第35話色々終わって
「それじゃあ皆、
街へ戻った俺たちは、タオと別れを告げた。
ちなみにシロ以外のベアウルフたちは俺については来ず、森に残るらしい。
恐らくまだ成長していない子供たちがいるのだろうとグリムが言っていた。
シロに人を襲ったりさせるなよと言っておいたが、どこまで理解しているかは不明だ。
まぁ俺の言ってる事はわかるっぽいし大丈夫だろう。多分。
「オンッ!」
大丈夫だ、と言うように自信たっぶりに吠えるシロ。
……ま、姿はどうみてもただの犬だしな。
村人たちもむやみに怖がることはないか。
ただこいつら、内包する魔力量が以前よりもずっと増えている気がするが……深く考えないようにしよう。
■■■
それから数日が経ち、俺は玉座の間へと呼び出された。
アルベルトも一緒だ。
いつもなら目が合うとウインクの一つでも寄越してきそうなものなのに、重々しい顔をしている。
一体どうかしたのだろうか。
「おおアルベルト。そしてロイドよ。よくぞ参った」
俺の心配をよそに、チャールズは俺たちを迎える。
「まずはアルベルトよ、魔獣討伐の任、よくぞ成功させた。……だが色々とトラブルがあったようだな。複数の魔獣と魔人に襲われ、被害がなかったのは運が良かったとしか言いようがあるまい。お前は第二王子の身だ。お前自身が優秀な魔術師であるのも知っておる。しかし近衛だけを連れて行くのは行くのは、些か軽率だったと言わざるを得ないだろうな」
「はっ、申し開きの余地もありません」
チャールズの厳しい言葉に、アルベルトは頭を垂れたままだった。
確かに、言われてみれば少し軽率だった気もする。
魔人が出たのは計算外にしても、魔獣討伐はやはり危険が伴う行為だもんな。
アルベルトも随分反省しているようだ。
「うむ、今後は慎むように。……そしてロイドよ」
「は、はいっ!」
うっ、やはりお説教か。
俺は緊張しながらチャールズの言葉を待つ。
「――よくやったな」
だが予想に反し、俺に投げかけられた言葉は賞賛であった。
思わず顔を上げると、チャールズは蓄えた髭の下に笑みを浮かべ、頷く。
「アルベルトから聞いたぞ。近衛たちに力を与え、魔獣に囲まれても果敢に立ち向かっていたと。その歳で大したものじゃ」
「はぁ……」
てっきり俺も怒られるかと思ったのだが、拍子抜けである。
チャールズはやや前のめりになり、言葉を続ける。
「お前の才能はシルファからもよく聞き及んでおる。剣術の腕もメキメキ上げておるようだな。与えられた課題に応じ、結果を出すというのは王として最も大事なことの一つじゃ。……どうだろう。少々異例だが、お前に次期王位継承権を与えようと思うのじゃが」
「な……っ!?」
チャールズの言葉を俺は驚きの声を上げる。
そんな事になればアルベルトらに混じって王になる為の勉強をしなければならなくなるし、他の王子たちと王位を競って争わねばならない。
俺は気ままに魔術の研究をしたいのだ。
次期王位継承権なんて真っ平御免である。
「王!」
アルベルトが立ち上がる。
反対してくれるのだろう。助かった。
まだ十歳である俺に次期王位継承権を与えるなんて、幾ら何でも無茶な話である。
ほっと胸を撫で下ろす。
「とても良い考えです。ロイドはきっとこの国を支える存在になる。王としての学びはその時きっと将来の役に立つ。ロイドとの王位争いは僕としても脅威ではありますが、相手がロイドなら負けてやむなし。むしろ競い会えたことを光栄にすら思います」
と思ったらアルベルトまで賛成している。
おいおいちょっと待て。
俺は慌てて立ち上がる。
「ま、待ってください! ……身に余る光栄、感謝いたします。ですが自分はとてもこの国の王たる器ではありません。謹んで辞退申し上げます」
「む――」
俺の言葉にチャールズは、少し考えて頷いた。
「……そうか、それは残念だ」
ふぅ、よかった。なんとか断れたようである。
いきなり王位継承権とか無茶苦茶だぜ。
しかしやけにあっさり引き下がったな。
まぁいいや、これで安心だ。
俺は安堵の息を吐いた。
「なるほど、つまりロイドよ、お前の器はこの国だけで収まるものではない、と言いたいのだな? 確かこの大陸は未だ平穏とは言えぬ。それを統一するような世界の覇王となると。……ふふ、我が息子ながら大きく出たものだ。そういう事ならその考え、尊重せねばなるまいて」
「この国では収まり切らない器……確かにそうだ。例えば世界を股にかけた大魔術師、ウィリアム=ボルドー氏のような人物に育つかもしれない。その為には王としての教育より、もっと他にもっとやるべきことがあるのかもしれない」
チャールズとアルベルトが何かブツブツ言っている。
二人ともニヤニヤしてるけど大丈夫だろうか。
「ロイドよ! ではこれからもしっかりと励むのじゃぞ!」
「期待しているぞ、ロイド」
「は、はい!」
何だか二人がすごく期待を込めた目で見てくるが……ともあれ、何とか王位継承権は継がずに済んだようである。
一安心だ。
■■■
あれから一週間が経った。
基本的には俺の日々は殆ど変わらず、好きな事をやっていた。
少し変わった点と言えば、アルベルトが頻繁に魔術の練習場へ誘ってくれるようになり、シルファの剣術ごっこの頻度とそのレベルが上がったくらいだろうか。
「アルベルト様、今からロイド様は剣術の稽古をなさるのです」
「それは先日もやっただろう。今日は魔術の練習をするのだよ」
「何をおっしゃいます。剣術です」
「いいや魔術だね」
二人は火花を散らし睨み合っている。
……ただ、時々俺を取り合っているのを見るので気が重い。
しかもチャールズも最近何かと俺を呼び出して近況を聞こうとするし、風の噂ではタオもロベルトについて聞き回っているそうだ。
「モテモテっすな。ロイド様……ぐへへ、この調子で周りの評価が上がれば俺が身体を乗っ取った時に美味い思いが出来るぜぇ……!」
「オンッ!」
グリモがニヤニヤ笑い、シロが元気よく吠える。
全く騒がしい事だ。
俺はただ魔術を極めたいだけなんだけどな。
――この世界には未だ、俺の見たことのない魔術が存在する。
それを全部見たい。憶えたい。弄りたい。
俺はまだ見ぬ魔術の深淵を臨み、真っ青な空を見上げた。
――魔術師として大切なものは、先ずは家柄。次に才能。そして最後に努力である。
最後というのは言葉通り努力を努力として受け止める者にとってであり、楽しんでそれを積み重ねられる者にとっては、最後ではなく最大の力となりうる。
……え? それら全て持つ者がいたらって?
あはは、それはぞっとしない話だねぇ。
少なくとも私は戦いたくはないなぁ。
「……なーんて、あの野郎は言ってたっけか」
グリモがぼそりと呟く。
「どうかしたか? グリモ」
「いいえ何でも。あ、ジャンケンはシルファの姉御が勝ったようですぜ」
見ればいつの間にか二人はジャンケンをしていたようで、勝利したシルファが駆けてくるのが見える。
「ロイド様ーっ!」
嬉しそうに木刀を手に手を振ってくるシルファ。
俺はため息を吐きながら、中庭へと向かうのだった。
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