第13話ダンジョンに潜ります

「おぉ、ここがダンジョンか……」


 目の前にぽっかりと空いた穴を見て、俺の口元が思わず緩む。

 様々な種類の魔物、更に魔道具などのお宝……ダンジョン自体、何故生まれるのかよくわかっておらず、内部は危険なのでろくな調査がされてないのだ。

 だから一度入ってみたかったんだよな。

 ワクワクしていると、タオが追いついてきた。


「はぁ、はぁ……ろ、ロベルト、オマエめっちゃ足速いあるな……!」


 息せき切らしながら、呼吸を整えるタオ。

 あ、すまん忘れてた。


「ふー……、……、すぅー……」


 あっという間に呼吸を整えるタオ。

 魔法も使わず俺の『疾走』についてくるなんて、これが『気』の力か。

 もちろんタオの持つ『気』も興味がある。

 いやーしょっぱなからこんなに色んなものが見れて、外に出て本当によかったなぁ。


「ってこれダンジョンあるか!?」

「うん、さっきゴブリンたちがここへ逃げていくのがチラッと見えたんだ。俺は中に入るけどタオはどうする?」


 俺の問いにタオは考え込んでいる。


「ダンジョン……正直危険ある……でも危険度が高い分、ロベルトの好感度を上げ易いはずね。見たところロベルトはかなりのニブチン。百回は助けないとアタシを好きにさせるには難しそうね……」


 しばらくブツブツ言った後、タオは頷いた。


「わかったよ。ロベルトが行くならアタシも行くね」

「よし、決まりだ」


 というわけで俺たちはダンジョンへと足を踏み入れる。

 中は岩石に囲まれた洞窟。灯りはないが全く見えないというわけでもない。

 光る石が各所に埋まっており、それが光源になっているようだ。


「……これは確か光石だったか。術式もなしでこれだけの光を放つとは素晴らしいな」


 魔術の実験に利用できそうだし、いくつか持って帰ろう。

 その様子をタオは呆れた様子で見ている。


「そんなもの持って帰ってどうするよ? 光石はダンジョンから外に出すとただの石ころになるね」

「いいんだよ。理屈を知りたいだけだから」

「ふーん、変わってるな」


 拾った光石は鞄に詰め込んでおく。

 この鞄には空間系統魔術『容量増加』の魔術をかけている。

 袋や鞄など密閉されたものにしかかけることが出来ないが、中の空間を自由に広げられるというものだ。

 おかげでこの鞄には本来の何十倍もの容量がある。

 と言っても空間系統魔術はこれの他には一つ二つしか使えないんだけどな。

 空間系統魔術は非常に難易度が高く、使い手もいないので文献も少ないのだ。


「待たせて済まなかったね。早く先に進もうか」


 光石は興味深いが、それだけに時間を取られている暇もない。

 俺はダンジョンを進んでいく。


「止まるねロベルト、魔物よ!」


 いきなりタオが立ち止まる。

 猫のような柔らかい動きで壁の方を向くと、一気に距離を詰める。

 そして壁に掌底を叩きこんだ。

 一体何を……俺がそう思った瞬間である。


「ギ……!?」


 うめき声をあげ、壁が崩れ落ちてきた。

 見れば壁は泥のような姿になって溶けていく。


「なんだこりゃ……」

「ストーンスライムね。岩に隠れて不意打ちを仕掛けてくるよ。あのまま進んでいたら危なかったね」

「へぇー。面白いな」


 擬態する魔物か。しかもかなり出来が良かった。

 タオの攻撃が当たった瞬間でも全然わからなかったしな。

 こいつの身体もちょっと持って帰ろう。何かに使えるかもしれないし。

 俺は砕け散ったストーンスライムの破片をこっそり鞄に入れた。


「それにしてもタオはすごいな。俺には岩にしか見えなかったよ。『気』の使い手は不思議な力を持つというが、今のがそうなのかい?」

「ほう、ロベルトは『気』を知ってるのか。大陸でそれ知ってる人、あまりいないね、勉強家ね」

「本を読むのが好きなんだ。実際見るのは初めてだけどね」

「それ、とてもいい事よ。知識は武と同じくらい力になるね」


 タオはにっこり笑うと、またダンジョンの奥へと歩き始める。


 その後もゴブリンにオーク、様々な魔物が出てきたがタオの敵ではなかった。

 あんな細い腕なのに、とんでもない威力が出るんだもんなぁ。

 ……『気』か。魔術に活かせるかもしれないな。

 タオの呼吸法は……こんな感じだっけか。


「すー、はー……」


 歩きながら、俺は息を深く吸い込み、長く吐く。

 なんとなく、まだ魔力を知覚できない魔術師の卵なんかが行う修行に似ているな。

 精神を統一し、呼吸に全神経を集中、体内を循環する魔力の流れを意識する……

 魔術師の修行でも初歩の初歩、才能ある魔術師は必要とすらしない修行。

 ……前世で魔術の才能がなかった俺は、最初の頃はずっとこれをやっていたのである。


 うん、見様見真似だが、何となく体内に力がみなぎっていくような感じがする。

 魔力を完全に知覚しているからこそわかる。

 身体の奥底に感じる力……これが『気』というやつだろうか。

 自分だけでなくタオの呼吸、ダンジョンのあちこちからも微かな呼吸の気配が感じ取れる。


「む、前方に何かいる……?」


 曲がり角の向こう側から濃い気配を感じた。

 俺の言葉にタオは驚いたように目を丸くする。


「……驚いた。ロベルトも『気』を使えるか」

「似たような修行をした事があるからね。ちょっと真似てみた。面白そうだったしね」

「オモシロ……って、気配察知だけでも普通は五年は修行しないと身に付かないよ。それを見ただけで使えるようになるなんて……とんでもない才能ね」


 呆れた様子でため息を吐くタオ。


「でも面白そうだからって理由、とてもヨシね。好きこそものの上手なれよ。そういう事ならいいものを見せてあげるね。よく見ておくといいよ」


 そう言うと、タオは円を描くように身体を動かしていく。

 タオの臍から生み出された『気』は、全身を循環するように回りながら、タオの両腕に集まっていく。


「破ッ!」


 駆け声と共に十分に集まった『気』の塊を放つ。

 それは前方、敵の気配がする方へと飛んでいく。

 直後――ずずん! と衝撃音が鳴り、魔物の気配が消滅した。


「ふふん、これが『気孔弾』ね。今のは見せる為にわざとゆっくり撃ったけど、もちろん高速で放つことも可能よ」

「おおー、すごいなタオ」

「ま、ね」


 タオはふふんと鼻を鳴らすと、俺に背を向けた。


「『気』まで使えるなんて、こいつはとんだ拾い物ね。それにロベルトは『気』に興味津々……教えてあげる名目で師匠と弟子でラブなロマンスも期待できそうよ。しかも立派な武道家に育て上げれば、うるさいじいちゃんもアタシの許嫁として認めるに違いない……ふひっ、こいつはとんだ拾い物あるな……」


 タオは何やらブツブツ言いながら、不気味に笑っている。

 ……なんか怖いし、放っておいて先に進むか。

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