No.027 華のカオリ



 ダンジョン協会本部。

 何階建てかわからない大きなビルで、黒服の人たちがせわしなく出たり入ったりを繰り返している。

 そこに連れてこられた僕と和紗と不正ココネ先生。


 エレベータに乗せられ20階を約10秒。

 G重力を感じさせない科学力の進化を感じた。


「それでは紙を見せていただけますか?」

「は、はい」


 不正ココネ先生は素直に2枚ずつ紙を見せる。

 それをもらった桜井さんは奥に行き機械にそれを通す。

 数十秒、作業が終わったのか戻ってきて、


「2枚とも鬼灯さんと八乙女さんのが本物です。姫山さんのは良くできた偽物で見ただけじゃ見分けがつかないですね。さて、これはどういうことでしょうか、花毬さん?」

「そ、それは」

「これはダン高の教師としてあるまじき行為です」

「私はただ脅されたんです」


 不正先生が話した内容はこうだった。

 どう考えても姫山の方がおかしいと思い親御さんに連絡をとった。

 その時に、「家の息子がそんな事をするわけないだろ。言い掛かりをつけるのも大概にしろ」と言われてすぐに切られる始末。

 ダンジョンクリアは成績にも影響するから渋々といった形で成績が元々下の僕を切ったという事だ。


「へぇー、先生は僕に嘘をついたんだ・・・・・・・


 殺気を込めて先生を睨みつける。

 その時に空気まで冷たくなったのは僕は気がつかなかった。


「落ち着いてください、鬼灯さん」

「落ち着いてって僕はこの不正教師によって成績を下げられるところだったんですよ?」

「それはそうですが――――」

「――――不正を見つけて証明してくださっただけで十分です。この人は僕が責任を持って処分します」

「それは認める事はできません。教師はクビになってからまずは逮捕されます」


 その言葉を聞いた不正先生は顔をみるみる青く変えていく。


「逮捕なんて生温なまぬるい」

「もちろん裁判では有罪になり禁固刑は変わらないでしょ」


 更に顔を青から白へと変えていき、死んだ魚のような目になった。


「それよりも僕は今この時にこの先生を殺してやりたいくらいだ」

「流石にそれをしたらあなたは捕まる事になります」

「なら拷問かなにかはしたいですよ」

「それも人道的じゃないからダメです」

「わかりました諦めます(人間じゃないけど)」


 それから僕と和紗は少しの聞き取りの後に解放された。

 それと入れ替わるように姫山が入っていくのを目にする。



 それから数日後、ニュースではNo.1のパーティー、「あかつき夜空よぞら」と呼ばれるパーティーのロサイン・ルーラーが行方不明になったということ。

 暁夜空のリーダー、姫山ひめやま十蔵じゅうぞうはダンジョン法違犯で逮捕された。

 不正先生こと花毬ココネは逮捕及びなぜか釈放された。

 最後に姫山快斗かいとはお咎めなしとなったのが1番気に食わない。


 詳細は僕の所にも、もちろん和紗の所にも届かなかった。

 桜井さんと連絡をとろうとしたが繋がらずに残念な結果に終わったと言うしかない。



 ※



 今日は僕1人であるものを売りに来た。

 あるものとは約2週間前に手に入れた銛みたいなやつで、名前を三叉槍さんさそうと呼ばれている。

 固有名は[海神の三叉槍]という名で結構な強度、売れば高く売れるんじゃないか、ということで来た訳だが、


「これは凄い。固有スキルが2つほどついているが本当に売るのか?」

「はい、2つとも引かれなかったので」


 2つの能力とは〔海流操作〕と〔水中呼吸〕で、特になくても困らないから売ることにしたのだ。

 値段としては1,000,000円になり、ダンジョンカードに入れる事にした。


 それから僕は1人でドリーさんの所に行き、真実の花を見せたが知らないようなので諦めた。

 もしかしたらドワーフとかエルフなら知っているかもしれないし我慢だ、我慢。



 それで終わればよかった。

 よかったけど終わることは問屋がおろさなかった。


「お前のせいで、お前のせいでパパは」


 姫山は僕の道を邪魔するかのように立ち塞がり、殺意を抑えきれていない。


「姫山。なら最初から嘘なんてつかなければよかっただろ? 勝手に僕たちかクリアしたダンジョンを報告するんだもん。どう考えても自業自得だと思うけど?」

「だからなんだ。お前みたいなやつの情報なんて誰も信じない。それにもし今俺がお前を殺しても情報ぐらい隠蔽も出来るんだからな。わかったら泣いて謝れ。そしてパパを返せ」


 泣いて謝るなんてゴメンだし、そもそも悪いのは僕ではない。

 

「魔法刀 九十九つくも


 姫山はそのまま早いスピードで僕の周りをグルグルと走りながら隙をうかがっている。

 って言うか、今隙だらけのはずなのに攻撃はしてこなさそうだ。


「どうした、武器は出さないのか?」

「なんで、僕は戦うつもりなんてないよ」

「または怖じ気づいたのか?」

「そんなわけないじゃん。どっちが弱いかわかってるんだから怖じ気づくもなにもないよ」

「なら嘗めているのか。俺には剣を抜くほどの価値がないと、そういうこと――か」

(陽法 無の太刀 無刀真剣)


 姫山の刀と僕の見えない刀がぶつかり唾競り合いになる。

 もちろん僕は手を抜いているわけで本気を出したりして怪我をさせたらどうなるかわからないから迂闊に攻撃出来ないのが現状だ。


「なんで僕のクリアしたのを横取りしようとしたの?」

「逆に感謝してもらいたいよ。俺のパパは世界一のパーティーでその子供に利用されたんだよ? そんな光栄な事はないでしょ、普通」

「黒夜叉」


 二刀流になるが無理矢理姫山に攻撃を仕掛ける。

 が、一気に距離をとられてしまい空振りに終わる。


「早く武器を納めてね。壊すから」

「なめるな! 纏炎てんえん


 姫山の九十九と呼ばれる武器は炎を纏い本気の本気みたいだ。

 なら、こっちも本気で絶ち斬るのが礼儀というものだろう。


「陽法 黒の太刀 断絶」


 もう1度刀と刀がぶつかり合う、ということは起きずに姫山の刀だけ綺麗な断面を見せて斬れ落ちた。

 その瞬間、九十九は効果を失ったかのように炎は消え、光りもなくなりただのなまくらに成り下がった。


「まだやる?」

「な、何をした。この武器は国宝級の強い武器なんだぞ。それを、それをそんな黒く醜い武器なんかで」

「利用したんでしょ? なら利用料ということで」

「まて、お前は何者だ?」

「ただの鬼灯葛。それ以上でもそれ以下でもない存在」

「まだだ。まだ終わってない。炎よ」


 魔法を使って最後の抵抗って言ったところか。

 ならそれすらも折った方がいいかな。

 炎を黒夜叉で絶ち斬り一言言う。


「決闘を申し込む」

「な、なんで、魔法を斬れる。それに決闘って俺は武器がないんだぞ!」

「だからどうした。それはそっちの都合でこっちには関係ないこと。なら武器がない今がチャンスと思ってもなんの問題もないでしょ? 明日の放課後。それまでに武器を準備するんだね」


 それから黒夜叉をしまって寮へと足を進める。

 明日は午前中にA組の生徒は集合らしい。

 不正ココネ先生のことだと思うけど行かないとな。


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