No.049 気分しだいのツミ



「目が覚めると見知らぬ天井と、フカフカのベッドの上にいた」


 と、まぁ知らない場所ではない。

 こんな死にかけてここで目覚めるのは2度目になるのか。


「おはようございます、葛さま」

「あっ、おはよう。気がつかなかった」


 タキシードに身を包んだ小6くらいの吸血鬼、セバスがそこにはいた。

 あれ? 多分だけど結構前からいたよね。

 って事はさっきのって聞かれてた感じかな?


「いえ、私は何も聞いていません」

「あ、ありがとう」


 とりあえず聞かなかった事にしてくれるらしい。

 立ち上がろうとベッドから降りるが上手く足に力が入らず床とキスをしてしまう。


「大丈夫ですか」


 セバスは僕の体を支えてベッドに戻した。


「僕ってどのくらい寝てた?」

「約1週間です」


 結構寝てたのか、ならもう夏休みに入ってる時期かな。


「葛くん」


 和紗が部屋にやって来て僕にダイブ。

 もちろん体を動かせない僕はそのままベッドと和紗のサンドイッチ状態、悪くない。


「ごめん、和紗。心配かけたね」


 一応あとでコアルさんに和紗の動向を確認しておこう。

 でも今はこれを堪能する時間にしよう。


 その後、鈴華と斗駕も来て状況を教えてもらった。

 天津神が刀を振るって僕は吹き飛ばされ気絶。

 血を使いすぎたのと、ダメージ的な理由で昏睡状態に陥ったらしい。

 それで、すぐに立てるようにする方法がある。

 それは……血を吸うこと。


「和紗、いい?」

「うん///」


 コクコクと赤くなりながら頷いている。

 他のみんなは一旦部屋の外に追い出す。

 僕が恥ずかしいのと、和紗も恥ずかしいから致し方ない処置だ。 


「それじゃあ、いただきます」

「うん」


 和紗の白い肌の首もとに牙をたてて血を吸いだしていく。

 和紗は一瞬ビクッとしたがすぐに落ち着いてそのまま惚けた顔になって気絶しちゃった。

 僕の体は無事に動くようにはなった、けど、和紗が可愛くって吸血衝動に駆られる。


「葛さま、終わったようなので」


 セバスが丁度いいところに入ってきたので、理性を保てた。

 和紗は僕の膝の上で寝かせておく。

 その内起きるだろう。


「どうやったら天津神に勝てるかな?」

「私が思うにレベルをあげるべきかと」

「ならやっぱり殺人が効率いいんだよな」


 でも殺人なんてしたら社会的に死んでしまうから出来ないし、なにかいい案が無いものか。


「とりあえず1週間各自でレベル上げをしてね」


 僕は1回休みたい、連続的に血を使いすぎて精神的に辛いのだ。

 これはこう、なにかやりたくてもやる気が出ない感じ。



 ※



「おはよう、和紗」

「おはよう、葛くん。ここは?」

「寮だよ。戻ったんだ。それと色々ありがとうね」

「ううん、葛くんは元気になった?」

「もちろん。和紗と話しているだけで元気になるよ」


 もちろん嘘ではない心からの本心だ。

 それほどまでに和紗という存在は大きくなっている。


「それで、これからどう――――」


 ――――トントントン。


「はい」


 和紗の話を遮ったノック。

 僕は部屋の扉を開けると、


「葛、八乙女さん、先生が全員集合って」

「わかった。ありがと、クリス」


 僕は和紗とクリスと急いで教室に向かう。

 もう他のみんなは揃っていて、僕たちが最後だった。


「よし、みんな揃ったから話を始めよう。そうだな、まずは鬼灯くん、八乙女さん、富士山ダンジョン98階突破おめでとう」

「ココナ先生、本題はなんですか?」


 これは前置きだろう。

 そのためにいい情報、嬉しい情報を先に持ってきた。

 なら次に続くのはやっぱり、


「悪い情報を教えなくてはいけない。みんなも知ってる元A組の姫山ひめやま快斗かいとが昨日、何者かによって殺害された」


 姫山が殺された?

 それは言葉通りの意味だろうがなぜ?


「ココナ先生、それって本当に?」

「あぁ、残念ながら本当だ。そして、この事は明日発表される予定だ」


 南条の質問に淡々と答えるココナ先生。

 そして、明日発表される事を今日言ったのにはなにか理由があるのだろう。


「犯人はわかってるんですか?」

「あぁ、今からそれを言おうと思っていた所だ」


 誰かが息を飲む。

 それに、文鷹は犯人の目星がついてるとわかってて質問したな。


「犯人は京ダン高2年A組1番、テラ」


 薄々予想はしていた。

 テラはこの辺にいることはわかっていたし……そういえばテラって行方不明中だったっけか。

 でも、やっぱりテラが犯人なのか。

 とうとう暴走しちゃったか?


「そこで、A組の生徒には外で武器を使用する許可が降りた。テラは見つけ次第捕獲。無理なら殺しても構わない」


 そこまでの事態なのか?

 そもそも武器を使用していいって相当なことだ。

 だって一般の生徒が武器を持つなんて危ないじゃん。


「それから京ダン高の生徒たちも来る事になっている。なるべくこれからは2人1組で行動してくれると助かる。なにかあったらすぐに助けを呼ぶように。解散」


 さて、テラが簡単に見つかってくれるとありがたいのだが、そう簡単にはいかないだろう。

 まして、普通に外を歩くとかあり得ない。

 あるとしたら、


 ブブブブ ブブブブ ブブブブ


 僕のスマホに一件のメールが届いた。

 内容は「富士山ダンジョンに来てくれない?」とだけ書かれていた。

 送り主は誰か。

 そもそも僕は家族以外にメールアドレスは教えてないはず。

 考えなくても流れ的にテラだろう。


「和紗、今すぐセバスたちに連絡して。富士山ダンジョンに潜るから」

「う、うん。わかった」


 僕は和紗と急いで富士山ダンジョンへと向かう。

 その途中、学校の廊下で「理事長が代わるらしい」という声が聞こえたが今は構っていられない。

 これを後回しにしたら面倒な事になりそうだけど。



 ※



「葛さま、いきなり富士山ダンジョンに潜ると言われましたが、勝てる保証はありません」

「大丈夫、一応ボスが目的ではないから」

「かしこまりました。ですが、くれぐれも無理はなさらぬよう」


 そのまま僕たちは1階層事、念入りに調べて、テラがいないか確認していく。



 ~~90階層~~


 ここまで一切いなかった。

 そして3日かけてここまで来た。

 なに1つとしていい情報は得られず、手がかりすらも無かった。



 ~~98階層~~


「やぁ、待ったよ」

「テラ、自首したらどうだ?」


 テラの気配は今までとは明らかに違った。

 なにが違うか、それは僕と同じく吸血鬼だということ。

 そしてその強さが僕に迫るほどの物。

 レベル的に下手をしたら勝てない可能性すらある。


「自首する? なんで。僕は神の名の下に罪を与えるだけだ」

「姫山の罪は?」

「詐欺、嫉妬、ねたみ、逆恨み、逆上ぎゃくじょう、殺虫、略奪りゃくだつ。それと、僕の事を性的な目で見た」


 所々じゃないくらいおかしな所があった。

 しかも最後のは酷すぎる。

 性的な目で見るって、テラの見た目は童女で……姫山ってロリコンだったのか?


「さて、僕が君を呼んだのは次の階層のボスが僕1人では倒せ――――」


 ――――ブブブブ ブブブブ ブブブブ


 テラの言葉を遮り、ここにいる全員のスマホが鳴り出す。

 そこには、天神族の住む大陸、サルバンにあるレベルSのダンジョンがクリアされたという内容。


「マジかよ」


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