第12話 愛輝く星の天使の剣⑨

 獲物を狙う猛禽のように、天空から急降下する全裸変質者、否、悪魔ブライファルケ!


「や、やっぱり見れないーッ!?」


 もうツッコまないつもりだったのに!

 風でぶらんぶらんするゾウさんから、つい赤くなって目を覆う私!


「ふははははははっ、どうしたぁぁっ!! 戦場で敵から目を背けるなど! 貴様死にたいのかぁぁッ!!」


 だから服を着ろぉぉぉッ!?

 無駄に美形でいいカラダの男悪魔ブライファルケ! フル〇ンで全身に鎖をグルグル巻き!

 これはもう、存在自体が乙女の敵!!


 黄金魔剣を飛ばして攻撃するけど、敵をしっかり見ずに撃った魔剣ミサイルは、悪魔戦闘機の超スピードに付いていけない!


 迫る、眼前に迫る悪魔!!

 脚を戦闘機の上に同化し、仁王立ち!!


「だめ! マジカル☆リリィ!!」


 早百合の悲痛な叫び!

 思わず目を開けると、そこには!!


「ふはははははははは! よく見ろ! 美しいだろぉぉぉぉぉぉッ!!」


 現存するゾウ……哺乳網ゾウ目ゾウ科には、アジアゾウとアフリカゾウがいます。

 アフリカゾウの方がちょっと大型、彼らゾウは頭も良くて、鏡に映った自分を、自分と認識できるんだって。すごいね。


 ……現実逃避。

 ステファニーが、真っ白に燃え尽きた私の肩を揺らします。


「し、しっかりしてマジカル☆リリィ! 精神攻撃に負けちゃだめだよ!?」


 だ、だって! 悪魔ブライファルケ、ポーズを取って股間をアピール!

 私に……いたいけな女子中学生に! アレを見せつけてくるんだよ!?


 さ、最ッ低!! まごうことなき変質者! 変質者ァァァーッ!!


「思い知ったか、ふはははははははははははぁッ! これが! 宇宙で最も美しいモノだぁッ!!」


 なんて恐るべき、邪神もかくやの暗黒精神攻撃!?

 こ、このままじゃ、私の清純イメージが!?


「え、そんなもの有ったの?」


 小首を傾げる早百合。可愛いけど、早百合に言われたくないし!


「ふははははははっ! もっとよく見ろ! そうれ、それそれそれそれぇーッ!!」


 悪魔に操られた戦闘機による、アクロバット飛行の航空ショー!

 その上で繰り広げられる、全裸男のストリップショー!! ああっ殺意が!?


 魔剣! 黄金魔剣で攻撃!

 でも指の間からちょびっと見るだけ、可能な限り敵の姿を正視しないように放った魔剣は、動きもいい加減で狙いが定まらない!!


「ふん、どうやら自動追尾が出来ると言っても、視認せずには剣で追えないようだな!!」


 私自身気付いてなかった魔剣の弱点を、全裸変態悪魔に見破られる!?

 く、屈辱!!


 剣の雨を掻い潜り、華麗な飛行で再び悪魔急接近!


 ポージングッ!! 股間ッ!!


「そうら♪」


「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッッ!?」


 超至近距離に、目の前に。悪魔の……。

 しかも戦いの興奮によるものか、その……恥ずかしい話ですが。

 勃〇……してましてね?(当り前だけど私がじゃないよ! 敵がね!?)


 目を回し、泡を噴いて倒れる私。ぶくぶく。


 ミルちゃんに見せられたガチホモDVDでは、まだしもモザイク掛かってたけど。

 これは……無修正ッ!!


「もうやめて! マジカル☆リリィのライフはゼロよ!?」


 早百合の悲痛な叫び。悪魔の凶悪な精神攻撃に私は、立ち上がる力さえ無い。

 もう、なんかね。精神的に凌辱された気分。

 悪夢見そう……。


 てか、今回お下品ですわよ?


「ちょ、ちょっとひどすぎるね、これは!! とりあえずマジカル☆リリィの心の安定のためにも、百合百合エッチシーンの映像を流すよ!?」


 ステファニー、謎のスイッチをポチッとな。


《カメラ切り替え》


『アニキ! ああ、アニキィーッ!! 筋肉仕上がり過ぎだゼぇーッ!!』


『サブ! サブぅぅーッ!! ウッ!!』


「あ、間違えちゃった!?」


 おのれステファニィーッ!?

 この状況で、魔獣先輩にも負けないガチムチアニキ達の絡みを見せるとはぁぁーッ!!


「わ、私を殺す気!?」


 盛大に吐血する私!


「ごめんよ! 今度こそ!!」


 ポチッとな。


《カメラ切り替え》


 お姫様とメイドの映像。


「ふふ、殿下ったら、こんなにビショビショになさって♪ 恥ずかしい方ですわ♪」


「やぁっ、そんなに見るなぁぁっ!? メイドのくせに生意気よ!?」


「また噴水に落ちるなんて……殿下のドジっ娘さん♪」


 エッチシーンではなかった模様!


「ま、まぁ、許すわ。ドレスが透けてたし」


 欲を言えば、濃厚な百合キスシーン希望でしたが。

 鼻血をぼたぼた垂らしながら、とりあえず私、復活!


「どうだ! 俺様の美しい裸体の前に、手も足も出まい!」


 遥か上空、戦闘機の上で勝ち誇る悪魔ブライファルケ!


「これが! 芸術の力だァァァーッ!!」


 み、認めない! 認めるものですか!?


 まずは何とか仕切り直そう! 黄金魔剣数本を早百合の護衛に残し、私は駅前広場を離脱。

 商店街の方へ逃げながら、天空の悪魔へ魔剣を飛ばすけど!


 悪魔はさらに上空数千メートルまで急上昇して逃げる!

 速い! 追い付かない!?


「やっぱり、近付いてきたところを狙うしかない……?」


 でも、そのためには。悪魔の姿を、てか、全裸を。

 はっきりと凝視しないとならないわけで。


「嫌ッ! 絶対に嫌ぁぁぁーッ!?」


 ※ ※ ※


 ……そして。私は夜の商店街へ逃げ込む。

 途中何度も悪魔の精神攻撃……という名の強制わいせつを受けながら。


 何度も何度も見せられて、


「やぁ、ちん〇んの形、覚えちゃったぁ……」


「なにそのエロ本みたいなセリフ?」


 羽根をパタパタ、付いてくるステファニーの冷静なツッコミ。

 でもそれが分かるってコトは、読んでるってコトね、エロ本。


 上空からは、悪魔戦闘機から放たれるレーザー攻撃! 悪魔とほぼ同化したせいか、本来の形よりずっと凶悪なシルエットになった戦闘機。武装も追加されてるみたい!


 なんとか避けながら、商店街の真ん中へ着地!


「って、やばっ!?」


 そこで私が見たものは、未だ燃え盛る炎から逃げ惑う人々!

 悲鳴、涙!


 市民の皆を巻き込むわけにはいかない。

 ニンジャもびっくりの身体能力で建物の屋根に飛び移り、悪魔を引きつけ逃げながら。


 ……私は、唇を噛んだ。


「許せないッ……!」


 男爵級悪魔ブライファルケ。

 全裸に鎖と、かつてないほどふざけた格好の変態悪魔。

 だけど、その破壊活動も、かつてないほど本気。まさに人類の敵。


 百合魔法少女として。正義のヒロインとして。

 敵の姿を正視すら出来ない自分にも、憤りを覚える。


「ねえ、ステファニー」


 私は走りながら、傍らのステファニーに質問。


「私達の再生魔法で町は直せるはずだけど。もう、10分は経っちゃってるわよね?」


「……ああ、残念ながらね」


 そう、いつも悪魔との戦いの後、破壊された物を直し、人々の記憶を書き換えていた再生魔法。

 あれには、時間制限がある。


 ステファニー、真剣な顔で。


「キスを繰り返し、強大になった君の魔力なら、あるいは……。10分を超えても、町は直せるかも知れない。いずれにせよ、決着を急がねばならないよ」


「……分かってる」


 こくん、と頷いた。


「ふはははははははは! ふははははははははぁぁぁーッ!! どうした、逃げ回るだけか!! 美しいモノから、目を背けるのかぁぁーッ!!」


 超音速で背後に迫る、悪魔戦闘機の編隊!

 放たれる悪魔レーザー!! 悪魔ミサイル!!


「くっ……!!」


 アクロバットな動きは、こっちだってお手の物!

 逃げながら避ける! 避ける! 避ける!


 でも。その先には。

 屋根から飛び降り、着地しようとした先には!?


「ミルちゃん……ッ!?」


 いつの間にか、早百合宅の近所まで逃げていた私!

 そして眼下には! ぽかんと空を見上げる、パジャマ姿のミルちゃん!?


 そして私が避けた悪魔ミサイルの一つが、ミルちゃんの方へ!!


「あ、貴女達!?」


「だめぇぇぇぇーッ!?」


 咄嗟に、彼女の周囲にバリアを張るべく魔剣を飛ばす。

 ミサイルを追い越し、ミルちゃんを守護するべく囲む黄金魔剣。


 なのだけど。


「……!!」


 その瞬間に。ミサイルもろとも。


 不滅の輝きを放つはずの黄金の魔剣は。一瞬で。風化したように。

 いいえ、腐食したように。


 ボロボロと、崩れて消えた。

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