No.026 真実のハナ



 ~~4階層~~


 10時間の休憩をとってからダンジョン探索を再開する。

 気がついている読者をいるかもだから言うけど吸血鬼だから本当は休憩そこまで必要としないけど、人間でありたいという願望から休憩をとっているだけだ。



 2時間が経過しそうな時、やっとの思いでボス部屋前まで来ることが出来た。

 途中何度か海流にのせられ1階層まで戻されたが、ルートがわかっていたおかげで2時間しかかからなかった。


「後、何階層あるかわかんないから大変だね」

「うん、精神的に物凄い疲れちゃったよ」


 和紗は精神的に参ってしまったらしい。

 というか、僕もそろそろ危ないかもしれないというのはある。


 それでもダンジョンは楽しい、と思えてしまうのだから面白い。


 ボス部屋に入るとそこは水中ではなかった。

 ボッと壁についている松明がドミノ倒しみたいに順について部屋を照らしていく。

 そして見えたのは玉座と、その上に座る1人の人魚。

 屈強な体つきと、綺麗な金髪、それに白髭が合わさり手にはもりらしき物を持っている人魚。

 男なのが残念とか少しも、本当に少しも思っていない。


「あれがここのボスだよね」

「多分。でも強そうだよ? 葛くん大丈夫?」

「大丈夫でしょ。黒夜叉」


「よくぞここまで来たな、お客人。最近は誰1人としてここに来ないから退屈していたのだ」


「和紗、どう答えるべきかな?」

「わ、私に言われてもわかんないよ」


「どうした、お客人たち。ほう、面白い。人間ではないのか」

「わかるのか?」

「もちろんわかる。なんとなくだがな」

「なら、僕は吸血鬼第二始祖の鬼灯ほおずきかずらです」

「私は第三始祖の八乙女やおとめ和紗かずさです」

「吸血鬼とな? 知らぬな。それで目的はなんだ? ここにはなにもないぞ」

「本当になにもありませんか?」

「あぁ、[真実の花]なんてないからな」

「真実の花、面白そうだ」

「貴様はそれを盗ろうとする盗人ぬすっとなのか。ならこの私、ネプール・サルバンが相手になろう」


 ネプール・サルバン、もちろん聞いた事はないけど、「サルバン」って天神族の住む大陸の名前だよな。

 なにか関係があるのか?


「わからないからまずは真実の花だ。陽法 灰の太刀 朧月」

「死ねぇぇぇぇぇ」


 銛のような物から水流を出して攻撃するようだが、僕は後ろに周りこみ相手の首を一撃の下に斬り落とす。


「うげぇ?」


 変な声をあげてそのまま絶命した。

 ネプール・サルバンと名乗った魔物?

 いや、魔石を落とさないし、死体がこのままだから魔人と呼ぶべきかな?

 でもそしたら僕も吸血鬼だから魔人に入るのかな?

 じゃない、この銛みたいなのは強そうだから貰っておこう。

 それと、


「混沌陰法 葬炎」


 骨も含めて灰にして風にのせて飛ばしてあげる。

 埋めたり出来ないからせめてもの慈悲?かな。


「和紗、この玉座の下に階段があるから行こ」

「う、うん」



 ~~5階層~~


 一言で表現するならお花畑。

 赤青黄と様々な色の花が咲き誇り、幻想的な世界観を醸し出している。

 そして見るべきはそのお花畑の中央に咲く1輪の白く輝くアモネア。


「これが真実の花なんだろうね」

「そう思う。葛くんどうぞ」

「うん。貰うね」


 白いアモネアを手に取ると一瞬にして結晶化して、次の瞬間には大きな揺れに尻餅をついてしまった。


「この結晶の花は綺麗だけど、この地震の方が大変だね」

「大丈夫だよね、葛くん」

「多分大丈夫だと思うけど」


 約10分、揺れがおさまり出口が現れた。



 ※



 横浜海底ダンジョンと呼ばれる海底にある難易度の高い特別なダンジョン。

 そのダンジョンは今日、この日『横浜海上ダンジョン』と名を変えた。

 それには理由があり、海上に上がってきたからだ。

 更に、ダンジョン専門国立高等学校の2人の生徒によってクリアされたという事で有名になった。


 そして、その渦の中心にいるのが僕な訳で、


「毎日毎日マスコミが来て五月蝿いよ」

「外に出られないから辛いよね」


 そう、あの横浜海上ダンジョンをクリアして10日が経ったというのにまだ取材出来てないということで外に出られない状況なのだ。

 そして問題視していた姫山の件だが、僕たちがダンジョンクリアの報告をし終わった後になって、ココネ先生に慌てて提出したらしいが、未だにココネ先生から連絡が来ないのが納得できない。


「そういえば葛くん、真実の花ってどんな感じ?」

「それがよくわからないんだよね。調べても出てこないし、値段は普通に100円って安かったから一応保管することにしたよ」

「それがいいね。でも真実の花ってどんな効果があるのかね?」

「わかんないよね」


 結局この日も外に出られずに寮の中で過ごしたのだった。



 ※



 時は流れ更に1週間。

 流石にマスコミは違う話題、アイドルの麻薬騒動に流れていったおかげで普通に外に出られるようになった。

 そして、


「これは偽物みたいだけど?」


 ココネ先生は僕たちが提出したダンジョンクリアの紙をピラピラとしながら言ってきた。


「先生、もし、もしも先生が嘘をついているのであれば僕は先生がどうなろう知りませんからね・・・・・・・・

「グッ。いや、嘘はついていませんよ」

「わかりました。まずそれと、姫山くんが提出した紙と一緒にダンジョン協会に行きましょう」

「ダンジョン協会に? でもなんで快斗くんもなんだい?」

「姫山くんが僕たちのクリアしたダンジョンの証明を横取りしているようなので」

「先生はそんなことないと思うけどなー」


 目はあっちに行ったりこっちに行ったりと泳ぎまくり、動悸も少し荒くなっている。

 どうしても認めないのは圧力がかかっているのかな?


「それと、東京タワーダンジョンの方のもお願いします。早く準備してください」

「先生はこれから色々とやることがあるので」


 やっぱり来てくれそうにないか。

 でもきちんと追い詰める為の準備はしといてよかった。


「そうですか、しょうがないですね」

「わ、わかったなら寮にでも戻ってなさい」

「わかりました。先生は逃げるようなので逃げられないようにしようと思います」


 和紗に軽く拘束しておいてもらって、僕は職員室の外で待っているある人を呼ぶ。


「私はダンジョン協会の不正防止科、桜井です。今すぐ書類を用意して本部まで来てください」

「わ、私には仕事があるんです。それでも連れて行くと言うなら誰が私の仕事をするんですか」


 この期に及んでも抵抗をみせるココネ先生に尊敬の念を抱く。

 周りの先生たちはなるべく目を合わせないように下を向いて作業を黙々と進めている。

 それに対しココネ先生は助けて、という視線を送るがだれ1人として答える気配はない。


「早く準備をしてください。もしも抵抗をするというなら公務執行妨害で逮捕状が出ますが?」

「わ、わかりました。今、丁度準備をしようとしてたんです」


 急な掌返しで凄いスピードで準備をするココネ先生。

 それを見たダンジョン協会不正防止科の桜井さんは苦笑いを浮かべる始末。

 それから約1分後に準備が終わり、本部と呼ばれるところまで僕たちも連れていかれた。


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