第14話ダンジョン奥まで進みました
「
俺が『気』を巡らせ、手元に集めるのを見てタオが嬉しそうに手を叩く。
タオは俺が『気』に興味を持ったのがよほど嬉しかったのか、親切にも色々と教えてくれている。
教え方も上手く、俺自身に下地があったこともあり、おかげである程度『気』の操作は出来るようになっていた。
「大したものね。こんな短期間で『気』をものにするとはびっくりよ」
「タオの教え方がいいんだよ。実際に『気』を使っているのを見ながらだと、わかりやすいしね」
「んま、そんな事言って褒めても何も出ないあるよぅ♪」
タオは嬉しそうに腰をくねらせながら、俺の背中をツンツンしてくる。……教えてくれるのはありがたいが、ちょっと気持ち悪いのが玉に瑕だ。
「しかしロベルト、『気』の呼吸、つらくないか?慣れないうちは肺にすごく負担かかるはずよ」
「そうでもないよ」
「んなはずないね。『気』の呼吸は肺が焼け付くような痛みあるよ。アタシでもピリピリするから長期間は無理なのに……」
「うん、確かに痛いけど、でも楽しいしね。全然苦じゃない」
前世でやってた瞑想で慣れてたからかな。
全然平気だ。
「そ、そうあるか……」
俺の言葉に呆れ顔になるタオ。
なんか変なこと言ったかな?
「それにしても、お宝が全く落ちてないな」
かなり深くまで潜っているはずなのに全くお宝に出くわさない。
ダンジョンにはお宝が眠っていると聞いていたが……不良品なのだろうか。
「この程度の魔物しか出てこないダンジョンじゃ、一番奥にしかお宝は眠ってないよ。多分このダンジョン出来たてね」
「あぁ、そうなのか」
ダンジョンはまるで生き物のように成長する。
生まれて間もないダンジョンにいるのは弱い魔物ばかりで、階層も浅く、ボスも弱いが実入りも少ないらしい。
高レベルダンジョンはその逆で、どんどん敵が強く、深くなっていく。
何百年も攻略されてないダンジョンはその上には街が建てられ、人々の生業にすらなっているとか。
「そして、どうやらここが最奥みたいよ」
階段を降りた先にてタオが立ち止まると、目の前にはぽっかりと大穴が開いていた。
中には今まで感じた事のないような強い気配が感じられる。
「感じ取ったようね、ロベルト。そう、ダンジョンの最奥にはボスがいる。それを倒せばお宝ゲットね」
「おおっ、ついにか……!」
「生まれてすぐのダンジョンみたいだし、大したお宝は期待できそうにないけどね」
タオはそう言って笑っているが、何となく妙に大きな魔力を感じる。
弱い割には魔力が大きくないか?
魔術タイプの魔物だろうか。
「ともあれここでグズグズしても仕方ないね。中に入るよ」
そう言ってずんずんと中へ入っていくタオ。
俺はやや警戒しながらついていく。
中は薄暗く、広い空間だった。
妙な結界が張られているようだ。感じた魔力の正体はこれか。
俺が中に入った瞬間、入口が結界で閉ざされた。
なんだこりゃ。外に出られなくなっているぞ。
触ってみると弾かれる。この手触り……魔術ではないのか。
感覚的にだが、光石と同じダンジョンが持つ魔力によるもののようだ。
「無駄ね。ボスを倒すまで開かないよ」
そういえばダンジョンには不思議な部屋がいくつかあるらしい。
ワープする部屋や魔物が異常にいる部屋、回復出来る部屋など。
特にボスの部屋は一度入ると倒すまで出られない、とか。
ふーむ、魔術以外での結界か。じつに興味深い。
「グルルルル……!」
唸り声と共に、部屋の奥から巨大な四足獣が進み出てくる。
灰色の毛に青い瞳、鋭い牙の魔物だ。
「グレイウルフね。危ないからロイドは下がってるよ」
「ガウッ!」
タオが構えると同時に、グレイウルフが飛びかかる。
鋭い爪による引っ掻きを少しだけ下がって躱し、『気孔弾』を放った。
命中、グレイウルフは弾き飛びながらも姿勢を立て直し着地する。
戦闘はタオが優勢だ。
接近戦しかできないグレイウルフは、タオの身のこなしと『気孔弾』になす術がないようである。
とりあえず任せても問題なさそうだな。
俺はこっちの結界を調べさせてもらおう。
ボスを倒したら消えるみたいだし。
「ロベルトに恰好いいとこ、見せるある……! そして……告られ……念願の彼氏ゲットね……! その為に、オマエには、踏み台になってもらうよ……っ!」
「グォォォォォ!」
タオは何か独り言を言いながら戦っているが、グレイウルフの吠え声でよく聞こえない。
……なるほど、この結界の魔力供給源はダンジョンなのか。
という事は結界はダンジョンの能力……? 入った途端に発動するという事は自動制御だよな。
これはどのダンジョンにもあるものらしいが、そこまでして侵入者をボスから逃がしたくない理由はなんだろうか? そもそも何故侵入者を招き入れる? 人を倒して栄養にしているのかも……
「ってこっち見てないあるぅーーーーっ!?」
あぁうるさい。集中できないぞ。
風系統魔術『音声遮断』よし、これでうるさくない。
集中して考え事が出来るというものである。
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