第34話何とか誤魔化しました
「アルベルト兄さん、大丈夫ですか!?」
パズズを倒した俺は陸地に戻り、倒れていたアルベルトを揺り起こす。
既にパズズの魔力の影響は抜けていたようで、すぐに目を覚ました。
「う……ろ、ロイド……? 一体何が……はっ! 皆は無事か!? 魔人はどうなった!?」
起き上がり、きょろきょろと辺りを見渡すアルベルト。
あ……しまったな。どう説明したもんか。
まさか俺が倒したとは言えないし。
「落ち着いてくださいアルベルト兄さん……え、えーとですね……そう! 俺も気絶してて、起きたら皆が倒れててたんです! 魔人もどこにもいませんでした!」
慌てて言いつくろうと、アルベルトはどこか納得していなさそうな顔をした。
「そう、か……すまない取り乱したようだ。とりあえず皆を起こそう」
「はいっ!」
それでもなんとか誤魔化せたようである。
安堵の息を吐いていると、他の者たちも起き上がり始めた。
アルベルトは全員の無事を確認し、頷く。
「皆、まずは無事で何よりだ。魔人に襲われたにも関わらず命があったのは、奇跡としか言いようがあるまい。だが魔人との戦闘中、僕は奴の出す黒いモヤを浴びて気を失い、何故奴がいなくなったのか憶えていないのだ。誰か見た者はいるか?」
アルベルトは全員を見渡すが、誰も声を上げる者はいない。
シルファも首を振って返した。
ふぅ、助かった。どうやら俺の正体はバレてないようだな。
「――アタシ、見たよ」
「ぶっ!」
タオの言葉に思わず吹き出してしまう。
「どうかしましたか? ロイド様」
「い、いや別に……」
シルファに背中をさすられながら、何度もせき込む。
まさか見られた? 俺はドキドキしながらタオの言葉に耳を傾ける。
「倒れたアタシたちを助けて、魔人を倒したのは――ロベルトよ」
「ぶっ!」
思わずもう一度、吹き出した。
「ロイド様!」
ゲホゲホせき込む俺の背中をシルファが心配そうに何度も撫でた。
「ロベルトと言うと……以前タオを助けた冒険者だったか?」
「うん、アタシが意識を失いかけ、もうだめかと思ったその時に颯爽と登場したよ! そして魔人と対峙し、湖の上ですっごい戦いを繰り広げたね。魔人の攻撃をものともせず、とんでもない魔術を撃ちこんであっさりと勝利したよ。流石はアタシと将来を誓い合った仲ね!」
タオは顔を赤らめ、くねくねと腰をよじっている。
まさかまだ気を失っていなかったとは……だが幸運なことにちょっと勘違いしているようで、正体がバレたわけではなさそうだ。
ていうかといつの間に将来を誓い合ったのだろうか。全く記憶にないんぞ。
「ふむ、……魔人を倒すとは相当名が知れた冒険者だろう。今度探して礼を言わなければな」
いや、ロベルトなんて冒険者はいないんだが……まぁいいや。
知らんぷりをしておこう。
「オン! オン!」
と、いきなり森の中から吠え声が聞こえてきた。
茂みから飛び出してきたのは、真っ白な大型犬たちだ。
犬の群れは俺にすり寄ってくる。
「わ、なんだお前たち!」
ん、よく見ればこの犬たち、見た目はすっかり可愛らしくなっているがさっきのベアウルフだ。
触れればわかるが、体内を巡る魔力の流れが同じなのである。
成長や修行により魔力の過多は変われど、同一個体であればこの流れのパターンが違うのは基本的にありえない。
一体何故こんなことになったんだろうか。
「魔獣は食らった魔力により姿や性格が変化しやす。ロイド様の魔力を浴びたから、こいつらもこんな姿になったんでしょう」
「オンッ!」
グリモの言葉を肯定するように、犬が吠えた。
その一匹が俺の前でちょこんと座ると、他の犬たちもそれに習う。
先頭の犬は俺をキラキラした目で見上げ、尻尾を振っている。
「どうやらこいつ、パズズが直接操っていた奴ですな。ロイド様を主と認めたようですぜ」
「どうもそうみたいだな」
とはいえ城に連れ変わるわけにもいかないよなぁ。可愛いけど魔獣だし。
俺はそう思い、ちらりとシルファを見た。
「あらあら、この犬、ロイド様に随分懐いているようですね!」
だがシルファは俺に懐いた犬を見て嬉しそうに微笑んでいる。
あれ? 絶対連れ帰っちゃだめですとか言うと思ったのに、何故か好感触だ。
「何を不思議そうな顔をしているのですかロイド様。犬は忠義に厚く、戦士たちの良き相棒となる。それ故ラングリス家でも昔から沢山飼っております。ロイド様にもいつか犬を飼っていただこう思っていましたが、良い機会です。この子は身体も丈夫そうだし、よろしければ飼われては如何でしょうか?」
シルファの言葉にアルベルトも頷く。
「そうだね。犬は僕も好きだ。それに白い魔獣は縁起が良いと言われている。これほど懐いているなら、きっとロイドの良き友となってくれるだろう」
「オンッ! オンオンッ!」
そうしろと言わんばかりに何度も吠える犬。
二人がいいって言うならいいか。
魔獣に関しても色々研究したいことはあったしね。
……あ、いや! 別にグロい事をするじゃないからな。
「ロイド、その子に名前を付けてやるといい」
「名前、ですか……うーん、じゃあシロで」
「オンッ!」
白いから、という安直な理由だけどシロは気に入ったようだ。
撫でろとばかりに俺に頭を擦り付けてくる。
俺が撫でてやると、シロは千切れんばかりに尻尾を振って喜びを表現していた。
可愛い。
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