第40話魔剣を作ります

「それじゃあロディ坊、早速魔剣に込める術式を頼むぜ」


 真っ赤に焼けた鉄を前に、ディアンが言う。


「どういった魔術がいいのでしょう?」

「そうだな。やっぱ炎だな! 魔術と言えば炎だぜ。鍛冶にも使えるしよ」

「わかりました」


 そういう事なら火系統魔術を込めてやればいい。

 下位魔術である『火球』なら余裕があるが、ディアンの作った剣ならより上位の魔術『炎烈火球』くらいは収まりそうだ。


「『炎烈火球』を構成する術式は十四節、圧縮すれば二節でいけるな。ただ上手く馴染むかどうかやってみないとわからない……折り返し工程は何回ですか?」

「五回だ。それ以上は剣が持たねぇ」


 とりあえずやってみるしかないか。

 まずは半節、術式を編み込んだ魔髄液を焼けた鉄へとかけてやる。

 すると赤い鉄が眩く光り、術式が馴染んでいく。

 魔髄液の沸点は高いので蒸発はしないのだ。


「――っ!? け、剣が!」


 ぱきん、と乾いた音が鳴る。

 見れば焼けた鉄の根元に、深々と亀裂が入っていた。

 しまった。半節でも強すぎたか。


「こりゃあもう使えねぇ。新しく作り直すしかないな」

「……すみません」

「なぁに気にするな。鍛冶ってのは中々上手くいかねぇもんよ。根気強さには自信があるからよ。さぁ気を取り直して次行くぜ!」

「はいっ! 親方!」


 砕けて駄目になった鉄をもう一度溶かし、再度同じ工程を繰り返す。

 叩いて伸ばし、術式を編み込む――が、何度やっても駄目。

 どうしても術式を編み込む際に剣が砕けてしまうのだ。

 容量が多すぎるのかと思い、試しに術式を三分の一に分割しても上手くいかない。

 ならばと込める魔術を『火球』まで落としたが、それでも砕けてしまう。

 どうも手詰まりのようだ。

 折れた剣を見ながら、俺は肩を落とす。


「うーん、難しいですね……」

「魔剣の製作はそう簡単じゃねぇ。落ち込むなよロディ坊」


 笑顔で俺の肩を叩くディアン。

 一見怖そうな顔だが、なんとも心が広い事だ。


「ロディ坊が込めている術式、相当な情報量が込められていやがる……魔剣製作の現場は見たことあるが、他の付与術師の10倍近いぞ。あんな術式が込められた魔剣が完成したら……へへ、楽しみで仕方がねぇぜ!」


 かと思えばにやけ顔でブツブツ言っている。

 もしやプレッシャーをかけているのだろうか?

 うぅ、出来るだけ早く完成させねば……


「……ん?」


 ふと、俺は魔髄液を見てあることに気づく。

 俺が以前作ったのに比べると、これは色が少し違うように思える。

 グリモもそれに気づいたようだ。


「ロイド様、こいつはあまり純度が高くないですぜ。恐らく混ぜ物をして嵩増ししているんでさ」

「ふむ、分解してみるか」


 俺は魔髄液を小さな器に入れると、手をかざし『純度上昇』の魔術を発現させる。

 これは液体の純度を上昇させる魔術で、混合物に使えば素材にまで分解できるのだ。

 液体が淡い光を放ち、回転し始める。


「何をやってるんだ? ロディ坊」

「まぁ見ててください」


 ディアンを待たせて術をかけ続ける事しばし、液体が何層にも分かれ、底に顆粒が溜まり始めた。

 赤い粒だけでなく、茶色や黒の粒が混じっている。

 やはり混ぜ物をしているのか。しかもメインで使われているのも赤魔粉じゃないような気がする。


「強い魔物の持つ核、赤魔粉はそれを削って粉末にしたものだが、どうもこれは違う気がするな」

「強い魔物の核なんてそう簡単に手に入るわけじゃねぇですからね。恐らく弱い魔物の核で代用しているんでしょう。品質はかなり落ちますが付与に使うにはこっちで十分、ですが魔剣製作にはちと厳しいんでしょうな」

「へぇ、詳しいんだな。グリモ」

「魔界では少しは聞こえた名の鍛冶師だったんでね。へへ」


 得意げに笑うグリモ。

 鍛冶の知識はないから助かるな。

 ともあれ赤魔粉の純度不足は問題だ。

 純度が低ければ術式を込めても効果を発現する際に荒くなり、正確な術式で発現しなければ暴走もしやすい。

 こんな事なら以前作った魔髄液を残しておけばよかったな。


「どうした? 魔髄液が悪いのか?」

「そのようです。純度が足りないみたいで……」

「むぅ、そういえば以前魔剣の製作現場を見たことがあるが、特別な魔髄液を使っていた気がするな。やはりそれでないと難しいか……ダメ元でやってみたんだが、やはりダメだったな。はっはっは」


 どうやらディアンには心当たりがあったようだ。

 なら先に言っておいて欲しかった。


「仕方ねぇ。ダメ元でバートラムにいる師匠に分けてもらえないか打診してみるか。あるいは冒険者ギルドに在庫を聞くか、はたまた募集を出してみるという手も……どちらにしろ望みは薄いな。とにかく手に入るまで、作業は中断だ。悪いなロディ坊、また手に入ったら再開しようぜ」


 ディアンはそう言って、残念そうにため息を吐いた。

 冒険者、ね。

 もしかしたら何とかなるかもしれないな。よし、俺の方でも動いてみるとするか。

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