No.046 犯罪者のマツロ



 富士山ダンジョン



 ~~60階層~~


 ちゃちゃっとボスを片付けて次の階層に行こう。

 そう思っていた時期が自分にもありました、はい。


「和紗、3人を守ってて」

「任せて。葛くんも気を付けて」


 目の前にいるボスは氷狼、俗に言うフェンリルと呼ばれる幻獣種である。

 氷狼はセバス、鈴華、斗駕の3人を氷の彫像に変えてしまった。

 更にその氷は溶かす事が出来ずにいる。

 そしてどういう訳か僕と和紗は凍らない。


「陽法 紺の太刀 戯れ」


 沢山の斬撃を放つがすばしっこく全て避けられてしまう。

 ちょこまかと厄介極まりない。


「なら本気でいく。予知眼」


 左目が蒼く染まり視界が少しだけぼやける。

 が、すぐに安定して、次に氷狼がどういう動きをするかがよくわかる。


「陽法 紺の太刀 戯れ。からの、陽法 黄の太刀 一閃」


 氷狼が斬撃を避けた所を一突きで仕留める。

 すると最初の内は暴れまわり抵抗を見せたが次第に動きが鈍くなり最後には消えた。

 彫像となった3人はすぐに解放されたが、とても寒そうで1度解散ということになった。

 1週間ぶっ続けのダンジョン探索は楽しかったな。



 ※



 さて、幻獣種である氷狼を倒した時に落ちた武具、それは籠手だった。

 蒼く見るだけで寒くなるような色、それでいて輝く白い毛皮、がついていてオシャレだ。

 そしてもちろん鑑定してもらうために魔石換金所に来た。


「これの鑑定をお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちを……こちらは何階層のドロップ品ですか?」

「60階層です」

「へぇ~、60階層……ろ、60階層!」


 その後すぐに鑑定は終わり武器の能力がわかった。

 〔固有能力:永久凍結えいきゅうとうけつ〕と〔固有能力:氷の棺桶アイスコフィン〕と言う能力。

 〔固有能力:|永久凍結〕は溶けない氷を作り出す能力で、〔固有能力:|氷の棺桶〕は人でも魔物でもなんでも仮死状態にさせる能力。

 氷の棺桶は使う機会が思い付かないし、どうやって使えばいいんだろうか。



 *



 とある町のとある路地裏。

 そこにいる2人の吸血鬼。


「久しいな、ルーベン」

「どうも、シリウス。マスクとサングラスは外してもいいんじゃないか?」

「あぁ、そうだな」

 

 小学生くらいのイケメン吸血鬼と、好青年な吸血鬼。

 そして、


「みーつけた」


「な、ぜ、なぜお前がここに」


 ルーベンが驚きの声をあげる。

 それにシリウスが、


「知り合いの吸血鬼か?」

「いや、あいつは天神族で吸血鬼ではないはずだ」


 その気配は紛れもなく吸血鬼で自分たちと同格かそれ以上。

 親が吸血鬼を増やしたという情報は2人に届いてない。


「考えられるのは」

「鬼灯って吸血鬼が増やした可能性だな」

「ルーベンも鬼灯を知っているのか?」

「そっちもか」


「まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。混沌陰法 空絶血界で大丈夫かな」


 その瞬間3人を包み込む結界が現れる。

 これでルーベンとシリウスは逃げ道を封じられた。


「さて、どっちが最近の連続殺人をした方かな?」


 テラの質問に2人はお互いを指さす。

 お互い自分が生き残る為に必死で、嘘をついてでもここから逃げる必要がある。


「そっかー、面倒だから……えいっ」


 そんな可愛いらしい台詞と共にルーベンとシリウスは命を落とした。


「大漁、大漁」


 2人の足首を掴んでズルズルと運んでいく。



 *



 念のため、ということで1ヶ月ほどダンジョン探索は休みにした。

 怪我とかは特になかったけど、休みは大事だし、特に斗駕はまだ馴れない体だから一応って事だ。


 それと聞いた話、富士山ダンジョンは今52階層まで進めているらしい。

 僕たちのは狂ってるからカウントしない。


「ただいまー」

「お帰り、和紗」


 和紗は何処か用事があると昨日から出掛けていた。

 5時には帰ると言っていたが帰ってきたのは6時過ぎで、束縛はあまりよくないけど少し心配だな。

 まぁ、いざとなったら相手を殺せば万事解決。

 大方、ドリーさんを倒す敵組織との連絡だろう。

 けど、和紗は中々尻尾を出さないし、本当に僕の事を好いてくれてるよね?


「明日からダンジョン探索再開だよね」

「うん、そうだよ。和紗は準備出来てるよね」

「もちろん。葛くんのそれかっこいいね」

「あ、ありがと」


 それは氷狼の籠手の事だ。

 軽く練習してみたが使い勝手がよく、中々にいい代物。

 それと〔固有能力:氷の棺桶アイスコフィン〕についての使い方は未だに思い付かない。


「和紗、何か食べに行こっか」

「うん」


 僕は和紗と一緒に近くのイタリアンレストランに行く。

 ここはダン高の生徒だと割引されるという中々にいいお店だ。


「いらっしゃいませ。2名様ですね」


 そのままテーブルに移動し僕はカルボナーラを、和紗は和風パスタを注文する、それとマルゲリータも。

 時間も時間ということもあってか、ダン高の生徒が半数以上いて、その視線はこっちに、特に和紗に向いている。


 これは後から聞いた話だが和紗は2年生の中で1番可愛いとされていて、フリーという情報まで流れている。

 そんな訳ないよな?


「ごめんね、少し遅くなっちゃって」

「大丈夫だよ、ちゃんと帰ってきたからいいよ」


 何してたのかは少し、本当に少しだけ気になるけど。

 嘘です、物凄い気になります。


「あのー、よろしいでしょうか?」

「君は?」


 1人のダン高の生徒、特に吸血鬼とかそういうのじゃなく普通に人間、僕より背が高い。

 一応僕が受け答えをする。


「俺は彼女に、先輩に用があるのです」


 そう言うとその生徒は和紗の方に向き直り、


「失礼しました。俺は1年A組の北星ほくせいなぎさです。よろしければ俺と一緒にご飯でもどうですか?」


 そう言う北星の席は他にも女子生徒が沢山いて、なんかハーレム作ってやがる。

 あっ、思い出した。

 北星って南条と並んで凄い財閥だったような。

 この日本には今4つの財閥があって、南条家、北星家、東町ひがしまち家、西曜せいよう家の4つだ。


「なんで私なの?」

「それはもちろん可愛いからです。噂はかねがね伺っています。なんでもA組として京都の伏見稲荷横 ダンジョンをクリアしたり、元横浜海底ダンジョンをクリアしたり、更には2年生の中で唯一富士山ダンジョンの最深階層を塗り替えたりと」


 あれ? 僕も一応その全てに関わっているのに。

 しかも、富士山ダンジョンとかは僕がパーティーリーダーになってやってるのに。


「ご遠慮させていただきます」

「なぜですか? そちらの男の方がいいと言うんですか?」

「はい。そうですけど?」


 北星は忌々しそうに僕を睨みつけてから、


「1年なん組だ? 順位は?」


 そう、高圧的に言ってきた。

 おいおいおい、いくら僕の背が伸びなくなって君よりも小さいからって1年と決めつけないでくれよ。


「僕はこれでも2年生だよ」

「はっ、そんな嘘で見栄を張った所で変わらないから正直にいいな」

「別に嘘はついてないよ。ほ――――」

「――――わかった、いくら欲しい。だから君は帰りたまえ」


 学生証を見せようもしたが遮られてお金を出そうとしている。

 僕にはいつになったら平和が訪れるのだろうか。

 誰か平和を連れてきてー。


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