言うとも思えん……よしロイド。お前を試す。こっち来い」
そう言うとディアンは俺を脇にかかえ、走り出した。
「え? え? えーーーっ!?」
「おいディアン! 待て! どこへ行くんだ!?」
「悪りぃなアル兄ぃ、ちょっと借りるぜー!」
ディアンはアルベルトに手を振ると、そのまま駆け出した。
連れて行かれた先は城の隅にあるレンガを積み重ねて丸型のドームにした建物。
上部からは煙突が生え、近くには井戸がある。
昔、この建物は何だろうと中を覗いてみたが、中は物置になっていたっけ。
一体こんな場所に何の用だろうか。
「おー、ここだここだ。懐かしいなぁ」
ディアンはそう言いながら扉を開け中に入る。
中は以前見た時とは全く違った。
部屋の中央には巨大な炉が置かれ、金床にハンマー、ペンチ、のみ、ふいご、様々な薬品……様々な鍛冶道具が並んでいた。
「ここは俺がガキの頃に使っていた工房でよ。留学の際に道具を持って行ってたんだが、帰るってことで一足先に送り返しておいたのさ。今日から向こうで学んだ鍛冶仕事ができるってもんだぜ」
鼻歌を歌いながら、道具を触るディアン。
その顔は子供のようにキラキラしていた。
「……ディアン兄さんは鍛冶が好きなんですか?」
「おう! だから向こうで色々学んできたんだ! 向こうはすごいぜ、付与魔術や魔剣制作の技術が進んでいてよ。このままじゃいけないと思ってアル兄ぃに相談したら、優秀な付与術師を紹介してくれるって言うから期待したんだが……まさかロイドとはなぁ」
はぁぁ、と重々しいため息を吐いて、ディアンは俺を睨みつけた。
「ロイド、悪いがアル兄ぃの言う事を鵜呑みには出来ねぇ。お前が本当に付与術師として優秀なのかどうか、まずは試させてもらうぜ……!」
「……はぁ」
「くぅーん」
何だか厄介なことになって来たな。
ついてきたシロが不安げに俺を見上げている。
「この液体が何かわかるか?」
ディアンは水瓶の中に入った煌めく液体を指し示す。
「魔髄液ですね。付与の際に術式と共に塗布する液体です」
「む……ほう、基本は知っているようだな……だがこれはどうだ!」
そう言って木箱を漁り、中から取り出してきたのは赤茶色の土だ。
「赤泥ですね。製鉄の際に使われる原料の一つ。確か隣国では良い赤泥が採れると聞きます」
「な……! 知っているのか……!?」
「えぇ、本で得た知識だけで恐縮なのですが」
付与魔術を知るには鍛冶の技術も当然必要だ。
おかげでそれなりの本を読み、知識を得ている。
見れば木箱の中には様々な素材が入っていた。
「おおっ! 鉄鉱石に石炭、乳白石、金銀銅、魔石粉……すごいっ!色んな素材が沢山ありますね!」
「……っ!」
まるで宝の山だ。
これだけの素材があれば付与もやり放題、魔剣も作れるかもしれない。
アルベルトがディアンを紹介してくれたのはあの時の約束――付与魔術の応援するというのを果たしてくれたのか。
「あれ、赤魔石や月銀薬はないのですか?」
「なんだそりゃ?」
「付与に使う原料の一つですが……」
きょとんと首を傾げると、ディアンはゴクリと息を呑んだ。
「こいつ、半端ねぇ知識量だ! 魔髄液だけならともかく、それ以外の素材の知識もかなり豊富! ちょっと齧っただけじゃない……! 下手したら俺と同等量の知識がありやがる、だと……? へっ、アル兄ぃも人が悪いぜ……こんなナリだが、どうやら少しは使えるらしい。こいつと一緒なら俺の夢――俺だけのオリジナル魔剣を完成させられるかもな……!」
そして何かブツブツ言い始める。
一体どうしたんだろう。
「ロディ坊」
「え?」
さっきまでと違う呼び方に聞き直す。
「おう、お前の事だよ。ロディ坊、お前少しは付与魔術ってのをわかってるじゃないか。いいだろう。認めるぜ。ちなみに俺の事は親方と呼ぶといい!」
「は、はぁ……」
親指で自分を指すディアン。
なんだかわからないが、いつの間にか認められたようである。
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