No.040 稚貝のシンジュ



 テラに忍び寄る1つの影。


「ウォーーラァッ」

「うわっ」


 それは姫山のお父さんだった。

 ただの拳の振り落とし、世界一のダンジョン攻略者の一撃はコンクリートの地面を割るほどの力だった。

 テラはそっちに意識が集中しているのか、動けるようになった。

 否、僕が抵抗しようとしてたから僕だけ動ける。


「黒夜叉。回復陰法 血界輪けっかいりん


 姫山の傷は一瞬にして治りどうにかなった。

 それを自分自身にもかけておく。

 これは持続型の回復陰法だからテラの攻撃を10分は喰らい続けれる。


「君も邪魔するんだ」

「シッ」

 

 テラの断罪の剣を黒夜叉で防ぎ時間を稼ぐ。

 姫山のお父さんは落ちていた刀を手に取りこっちに向かってくる。


「テラ、もう止めよ――――」

「――――弱いフリをして攻撃を仕掛けさせた。身分を下と偽り騙した。同族を殺した。同族の仲間を利用して殺させた。他者を蹴落とし合格した」

「なっ」


 テラはつらつらと罪を羅列していき僕に攻撃してくる。

 それらすべては防ぐことが出来ずに黒夜叉をすり抜けて僕の体に傷をつけていく。

 1つでも致命傷レベルの傷が5つ。

 それらは一瞬にして治り普通に戦える。


「陽法 紺の太刀 戯れ」


 至近距離からの沢山の斬撃、それら全てをテラは容易に避けて、更には姫山のお父さんの攻撃までも軽やかに避けている。

 なかなか決着がつかずに1分が経過した。


「あー、もう。わかったよ。殺そうとしたのはごめんね。というわけでドロンッ」


 その言葉と煙を残してテラは消えてしまった。

 ここ近辺にはいなさそうだ、半径1km。

 さて、これからが大変になりそうだ。


「助けてくださりありがとうございました」

「いえ。それとこの前はすまなかった。息子が死にそうでつい横暴をしてしまった」

「それで、今日はどうして来たんですか?」

「ココネだったかココナだったか忘れたが先生に今日ダンジョンクリアしそうだから問題を起こす前に来てくれ、と言われてな」


 なるほど、ココナ先生が呼んでくれたのか。


「けど間に合わなかったようだな。だから本当にすまん」


 皆の方に向き直り、とっても綺麗な土下座をした。

 すぐに起こしてから姫山は連れてってもらった。

 それからダンジョンクリア者は姫山以外、という事になった。

 これは姫山のお父さんの意向だ。



 ※



 修学旅行からはや1ヶ月。

 皆の様子は変わらず、僕もいくつかのダンジョンに潜ったりした。


 ただ1人、姫山だけは日に日に服がボロくなり痩せこけていった。

 少し気になってしまったから原因を聞くことにした。


「それでなんでなの?」

「お、お金が腐る」


 ボソボソと喋っているがどうにか聞き取れた。

 お金が腐る? と疑問に思っていると、


「これ」


 それは姫山のダンジョンカード。

 これは電子マネーでもあるから凄い便利だけどどうしたんだろう?

 ん? 次に出したのはお金を移行する機械?


「鬼灯、貸して」

「貸してってダンジョンカードを?」


 無言で頷く姫山。

 姫山のカードを上に、僕のカードを下にして、姫山のお金が僕に移行させる形をとる。

 そしてボタンをポチッ、


 ――――ビーーーッ


 音とともに、「errorエラー」の文字が。


「えっ、僕のカード壊れてる?」

「違う……誰か呼んで?」


 そう言われて和紗を呼ぶ。

 そして僕のカードを上に、和紗のカードを下にしてボタンを押すと成功する。


「これで10回」

「10回? なにが?」

「修理の数」


 なるほど、10回も修理してそれでも上手くいかない、と。

 1つ心当たりがある。

 と言うか、それ以外には考えつかない。


「姫山、それって武器が原因なんじゃないの?」

「武器が? ……言われてみれば、あの武器にしてから戦いに関しては調子がよかったかも」

「鑑定してもらったら?」

「う、うん。そうする」


 それから僕は和紗と自分の寮へと戻っていった。


「そういえば葛くん。あの武器って葛くんのだよね」

「えっ? そうだっけ……あっ、思い出した」


 そういえばそうだった。

 あれからやけに姫山が静かすぎて忘れていた。

 でもなー、十中八九あの武器が原因だし、そんなのをもらいたくないんだよなー。


「あの武器って嫌じゃん」

「あれが本当に原因なの? てっきり葛くんがなにかしたのかと思ってた」


 えっ、和紗の中の僕ってそんななんだ。

 泣いていいかな?


「でも持ち主によって能力が変わる武器だってあるしそれかもよ」

「運よくそれな訳ないじゃん」


 そうそう、もしこれが物語などだとしたら大抵そうだけどここでは起きない。

 そう、物語じゃないから。


「でも葛くん。普通の武器って持っといた方がよくない?」

「なんで?」

「だって武器の出し方がまず普通じゃないからよくないし、便利じゃないかな?」

「便利、か。二刀流は確かに憧れる事はあるけど」


 うん、悪くないかもな。

 そうと決まればオークションとかに行くべきかな?


「和紗、オークションに行こうと思うけど一緒に行く?」

「うん!」


 オークション会場に向かう。

 オークションではその日、または前日にダンジョンで取れた報酬やお宝などが売られ、とっても賑わっている。

 今日の目玉商品と書かれていて「世界一のダンジョン攻略者の子供が持ってきたステータス2倍の武器」と書いてある。

 そして小さく「腐っても本物」と……これはそういう能力がある事を上手く誤魔化している。

 ちょうど近くにオークションの従業員がいるから聞いてみよう。


「すみません、この腐っても本物って?」

「あー、それですか」


 従業員は苦笑いしながら小声で、


「ステータス2倍というのは本当で、それプラスイザナミの愛というのがあってですね、それがお金などの持ち主に幸福をもたらす物を腐らせるという能力なのです、はい」

「それはまた……」


 とんでも能力だな。

 それを曖昧にしている、これでいくらの値がつくか楽しみだな。

 

『さーて、始まりました。今日も様々な商品が届いておりますが、目玉はなんと言ってもステータス2倍の武器ですよね。ですけど他の商品もあるのでそちらからいきましょーう』


 なんとも元気な司会の人だ。

 さて、まず最初は、


『最初の商品はこちら。稚貝ちがいの真珠。こちらは今女性に大人気の真珠となっていまして、10,000からスタートです』


 どうやら普通よりも少し大きいらしくどんどんと、値が上がっていく。

 最後には1,000,000円で落札された。


「ねぇ、葛くん。それってだれに?」

「えっ、和紗にあげようかなーって思って」

「本当! ありがと」


 うん、この笑顔が見れるなら1,000,000円も安いものだ。

 いや、実際レベル関連のでお金がたんまり入ってきたから安いけど。


『それではどんどんいきましょーう。次の商品はこちら。魔法剣 雹。氷というレアな武器になります。こちらる500,000からスタート』


 そんな感じでオークションは進んでいき、


『ここいらで目玉商品いっちゃおー』


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