第12話冒険者が何か企んでます
タオに連れられ、俺は半ば無理やり街に向かっていた。
「ふん♪ ふふふふーん♪ ふふーん、ふんふーん♪」
「タオさん、随分ご機嫌だねぇ」
「タオでいいね。アタシもロベルトと呼ぶよ。それに冒険者同士、敬語なんかいらないね」
鼻歌を歌いながらタオは答える。
何だろう、初めて会った俺に対してここまで親切に、ここまで上機嫌になれるものなのだろうか。
見知らぬ他人同士、普通は警戒しそうなもんだが……
あ、この恰好か。いつもの姿で『模写姿』したから、王族の服のままなのだ。
多分タオは俺の事を貴族のボンボンだと思っており、助けて報酬金をたんまり取ろうという算段なのだろう。
あとで逆恨みされても面白くないし、くぎを刺しておくか。
「えーと、タオ? 言っておくけど俺は金とかは持ってないよ?」
「そんなの関係ないよ。アタシ、ロベルトからお金取る気ないね」
タオは俺の言葉にも首を傾げて返すのみだ。
うーむ、本当に金目当てじゃないのだろうか。
それにタオはさっきから顔が緩みっぱなしだし。
「ふひひ、金も強さも必要ないよ。アタシが欲しいのはイケメンな彼氏ある。――道場の娘に生まれたアタシは物心ついた時から彼氏の一人も作らず武道に明け暮れたね。そして十八歳になったアタシは出会いを求めて道場を飛び出し冒険者になった。でもイケメンたちは僧侶や魔術師みたいなか弱い女ばかりを狙ってアタシみたいなのには目もくれない。ならば考え方を逆転するよ。向こうが来ないならアタシから行けばいい……! すなわちピンチのイケメンを助けて惚れられればよい――という寸法ね。襲い来る魔物からロベルトを守り、いいところを見せればアタシも念願のイケメン彼氏ゲットある! このチャンス、絶対に逃さないよ。ふひっ、ふひひひひ……」
……すごく邪な顔だ。邪だけどアホな事を考えている顔だ。
ていうかブツブツ言ってちょっと怖い。
完全に自分の世界に入っているな。
俺がドン引きしているといきなりタオの目がくわっと見開いた。
「ロベルト、魔物ね!」
タオは跳ね上がるように両手足を伸ばし、姿勢を低くする。
あれが武道家の構えというやつだろうか。
まるで獣が今にも飛びかかりそうな体勢だ。
タオはその姿勢のまま、じろりと周囲を睨みつける。
「ほっ!」
短く声を上げたかと思うと、タオの足元の石が一つ、空中に跳ね上がった。
瞬間、タオの身体がつむじ風のように高速回転する。
びしっ! と鋭い音と共に石が遥か彼方へと飛んでいき、岩陰に吸い込まれいく。
「ギャッ!」
悲鳴。そして倒れる音。
「よし、当たりね」
小さくガッツポーズをするタオ。
すぐに岩陰からぞろぞろと小さな人影が出てきた。
土色の身体に小人のような体躯。小さな角に大きく不気味な赤い目。
手にはこん棒やら錆びたナイフやらを持っている。
あれは確かゴブリンだっけか。
確か最弱クラスの魔物だ。
しかしそれは単体での評価、徒党を組むとかなりヤバいとも書いてあった。
「姿を現したね小鬼ども。かかってくるある!」
一足にて、ゴブリンたちの懐へ飛び込んだタオは、勢いのまま飛び蹴りを放つ。
ゴブリンは吹きとび、岩壁に叩きつけられめり込んだ。
タオの攻撃はそれだけで終わらない。
一瞬だけ着地すると、狼狽えるゴブリンたちに回し蹴りを喰らわせた。
小さな踵がゴブリンたちの脳天を悉く捉え、一体、また一体と倒れ伏していく。
「ギャアッ!」
着地したタオにゴブリンが反撃しようとこん棒を振り下ろすが、タオは既にそこにはない。
残像を残して消えたタオはゴブリンの背後に回り込んでいた。
「――遅いよ」
ずんっ! と拳がめり込み、ゴブリンはぐらりと崩れ落ちた。
呼吸を整えるタオを見ながらも、怯えすくんだゴブリンたちは動く事ができない。
――強い。
素手であんな威力が出るはずがない。
そういえばタオの髪や瞳の色、顔だちは遥か遠くにある異国のものだな。
異国には『気』を使い、それを纏わせた素手で戦うという話を何かの書物で見たことがある。
呼吸で体内に気を巡らせ、練り込むことですさまじい力を発揮することが出来るとか。
眉唾だったが、こうして実際に見ると信じざるをない。
そう言えばいつも独特の呼吸をしていたな。
あれがそうなのだろうか。
「ギャアッ!」「ギャアギャア!」
後ろから聞こえる奇声に振り替えると、目の前には二匹のゴブリンがいた。
うおっ、びっくりした。タオの戦闘に夢中になりすぎたようだ。
もちろん魔力障壁を張ってあるので問題はないが――
「ほあっちょーーーっ!」
まるで滑るように移動してきたタオが、ゴブリンに引きのどてっぱらに、それぞれ掌底を叩きこんだ。
衝撃で天高く飛んでいくゴブリンたちは長ーーーい滞空時間を経て、地面に激突した。
「ギャアーーーッ!」
それを見て悲鳴を上げるゴブリンたち。
タオの強さに恐れをなしたのか、気づけばゴブリンたちはいなくなっていた。
「ありがとうタオ、助かったよ」
「ふっ、礼は無用ある」
タオは背を向けたまま、仁王立ちをしている。
……どうしたのかな。さっきからずっとその体勢のままだ。
しかも物欲しそうにこっちをチラチラ見ている。一体なんだろう。
さっき言ったお礼以外の言葉を待っているような……む。
逃げるゴブリンたちを目で追っていると、大きな穴の中に逃げ込むのが見えた。
アレはもしや……ダンジョンか!
ダンジョンとは沢山の魔物が存在する不思議な場所だ。
奥にはお宝もあり、貴重な魔道具や魔書なんかもあるらしい。
「こうしちゃいられない!」
俺は矢も楯もたまらず走り出す。
――風系統魔術『疾走』、風を纏った身体は羽のように軽くなり、高速での移動が可能となる。
地面を蹴ると、文字通り飛ぶように駆ける。
「あ! ちょっとロベルト、どこいくある! アタシへの愛の告白を忘れてるよーっ!?」
後ろからタオが何か叫びながらついてくるが、風の音でよく聞こえない。
そんな事よりダンジョンだ。
俺は全力疾走でダンジョンへ向かうのだった。
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