No.041 神樹のユクエ



『ここいらで目玉商品いっちゃおー』


 その声とともに出てきたあの刀。

 見た目は普通で強そうには見えない武器。

 これでマイナス要素が高いから太刀が悪い。


『それでは1,000,000からスタート』


 どんどんどんどん値は上がっていく。

 「これでもかっ」ってくらい上がり100,000,000,000円で落札された。

 買ったのは南条財閥のご子息で、「可愛い妹にプレゼントする」と言っている。

 これは面白いことになりそうだ。


『さてさて、いやーまさかあれほど高額で落札されるとは。いやはや、この世はわかりませんな。えーでは次の商品、神樹の枝。これはエルフの国、グロンダントにあるランクSダンジョン、世界樹から落ちてきたという枝です。見てくださいこの頑丈さ』


 司会の人は枝を振り回して色々な所にぶつけている。

 それでも枝は壊れずに、逆にぶつけた所が壊れる始末。

 冷や汗をかきながら、


『7,000,000からスタート』


 これまたどんどんと値が上がっていき結果は250,000,000円で落札された。


「なんでそんな枝を買った?」

「これを武器にしよっかなーって」

「でも壊れないじゃん」

「陽法でどうにか出来ると思うから」

「あー、あのズルくて強いやつね」


 これで木刀なんかを作れば強いだろうから、なんともいい考えだな。

 その後もオークションは続いていったがめぼしい商品はなかった。


 寮に帰ってから木刀作りを始める。

 と、言ってもやることは簡単。

 神樹の枝を宙になげて、それを綺麗に斬る。

 だからこんなのすぐ終わる。


「黒夜叉。陽法 黒の太刀 断絶」


 ガギッ


 あれ?

 びくともしなかった。

 それに嫌な音がなった。

 黒夜叉は刃こぼれを起こしている。


「これは明日にでもローザスさんに直してもらおう」


 それから部屋へと戻る。


「どう? 完成した?」

「ダメだった。もうこれそのままでも十分かな?」

「見た目がアレじゃないかな」

「やっぱり? でもなー。その内、案が見つかるだろうから今はこのままでいいや」


 それから数日間、僕のあだ名は木の子キノコになった。



 *



 ダン高が京都に修学旅行に行っているある日のとある喫茶店。

 そこで人を待つ1人の男、神原かんばら京介きょうすけがいた。


「遅い、遅すぎる。けど相手はスチューバーさんと同じ第二始祖で勝てないから歯向かえない」


 ボソボソと独り言を呟く姿はまるで犯罪を犯す前の人のようだ。

 そんな犯罪者に近づく1人の男の子。


「あなたが神原さんでしょうか?」

「あぁ、そうだ。場所を変えよう」

 

 その男の子は茶髪でイケメン、ヨーロッパ系の顔立ちをしている。

 ヨーロッパは今ない地域なのだが、そういう言い回しをする。

 そんなヨーロッパ系の男の子と犯罪者は京都の町並みに見向きもせず路地裏へと足を進めていく。


「申し遅れました。僕は第三始祖のルーベン・アラベラです」

「俺は第三始祖の神原京介だ。それで?」

「はい、如月きさらぎ国仁くにひとさまはこの前殺されました」

「それは……だれに?」

「テラ、という天神族です」

「天神族か。それでソイツには勝てるのか?」

「いえ、無理でした。陰法でも回復出来ない傷をつけられてしまいます。そうして、国仁さまは」


「おっ、なんか楽しそうな話をしてるね。吸血鬼の話かな?」


 そこに現れたのは1人の少女、体力を消耗して疲れているのかあまり覇気がない。


「あの人がテラです。どういうわけかここにいます」

「なら手っ取り早く殺す!」


 神原は槍を手に取り攻撃を仕掛ける。

 どれも目を狙う早い一撃、それを華麗に避けていくテラ。


「こっちは世界一の人と吸血鬼相手にしてたんだから疲れてんだよ。イジメ、えいっ」


 神原は一切の油断をしていなかっただろう。

 防いだはずのテラの〔断罪〕による一撃は槍をすり抜けて体を貫いた。


「なん、で」


 地面に伏してから動かなくなる。


「神原さんが、戦うか? でも僕は勝てない。けど今戦わないと後悔するかも。よし、我流吸血鬼術奥義……逃げる」


 ルーベンは煙を撒いて一目散に逃げ出す。


「なん、で」


 神原は違う意味でも驚かされた。

 1度目はなんで攻撃が当たったのか。

 そして2度目はルーベンがなぜ逃げたか。

 けどそんなものの答えなど出ない。

 何故ならもう命が途絶えたからだ。


「あっちを追うにしても疲れたからな。それにしても吸血鬼か。面白いから食べてみよう」



 翌日、京都の路地裏で血痕と頭だけ残っているのが見つかり大事件になった。

 犯人と思わしき人物として「ルーベン・アラベラ」が指名手配された。



 *



 12月中旬のある日、


「あと1週間もしない内に和紗の誕生日だ」


 12月25日、世間一般はクリスマスだが僕は違う。

 なんて言っても和紗の誕生日なのだから。

 プレゼントはもちろん決まっている。

 オークションで落札した[稚貝ちかいの真珠]を加工して作ったイヤリングだ。

 片耳分しかないじゃないかって?

 それはご安心を、今ならなんと、僕が見つけた[稚貝の黒真珠]もセットになっています。

 と、おふざけはこのくらいに。


 僕はその日が近づくにつれてソワソワし出した。


「葛くん最近落ち着きないけどどうしたの?」

「そ、そうかなー」


 なんか「落ち着きない」って言われて凄い凹むかも……。


「あっ、落ち着いた。なにか隠してる?」

「いや、和紗の誕生日を祝いたくてソワソワしてるとかそういうのは無いから」

「そ、そっか」


 和紗は一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐにいつもの可愛い和紗に戻った。

 あれ? 今の僕の台詞ってどこをどうとってもツンデレの発言だよな。

 それに和紗は気がついたようで笑顔が2割増しになってて可愛いもん。


「ねぇ、クリスマスって暇?」

「うん、もちろん暇だよ」


 よし! 予定も空いているようだ。

 いや、予定を空けてくれてるの方が正しいか。

 自意識過剰じゃないかって?

 ノン、ノン、ノン。

 確かに和紗はまだ敵と繋がっている可能性は高い。

 けど、僕への気持ちは本物のはず……うん、そのはず……だよね?



 それから日はこれでもか、というくらい早く進んだ(気がした)。

 そして迎えたクリスマスではなく和紗の誕生日。

 予約していたレストランで美味しい美味しい料理を頂く。

 お酒は飲めないからしょうがなくジュースで、本当はこういう時ワインがいいけどね。


「和紗、お誕生日おめでと」

「ありがとう! 開けていい?」


 僕はイヤリングの入った箱を和紗に渡す。

 和紗は喜んでくれた。

 白と黒のイヤリング、それを身につけた和紗。

 なんとも可愛く絵になるとはこういうのを言うんだろう。


「そういえば葛くん、これはオークションで買ったやつだよね」

「うん、そうだけど嫌だった?」

「いや、違くて。葛くんに貰った物だから嬉しいよ。それで神樹の枝ってどうしたの? ダンジョンでも使わないよね」

「あー、あれね」


 僕は今「遠い目」というのをしているだろう。


「あれは魔法収納袋に眠ってるよ」

「やっぱり加工出来なさそう?」

「うん。それにローザスさんでも無理だった」

「そっか」


 そんないつも通りの会話をして聖なる夜は終わりを迎えた。


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