No.048 神のキブン



 富士山ダンジョン



 ~~97階層~~


 ここの階層からまた変わった。

 と言うのもいきなりボス部屋があるからだ。

 そしてそこから予想出来るのは相当強いということ。


「富士山ダンジョンに潜ってから2ヶ月ですか」

「どう? 斗駕。収入は前と比べて」

「それはもう段違いですよ。これじゃあ葛さまに足を向けて眠れません」


 染々しみじみとしていた斗駕、中々「葛」って呼び捨てにしてくれないから悩んでる。

 流石に慣れたけどやっぱり周りの目が痛いから。


「よし、行こっか。準備大丈夫?」


 みんなが頷いたのを確認してからボス部屋に足を踏み入れる。


「マジか、幻獣種かよ」


 予想は少しだけしていたが、こうも来ると流石に驚く。

 そこにいるのはただの黒猫、然れど黒猫だ。

 なぜ幻獣種かわかったかって?

 それは黒猫の尻尾が2つに割れてるからだ。


「猫又?」

「鈴華は知ってるの?」

「妖怪っていますでしょ? それの類いですから幻獣種で正解です」

「けど一向に攻撃してこないよ?」


 黒い猫又はその場から一切動かずに尻尾をユラユラと揺らしてるだけだ。

 それで特に何かが起こる訳でもなく、ただ時間が過ぎていく。

 攻撃しても当たらず倒す事が不可能に近い。


 1時間くらい経過した頃、黒い猫又はガラスが割れたように砕けて次の階層に行けるようになった。

 結局なんだったんだろう?

 まぁ、運が良かったのかな。


 特に何か落ちなかったのは残念だった。



 ~~98階層~~


 もちろんここもいきなりのボス部屋がある。


「みんな、大丈夫?」


 特に疲労はなかったからボス部屋へと足を踏み入れる。


「やっぱり次も幻獣種なのか」


 そこには綺麗な鱗を身に纏う黒龍がいた。

 蛇のように長い胴体と黒曜石のように綺麗な鱗。

 いるだけで威圧感を放ち続けている。


「く、黒夜叉」


 各自武器を構える。


『何ようだ、下等種族』

「申し遅れました、僕は吸血鬼第二始祖の鬼灯葛です」


 攻撃をしてこなさそうだったから一応自己紹介だけしておく。


『吸血鬼とな。フハハハハハハ、その様な種族がいたとは知らなかったぞ。興味深い、相手をしてやろう』


 そう言うと黒龍はブレスを吐いてきた。

 とても広範囲で地面は全てブレスの残留に覆われて降りれなくなる。


「混沌陰法 天使の翼」


 これで始めての空中戦になる。

 馴れないけど勝てるかな?


『ほう、1回で終わらせようと思っていたが空を飛べるのか。だが空中は我の領域ぞ』


 黒龍は素早い動きでこちらに向かってくる。


「陽法 蒼の太刀 裏切り」


 斬撃を残しながら距離をとるがその全てが無駄だった。

 斬撃では傷1つつかない鱗、それでいて重たい一撃。


『これでも耐えるのか、面白い』


「みんな、自分達の身だけを守って」


 全力で行かないとだな。

 両目に力を込めて、魔力眼と予知眼を発動させる。

 次の動きか少しぼやけているが見える。


「永久凍結」


 黒龍目掛けて凍らせるが一瞬の事、ブレスにより無に還されてしまった。


「これならどうだ。乱魔」


 何か効果があるかわからないけど一応使う。

 すると、


『ほう、中々に面白い技を使うのだな、吸血鬼というのは』


 さっきと比べると少しだけ動きが鈍くなった。

 それでも倒せないから黒龍は相当だ。


「血よ」


 あんまり使いたくない本気、黒夜叉から棘がはえて僕の腕に巻き付く。

 そして血を吸収して黒夜叉はどんどんと力を溜めていく。


『楽しかったぞ』


 黒龍は急に少し焦った気がしたのは気のせいじゃないだろう。

 これなら倒せるかもしれないな。


「陽法」


 血を吸われた事により、少し貧血気味だけどまだ大丈夫。


「血の太刀」


 黒龍のブレスを体に受けながらもどうにか耐えきる。

 流石にヤバイじゃおさまらないかもしれない。

 一瞬にして様々な未来を見透す。

 その中で唯一黒龍を倒せた未来を選択する。


白刃びゃくじん


 黒夜叉は白く輝いて、黒龍の逆鱗を打ち砕く。

 すると黒龍は悶え苦しみながら地面に落ちた。

 そこには黒龍のブレスの残留があり、それに体を蝕まれながら死んでいった。


 終わった、時間にして10分も経ってないだろうが、相当疲れた。

 吸血鬼になってここまで疲れたのは始めてだ。

 いや、人間の時もここまで疲れる事はなかったな。


 葛は糸の切れた人形のように地面に落ちていくが、ギリギリの所で和紗が助けた。

 その後、葛が起きるまで1日ほど待つことになる。



 ※



 ――――僕は死んだのかな?


 薄い意識の中でそう思う。


 ――――頭に幸せな感触が


 これは死後の世界だからだと思う。


 ――――和紗の匂いがすごく近くにある。


 それだけ恋しいのかな?

 それだけ残して来たのを後悔しているのかな。


 ――――いや、まだ死ねない



 ※



「あっ、おはよう」

「おはよう、葛くん」

「僕ってどのくらい寝てた?」

「約1日ほどです」

「そっか」


 三途の川を見た、とは言わない方がいいな。

 てか、三途の川なんて2度と見たくない。


「葛さま、軽い軽食です」

「ありがと」


 紅茶とサンドイッチ。

 普通に美味しいけど、セバスが作ったのかな?


「作ったのは私よ」

「鈴華が?」

「あら、意外そうな顔ね。どうしてか聞いても?」

「い、いやー」


 戦闘狂の作るサンドイッチは美味しかった、そう記憶しておこう。


 さて、次の階層はどんな敵かな?

 絶対おかしな強さを持ってるはずだ。

 それをレベルだけでカバー出来るかな?

 そうだ、


「黒龍が落としたのは」

「こちらになります」

「ありがと、斗駕」


 それは透き通る黒の曲刀シャムシェール

 能力は鑑定しないとわからないが、多分強い。


「葛くん、どうする?」

「うん、もう休めたから行こっか」


 黒の曲刀は魔法収納袋に入れて次の階層に行く。



 ~~99階層~~


『さぁ、よく来たね。神に逆らいし者』


 宙にフワフワと浮いている天津あまつかみ、手には一振りの刀が握られている。


「入ってすぐにボス部屋に繋がってるとか」


 天井は一切なく周りを見ると山の頂上って感じ。

 雲はここより下にあるから、相当な高さがあるだろう。


「黒夜叉。混沌陰法 天使の翼」


 僕は宙を舞い天津神に近づいていく。

 本気の本気、両目の力を開放し、


「血よ」


 黒夜叉からはえた棘が僕の右腕に絡み付き血を吸い上げる。


「陽法 白の太刀 白刃」

『神刀 合わせ鏡』


 天津神の刀は黒夜叉と同じ動きをして唾競り合いに切り替わる。

 吸血鬼としての力を最大限に使うが全く押し返せない。

 て言うか、僕の方がジリジリと押されている。


「月華」

『流星円刀』


 和紗の円刀を光輝く円刀が容赦なく攻撃していく。

 壊れはしなかったが、下の被害が凄いが、セバスがいい感じに防いでくれた。


「神樹の枝」


 魔法収納袋から神樹の枝を出して思いっきり叩く。

 が、それすらも片手間で掴まれて防がれる。


『面白いが、そうだな。まだ早かったようだ。また来るがいい。俺はここで待っている』


 その言葉を最後に僕は記憶が飛んでいる。

 僕は何をされたのか。

 はたまた命を落としてしまったのかわからない。


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