第13話 夏の終わりに③

「ふぅ、いい資料撮れたわ♪」


 悪魔会議室にて、ロリ女王ミルダレーナ。デジカメ片手にご満悦!


「うう、汚された気分だ……」


 メイド服姿で泣き崩れるは、コスプレ女装悪魔にされたアル君。

 「男の娘の可愛いポーズ」の資料として、様々なニーズに応える写真を撮られたのである!


「おめでとうございますお嬢様、これで次回作の企画も決まりましたね」


 女王へ拍手をするは、悪魔執事レギルレイス。

 彼は、あくまでもにこやかに。


「ところで、お嬢様。私、提案があるのですが」


「あら、なにかしら?」


 女王へ告げた。


「次は、私自ら、百合魔法少女めを倒してこようと思うのですが?」


 その宣言は。

 ああ、その宣言こそは。

 これまでの戦いに幕を引く、決着への道筋、その始まり。


「……え」


 ミルダレーナの表情が、凍り付く。

 冗談であることを望むように、すがるように、自らの執事の笑顔を覗きこむが。

 彼は、レギルレイスは。眼だけが、笑ってない。


「お嬢様の理想世界を阻む、我らの宿敵。そろそろ目障りではありませんか? 次回作に取り掛かる前に、障害は排除しておくべきかと」


 あくまでも笑顔を崩さず、氷の大悪魔は続ける。


「先日、お嬢様に無断でブライファルケを解放したこと、お怒りになられるかも知れませんが。しかし、彼奴は疑いなく強大な悪魔でした。あ奴でも百合魔法少女に敗れたとなれば……」


「ま、待って。待ってよ……」


 戸惑うミルダレーナに有無を言わせない、強い口調でレギルレイス。


「私自ら、手を下すべきかと」


「待ってって言ってるでしょう!?」


 女王の声を荒げる姿に、会議室の悪魔達が驚く。ただ一人、レギルレイスだけを除いて。


 集まる視線にたじろぎながら、ミルダレーナは考えた。

 友達を、りりなをかばう方法を。


(レギルレイスと戦ったら、あの子は……)


 ……殺される。

 宇宙最強を自称するマジカル☆リリィといえど、この悪魔執事には、手も足も出ないだろう。

 星々をも征服する、強大なる破壊者。侯爵級以上の大悪魔とは、それほどの存在。


「そ、そうよ! 私の次回作は男の娘物! BLと百合、両方の要素を楽しめて一粒で二度美味しいのがコンセプトよ!」


 だから。


「だ、だから! 百合魔法少女にも百合的アドバイスを求めてみたいと、思うのだけど! そうよ、戦わなくちゃいけない理由なんてないわ。むしろ私たちの陣営に引き込むのよ!」


 そんな言い訳を思いつくが。 


「……冗談じゃねぇッ!?」


 机を叩いて激怒したのは、メイド服の金髪美少女……の姿のアル君だった。


「女王、あんたホントにどうしちまったんだよ! 忘れたのか、あいつに何人もの仲間が倒されてるんだぞ!!」


 叫ぶ彼の目には。散っていった仲間たちへの愛情が。百合魔法少女への復讐の誓いが、昏い炎となって静かに燃えていた。


「それは、そうだけど……」


 きゅっと、唇を噛むミルダレーナ。

 分かっている、彼らは皆、ミルダレーナの為に。彼女の野望の為に戦い、破れていったのだ。

 それを忘れて、今さら。百合魔法少女と和解などと。


(……でも、それでも私は)


 宮野りりなと、友達になってしまった。

 友情の誓いに、キスを交わした。


「そういえばアルダ=ギルズ君。君は、以前百合魔法少女に敗北を喫したのだったね」


 女王の葛藤に気付いているか否か、レギルレイスは眼鏡を直しながら。


「雪辱を果たしたいなら、君が出撃するかな? 私は、それでも構わんが」


「おお、望むところよ!」


 アル君、拳を掌に打ち付けながら、


「あの時の傷も癒えたし、俺の魔力も上がっている。皆の仇は、俺が取ってやるぜ!」


 好戦的な笑顔で、闘志を燃やすその顔に。

 ミルダレーナの胸が、ずきりと大きく痛む。


 このままでは。大切な友達と、苦楽を共にした仲間が。

 ……傷付けあうことになる。


「……お願い、待ってッ!」


 それを止めるために。臣下達に頭を下げ、声を絞り出した。


「……私、百合魔法少女と話し合ってみたいの。だから、お願いだから。少しだけ、時間をちょうだい?」


※ ※ ※


 その後、皆の去った会議室に。

 レギルレイスとアルダ=ギルズ、大悪魔二人が残っていた。


「なんなんだよ、女王の奴……」


 未だメイド服のままのアルダ=ギルズ、苛立ちを隠せない。

 百合魔法少女は倒すべき敵。雌雄を決すべき相手。

 彼にとってそれは当り前過ぎて、そこに疑問を抱くこと自体が理解の外。


「……いずれにせよ、戦う他に道などないさ」


 レギルレイス、どこまで真相を見破っているのか。

 百合魔法少女と悪魔女王の間に芽生えた絆を、すでに看破しているというのか。

 光る眼鏡に隠されたその表情、余人にはうかがうことかなわず。


「さて、アルダ=ギルズ君?」


「あ? なんだよ」


 レギルレイス、執事服のポケットから何かを取り出す。


「今の君が百合魔法少女と戦っても、必勝とはいくまい。だから、君にプレゼントを贈ろうと思うのだよ」


 それは。

 レギルレイスが取り出したのは、禍々しい黒の光を放つ宝玉がめられた指輪。


「私の力の一部を、分け与えた品だ。これを使えば、君の魔力は今の数倍……伯爵級悪魔のそれに、匹敵するものとなるだろう」


「……どうせ、リスクがあるんだろう? そういうのって」


 睨むアルダ=ギルズの言葉に、氷の微笑を浮かべながら。


「無論。力を制御できず暴走すれば、君自身の肉体を傷付けるだろうね。だが、君はそれを恐れるのか? 同志達の恨み、君自身の手で晴らしたいのではないのか?」


「……いいぜ、乗ってやるよ」


 恐怖よりも、闘志が勝った。

 メイド姿のアルダ=ギルズ、レギルレイスの手から乱暴に指輪を奪い取る。

 ……死亡フラグ全開の、パワーアップアイテムを。

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