1章 略奪者編

No.001 世界にリフジン



「知らない天井だぁ」


 1度言ってみたかった台詞の1つだ。

 と、まぁ欲望を1つ満たしたところで、


「ここはどこだ?」


 記憶が正しければ昨日の夜に死んだ、死にかけたのか?

 それにあの金髪碧眼の美女……。


「あっ、目が覚めたのね」

「あのー、あなたは?」

「私? 私は知っての通り吸血鬼よ」


 あっ、やっぱりそうなのね。


「昨日の事をあまりよく覚えてないのですが」

「……あら……そう、なのね。可哀想ね」


 明らかに目を反らしながらオドオドしている。


「えっと、何かありましたよね。絶対何かありましたよね?」

「聞きたいかしら?」


 あっ、本当にあるのね。

 フラグ立てて無いことを願ってたのに。


「そう。あれは私の責任だ。つい面倒になって詠唱を省略したせいで陰法が不完全に終わってしまったのだ」

「不完全って?」

「君は1回死にかけたんだ、電車に轢かれてね」

「そんなあっさりと」

「だから私はもう1度君に陰法をかけさせてもらった。次は完璧だから無事に吸血鬼になれたんだ」


 本当に吸血鬼になっちゃったのか。

 でもならなければ死んでいたし。


「さらに今は丁度、第二始祖が全員吸血鬼狩りにあって死んじゃってね」

「第二始祖?」

「そう。私が第一始祖・・・・のドリー・ネグリューその人だ。私から吸血鬼にされた人を第二始祖。第二始祖から吸血鬼にされた人を第三始祖と吸血鬼にも序列があるんだ。そういえばまだ君の名を聞いていなかったな」

「僕は鬼灯ほおずきかずらと言います」

「そうか、よろしくな」


 絶対名前とか興味ないよね。

 何となく流れで聞いてくれた感じだよね。


「あのー、吸血鬼について詳しく教えてください」

「何が知りたい?」

「物語とかの太陽の日を浴びたら死ぬって本当ですか?」

「あぁ、本当だ」


 マジかー、今後一切外に出られなくなるのか?

 それは結構辛いし難易度高いぞ。


「ただ、それは第一始祖・・・・の私だけだ。第二始祖は精々、日を浴びて貧血みたいな症状になるくらいだ」


 それはそれで十二分じゅうにぶんに辛いような……。

 貧血ってあれだろ?

 クラクラしたり頭が痛くなったり人によって症状は様々だけどとにかく面倒なやつ。


「そう案ずるな。吸血鬼はいいぞ。第二始祖ともなれば自然回復速度が尋常じゃないほど高い……私よりは遅いけど。例え電車に轢かれようと、普通の銃で撃たれようと10秒もしない内に治っているからな」

「銃で撃たれても死なないのか」

「あぁ、ただ痛覚はもちろんあるからな」


 痛覚は吸血鬼パワーでなくなっててほしかったもんだ。

 よし、気を取り直して次の質問。


「ドリー・ネグリューさんが使ってた陰法ってなんですか?」

「ドリーで構わんよ、鬼灯くん。陰法って言うのは魔法みたいな物だ」

「魔法……エルフが使っているやつですか?」

「残念だが違う。エルフは魔力によって魔法を使うが、我々吸血鬼は血を使う事で陰法を発動するのだ」

「血を」


 魔法みたいってドリーさんが言ったのに。

 そして僕はあの時の事を思い出してた。

 ドリーさんは腕を斬り血を出していた事を。


「なら僕に陰法を教えてください」

「あぁ、この本をやる。基本的な陰法のやり方と呪文が載っているから応用は頑張って独学でやれ」

「教えてくれたりとかは?」

「なぜ教えなくてはいけない?」


 教えてほしかったんだけどなー。

 こんな美女なんだよ、って読者には伝わらないよね。


「わかりました、ありがとうございます」


 陰法の本を試しに開いてみるが……


「読めないです」

「おお、すまない。そっちはイギリス語だったな。日本語は、っと」


 新しく持ってきてくれた陰法の本は日本語で書いてあり自分でも読むことが……?

 おかしい、おかしいぞ。

 紫色の太陽の力で言語は全て統一されてるのになぜ今のが読めなかった?


「あぁ、君の思っている通りだよ。最初だから吸血鬼の力が制御できていないのさ。さて、そろそろ家に帰らないと親が心配するのでは?」

「あっ、僕が倒れてからどのくらい経ちましたか?」

「君が轢かれたのが昨日の夜。そして今は次の日の昼。だからそんなに経ってないよ」

「今日はありがとうございました」

「いや、なに。こちらの不注意でもあるわけだからね」


 ドリーさんに玄関まで送ってもらい、


「あぁそうだ。これを塗っておくといいよ」

「これって……」


 どこをどう見ても日焼け止めだ。

 なぜこれを僕に?


「それがあれば少しは貧血対策になるだろう。最近の技術は本当に凄い。少し侮っていたよ」

「ならこれでドリーさんも?」

「いや、私には意味がない。だからここまでだよ」


 玄関まではあの角を曲がった所だろう。

 太陽の光が入らないようにと、良くできた家の構造だ。

 僕はもらった日焼け止めを身体中に塗り(貧血が怖いから)意を決して外への扉を開く。


「うっプ。ヤベェ、気持ち悪い」


 扉を閉めて家の中に入る。

 無理だ、紫色に輝く太陽の光が体に突き刺さるようにして、気持ち悪さとアレが溢れてくる。


「どうしたんだい、帰らないのかい?」

「ダメです、気持ち悪いです」

「そうか、やっぱり第二始祖も日焼け止めじゃ効果がないのか」


 てんめぇ、まさか実験しやがったのか?

 この気持ち悪さは超気持ち悪いんだぞ。

 こう、頭の中に虫が駆け回り、泥沼というかスライム沼というかとにかくベトベトしたものの中にいるような感覚だ。

 更には視界がクロとシロのモノトーンになって胃がキューと締め付けられ吐き気までする。

 だから超気持ち悪いんだぞ。


「でも弱ったな。このままじゃ君を私が誘拐した、みたいになりかねない。そのまま吸血鬼狩りが現れて殺される可能性だって」

「そのさっきの話から度々出てくる吸血鬼狩りってなんですか?」

「ん? 超超超下級の吸血鬼供が、上位の吸血鬼を妬み憎み作った組織の事で、今では吸血鬼という存在を信じて吸血鬼になるために人間も入ってると聞く」


 なんとも物騒な組織だ……って、僕も吸血鬼でしかも今は第二始祖って言ってたから狙われるんじゃ。


「それって……僕も狙われますか?」

「何を当たり前の事を言ってる。そんなの吸血鬼で光栄な事に私に吸血鬼にされた第二始祖だぞ? 考えなくてもわかるだろ」


 なら急いで帰るよりも、急いでこの陰法を覚える方が先決なんじゃ。

 そうだ、そうに違いない。

 なら、今は丁度母親は旅行に出掛けて、父親は出張。

 弟が1人いて、その弟は夏合宿中。

 帰ってくるのは明後日だからタイムリミットはそこまでだ。


「あの、明後日までここにいさせてください」

「帰らなくても大丈夫なのか?」

「明後日までなら大丈夫なので。それに、今からある程度力をつけとかないと、後々死ぬことになるのは嫌だから」

「別に勝手にしていいぞ。部屋はさっきの所を使え」

「あ、ありがとうございます」


 よし、これで陰法を覚えるのを第一目標にしよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る