第32話魔人が襲ってきました

 高速で迫り来るパズズ。

 俺の傍にいたベアウルフたちが立ち塞がる。


「ガウッ!」「グルルオオオッ!」


 もしかして俺を守ろうとしてくれてるのか? でも危ないぞ。

 退かせようとしたが、間に合わない。


「邪魔をするなっ!」


 パズズが両腕を振るうと、ベアウルフたちは弾き飛ばされた。


「きゃいん!」


 地面に叩きつけられたベアウルフたちが悲鳴を上げた。

 こいつ……自分の眷属を……! なんて奴だ。

 パズズは倒れ伏すベアウルフたちには目もくれず、俺目掛けて体当たりをぶちかましてきた。


 どすん! と、自動発動した魔力障壁ごと俺の身体は湖へと吹き飛ばされる。

 ――だが風系統魔術『飛翔』発動。

 風を纏った俺は湖面の上を滑り、中央辺りで止まった。


「しゃあッ!」


 翼を広げ地面を蹴り、即座に追撃してくるパズズ。

 振り下ろされた右手から放たれる魔力波を魔力障壁で受け止めた。


「おい、自分で育てた大事な眷属だろ。殴るなんてひどいじゃないか」

「何を言っている! 我に逆らう愚かな犬などもはや眷属でもなんでもないわ! 貴様を殺した後に全て縊り殺してくれる!」

「ひどいな。もふもふ帝国を作るんじゃなかったのかよ」

「魔獣帝国だッ!!」


 顔を真っ赤にして俺を殴りつけてくるパズズ。

 ダメージは全くないが、それでも魔力障壁を軋ませるほどの威力。

 ただ殴っただけじゃこうはならない。……これも魔力の性質変化か。


「両手に魔力を集めて硬質化、攻撃力を上げるようイメージしているんだな」


 面白そうだ。俺もやってみるか。

 とはいえ素手はアレだし……そうだ鞄の中に武器があったっけ。

 以前付与魔術で使った、鉄の短剣。

 あれを使えば剣で同じことが出来るよな。


「隙を見せたな! 死ねぇっ!」


 と、思い鞄を漁ろうとした時である。

 パズズは魔力波を放ってきた。


「ロイド様、危ねぇ!」


 それを迎え撃つべく、俺の右手――グリモが黒い魔力波を放つ

 二つの魔力波は互いにぶつかり、弾け飛んだ。


「ぬぅ、魔神が人間に汲みするか!」

「へっ、ハナクソ程の威力だぜ!」


 パズズとグリモが魔力波を打ち合う。

 何度も何度も、俺の眼前で激しい閃光が散っている。


「ええいそこを退け! そやつは失った我が身体の新たな宿主とするのだ!」

「誰がテメェなんぞにやらせるかよ。こいつの身体はゆくゆくは俺様のもんになるんだからなぁ!」


 魔力波の激突音であまりよく聞こえないが、二人は何か喋っているようだ。

 魔人同士対抗心でも燃やしているのかな。


「ロイド様! ここは自分に任せてやりたいようにやってくだせぇ!」

「あーうん。グリモも無理すんなよ」


 ていうか別に放っておいても魔力障壁で防げるんだけどな。

 まぁ折角やるって言ってくれてるんだし、無下に断ることもないか。

 王族とは目下の者の進言をむやみに否定せぬもの、らしいしな。


「えーと、こんな感じかな」


 先刻と同じ要領で、強く硬い刃をイメージした魔力を生み出し、剣に纏わせていく。

 更に先ほど見たシルファの剣技も制御魔術でコピー。

 よし、これでやってみるか。

 グリモの口を閉じさせ、ぎゅっと短剣を握り締めた。


「行くぞ――」


 俺は湖面を蹴り、真っ直ぐパズズに向かって駆ける。

 低く構えた剣筋が水面で爆ぜ続け、水柱となって俺のすぐ後を続く。


「ぬぅっ!?」


 パズズの放った魔力波が雨あられと降り注ぐが、その全てを躱し、パズズの足元に辿り着いた。

 それまでに溜めていた力を解放し、斬り上げる。


「ラングリス流剣術――昇り咬竜」


 斬! と剣閃が湖を真っ二つに割った。

 その勢いのまま天を貫き、雲も。ついでにパズズの身体も切り裂いていた。

 短剣一本なので劣化コピーだが、威力は十分。ちゃんと性質変化は出来たようだな。


「ぐぐぐ……! バカな! 我が肉体を切り裂くとは……貴様も我と同じ技が使えるというのか……!」

「いや、今初めて使ったんだけどな」


 どうやらダメージを受けて驚いているようだ。

 そういえば魔人は魔術は効かないって言ってたっけ。

 普通の魔術は術式で魔力を形ある力に変化させているので、半分精神体である魔人には効果が薄いのだろう。

 その点、魔力の性質変化は単純に魔力の質を上げて直接ぶん殴るようなものである。

 だから精神体である魔族にも効果があるんだろうな。


「いいですぜロイド様! ボコボコにやっちまってくだせぇ!」

「そうだな。もう少し試してみるか」


 今のは出力が大きすぎた。

 もっと小さく、鋭い方が威力を効率的に与えられるはずだ。

 イメージにより短剣を覆う魔力は小さく、より鋭くなっていく。


「ラングリス流短剣術――下り飛燕」


 高速でパズズの背後へ飛翔した俺は、短剣を逆手に持って落下しながらの連撃を叩き込む。

 無数の斬撃が切り裂いたパズズの左半身を消しとばした。

 うん、いい感じに力が調節出来ているな。

 だがもっと、もっと鋭く出来るはずだ。


「おのれぇぇぇぇぇ!!」

「一虎――顎」


 残った方の反撃を避けながら、二連撃にてパズズを三つに分断する。

 パズズは頭部のみを残し、消滅してしまった。

 ――が、その代償として俺の手にしていた短剣が粉々に砕け散る。


「おっと」


 魔力で覆っているとはいえ、得物に全く負担が掛からないわけではないか。

 砕けた剣を見て、パズズはにやりと笑う。

 笑いながら、身体を復元していく。


「くふふふふ、中々驚きましたがそのような魔力量に何の変哲もない短剣が耐えられるはずがありません。勿論、あなたの身体もね」


 パズズの言葉で、俺は自身の変調を自覚する。

 手足が震える。力が入らない。


「力を使いすぎたのだろう!? もう動けないようだな!」

「ど、どうしたんですかいロイド様!」

「つ……っ! しまった……」


 慌てるグリモに、俺はくぐもった声で返す。


「参ったな……筋肉痛になっちまった」

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