No.050 罪とホウギョク



 富士山ダンジョン



 ~~98階層~~


「マジかよ」


 そんな言葉が漏れるのは仕方のない事だろう。

 だってここと、富士山ダンジョンと同じレベルのダンジョンがクリアされたのだから。


 「急いで倒さないと」

 テラの独り言は誰にも届かなかった。


「さぁ、鬼灯くん。僕と一緒にここのボス、天津神を倒そう」


 天津神を倒すのはやぶさかではない。

 けどだ、けどテラの目的がわからない。

 そもそもテラの姫山に対する「罪」は理不尽すぎる。

 それに対して「罰」が「死」というのはおかしい、狂ってる。


「どうする? もし協力してくれないって言うなら僕のかてとなってもらうけど」

「そんなのごめんだな。だからテラと一緒に倒してあげるよ、ボスを」


 結局こうなる運命だったんだろうな。



 ~~99階層~~


『やぁ、また来たね。けど少ししか強くなってない。おや、それと1人増えたんだ』

「僕は神の使徒だ。今からお前を倒す」

『神の使徒だと言うのに神である俺を倒すと? 笑わせてくれる。それが本気ならな』

「カハッ」


 テラの心臓部分には光の集合体の剣が刺さっている。

 早すぎて見えなかった、力の差がありすぎる。


「回復陰法 血界輪けっかいりん


 継続的な回復陰法を全員にかける。

 もちろんテラにもだ、今は仲間だから。

 光の剣は少しずつ消えて傷口が癒えていく。


「陰法か。やっぱり魔法よりも凄いね、それ」

「そりゃどうも。黒夜叉。混沌陰法 天使の翼」


 宙にとどまる天津神に一気に近づいていく。


「前の二の舞にはならない。陽法 黒の太刀 断絶」

『神刀 合わせ鏡』


 前と同じ能力、これが天津神の能力なのか?

 僕の空間を斬る刃と天津神の空間を斬る刃とでぶつかりあう。


『面白い、空間を斬るのか。こんなのはどうだ? 神刀 写し鏡』

「血よ。陽法 血の太刀 白刃びゃくじん


 天津神の刀の動きはこの前の僕と同じ、それをコピーしているのか。

 それに合わせるようにして血を使い技を発動する。

 お互いに打ち合わせての唾競り合い、だが、僕の方が少しだけ押せている。

 この天津神の技はあの時と一緒だからだろう。

 ほんの少しだけだが、僕の力が上がっているんだろう。


「おっ、りゃぁー」


 力いっぱい振り抜くと天津神が後ろに下がり避けた。

 僕は急いで距離をとり、回復に努める。


「次は僕だ。宝具 罪人のつるぎ

『小賢しい、神の使徒とかいう嘘つきめ』


 一瞬、ほんの一瞬の出来事だった。

 テラの両腕は吹き飛び、足は無くなり、体にはいくつもの穴が空いている。

 これではいくら何でも回復が間に合わない。


「神法 世界樹の雫」

『ほう、神の使徒と言うだけの事はある。けど足りんな』

「陽法 翠の太刀 飛雲」


 ギリギリ斬撃が間に合いテラは天津神から距離をとる。

 2人でも勝てない。

 そもそも和紗たちでは太刀打ちが出来ないから助っ人も望めない。

 なにか方法……思い付いた。

 けど、ここでやっていいかな?


「なにかあるの?」

「あることにはあるけど」

「じゃあ時間稼ぐから」

「……ありがと、テラ」


 僕は和紗に近づきあることを伝える。

 最初は驚いてたが、すぐに納得してくれた。


「いくよ、和紗」

「私もいくよ、葛くん」


 お互いに首ものに牙をたてて血を吸いだす。

 それだけで力が沸いてくる。

 それも、和紗は僕の比じゃないくらいの力だろう。


「月華。陽法 黒の太刀 断絶」

「マジかよ。血よ。陽法 血の太刀 白刃びゃくじん

「宝具 罪人の剣。殺人未遂」


 3人の持てる最大最強の技、和紗のは正直以外だった。

 そもそも僕は教えてないし、見よう見まねで出来たのは才能だろう。

 そしてテラのはさっきの傷の事だろうな。


『面白いが、これでは死なんよ』


 そう簡単にはいかない。

 これほどまでに力の差があるのかよ。


「これ、使ってみようかな」


 唐突に思い出したアレ、98階層で手に入れた黒龍の曲刀シャムシェール

 鑑定をし忘れていたが強いはずだし、ここの階層前で落ちたからには役立つはずだ。

 現に、天津神はこれを見て僕の事を殺しにかかっている。


「させないよ。神法 神秘の壁」

『邪魔だ!』


 ガラスのような盾を一撃で粉砕。

 そしてその間に入って来たのはセバス。

 そしてセバスが持っているのは見たことのない大きな盾。


『それも邪魔だ』


 強い力で殴られ普通は吹っ飛んでしまうはずだった。

 が、吹っ飛んだのは天津神の方だった。


「今です」

「ありがと」


 僕は持てる力を込めて黒龍の曲刀を天津神に振るう。

 天津神は腕で防いだが、腕は斬り落とされ、蹴りを出すも僕は合わせて足を斬る。

 そしてがら空きになった首を斬る。

 その早さは今までで、最高の一撃だった、陽法を使うよりもよかっただろう。


「終わった……?」


 天津神の姿はもうない。

 かわりに1つの刀、神刀だろう。

 それと、次の階層に進むための階段が現れた。

 血を使い過ぎたせいでお腹が空いてきたな。



 ~~100階層~~


 テラが僕たちを押し退けて我1番に行ってしまう。

 慌てて追いかけて、


「やった、やったぞ。これで僕は、神に選ばれし存在だ」


 テラの目の前には1つの祭壇さいだんとそこに置かれた1つの黒く輝く宝玉。

 テラを止めたいが、距離的に間に合わない。

 その宝玉に恐る恐る手を触れたテラ。

 そして、


「これで僕は、最強だ。後はラックを倒すだけ。そうだ、君たちもありがと。でも用済みだから……死んで。宝玉の力よ」


 なにか来る。

 そう思い身構えるがなにも起きない。

 遅延性が高いのか、動いたら死んでしまうのかわからない。

 またはハッタリか?

 いや、まさかな。


「なぜ発動しない。宝玉の力よ」


 テラは宝玉を高く掲げるが特に何も起きない。

 ていうか、宝玉は色を失い透明の水晶のようになっている。


「宝玉の力よ、宝玉の力よ」


 何度も叫ぶが結果は同じ。

 それでもテラは何度も何度も叫ぶ。


「葛くん、あれって」

「ほっといてもいいのかな?」

「でも学校で捕獲または殺害の命令が出てるよ」


 いったんテラは無害そうなので今後の作戦会議をする。


「なんで、なんでなんだよ。僕は、僕は神に選ばれはずだ。神に選ばれた、僕は神の使徒なんだよ」


 1人喚いているが、結果は依然として変わらずに少しだけ可哀想に思えてくる。


「宝玉の力よ。なんで反応しないんだよ」

「宝玉の力よ?」


 僕はボソッと言ってしまった。

 すると辺りは1面黒く覆われ、僕の背後に1つの黒く輝く宝玉が浮かんでいる。

 なんで?


「なんで、なんで僕じゃないんだよ! おい、鬼灯。なにをした。今なら間に合う。僕にそれを渡せ」

「いやだ。渡したら殺されるから」


 だってさっき思いっきり「用済みだから……死んで」って言ったの忘れてないからな。

 それにしてもこれは凄い。

 今までと比べ物にならないほど強い力が体を流れている。


 ――――ぐぅ~~~~。


 それと猛烈にお腹が空いている。

 餓死してもおかしくない位のお腹の空きよう。

 血を使い過ぎたせいでお腹が空いてたのに、それに上乗せされた感じだから太刀が悪い。

 けど、目眩とかそういうのは一切ないのが不思議だ。


「お腹空いた」


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