第12話 愛輝く星の天使の剣⑩

 多分、咄嗟に防ごうとして。力を解放してしまったのだろう。

 悪魔のミサイルもろとも、黄金魔剣を一瞬で腐食させた力。


 気付かなかったなんて、嘘。

 想像もしなかったなんて、嘘。


 そう、ホントは分かってた。ミルちゃんの正体は。


「わ、私は……」


 泣きそうな彼女。


「ああ、もうっ!」


 今は考えないよ!

 まだまだ迫る悪魔戦闘機の攻撃、魔力レーザーに暗黒ミサイルから彼女を護るべく。

 えい、お姫様抱っこ!!


「き、貴様はッ!?」


 戦闘機の上に立ち、追ってくる悪魔ブライファルケ。

 私の腕の中のミルちゃんに気付き、


「なぜ、貴様がここにいる!?」


 その言葉が。


「この俺様の美しさを認めないだけでなく! 敵と馴れ合うか! 美を解さぬ裏切り者がァァァッ!?」


 怒り狂うブライファルケの言葉が。ミルちゃんの正体を雄弁に語る。

 唇を噛み、うつむくミルちゃんを抱き締めて。私は無言で、夜の町を逃げ続ける。


 一緒に飛んでくるステファニーも、無言。彼も、知っていたらしい。


「……私に言いたいこと、有るんじゃないの?」


 ミサイル、レーザー、悪魔の罵声。必死に逃げる私へ。

 ミルちゃんが、強がった声で。


 そんな彼女に、私は走りながら気持ちを整理してたんだけど。

 うん、やっぱり今言うべき言葉……これしかないや。


「ねえ、ミルちゃん」


 抱き締める力を強くして。頬を寄せて。


「今度、デートしようよ♪」


「はぁぁッ!?」


 素っ頓狂な声を上げるミルちゃん。


「あ、貴女バカなの!? もう分かってるんでしょう、私の……!」


 パジャマが揺らいで消えて、ミルちゃんの姿が変わる。

 銀髪と緋色の瞳、ロリロリ可愛い華奢な体躯は変わらないけど。

 漆黒のゴスロリドレス、小っちゃなコウモリの翼に山羊の角。ふりふり可愛い尻尾。


「うわ、可愛いー♪ 予想以上に可愛いよミルちゃん♪」


 すっごくキュート。もうメロメロ。


「あ、貴女ねぇ。私は悪魔で、貴女とは敵で……!」


「ストップ。その先は、デートの時に聞かせて」


 馬鹿だと思う?

 でも、私は真剣だよ。後ろから飛来するミサイルを魔剣で叩き落し、私は。

 紅の瞳を、見つめる。


「……ちゃんと、向き合いたいの。だから、こんななし崩しにじゃなくて。あなた自身の言葉で、ちゃんと聞かせて」


 私や早百合を、どう思っているのか。何を求めて、私達の前に現れたか。


 ……なんてね。きっと何を聞かされても、私の気持ちは変わらないけどね。

 元気で、ツンデレで、ホントはいい子で。まあ、ホモ大好きなのがちょっぴりアレだけど。

 すっごく可愛いミルちゃんを、今さら嫌いになんて。


 だから、私はこの子と……。


 とかシリアスな顔してたら、ミルちゃんの懐からポロッと落ちるDVDケース!


「ああっ!? 私の大切なホモDVDが!?」


「台無し! 台無しぃーッ!?」


 あのDVDパッケージ! 毛深いメンズが裸で抱き合うパッケージは!?

 すっかり私のトラウマになった奴だし!

 おのれ魔獣先輩! どこまで私の前に立ちはだかるの!?


「逃がさん、逃がさんぞ貴様らぁぁーッ!!」


 しかもそんな時に、悪魔ブライファルケの攻勢も激しさを増す!?

 こ、このままじゃ! 魔獣先輩(ガチホモDVD。18禁)が! 火の海に取り残されちゃう!?


「ミルちゃんは、先に逃げて!」


「りりな!?」


 彼女を降ろし、私は! 火の海の中へ! 悪魔が迫る方へ!!

 魔獣先輩を救出に走る! 走る!


「ああ、もうッ! ああー、もおーッ!!」


「ふははははははははぁッ! 向かってくるとは、いい度胸だ!!」


 ミサイルを避け、レーザーをかわし! ホモDVDを胸に抱いて、逃げ惑う!

 な、泣きたい! 何度か攻撃喰らってコスチュームはボロボロだし!


「ぜはー、ぜはー……」


 何とか戦闘機軍団を振り切って、商店街の片隅。小さな公園に身を潜める。

 そこで待ってたミルちゃんに、


「はい、もう落とさないでね?」


 ホモDVDを差し出すのだけど。


「な、なんで……」


 戸惑うミルちゃん。


「あ、貴女……ホモがトラウマになったんじゃなかったの?」


「うん、今すぐパキッと割りたい。このディスク」


「ちょっとぉ!?」


 やめてぇ、と可愛い顔で慌てるミルちゃんに。


「バカね。するわけないし」


 そんなコト、するわけない。するわけないよ。

 だって……。


「だって、友達の大切な物だもん」


 うん、言えた。ちゃんと、想いを言えた。

 そうだよ、ミルちゃんがたとえ何者でも。私は。私の望みは!


「……私は、ミルちゃんと友達になりたい」


 にこっと。今の自分に出来る最高のスマイルで。

 両手でホモDVDを、ミルちゃんに渡した。


「あ……」


 ミルちゃんの頬が、可愛い顔が、絵の具を塗ったように赤くなる。

 天使そのものな、幼い悪魔さんの羞じらい顔。


 ホモDVDを、プロポーズの結婚指輪のように愛しげに抱き締めて。

 ミルちゃんは照れて小さな声で、でも嬉しそうに、答えてくれた。


「……ばか。私達、もう友達でしょう?」


 ※ ※ ※


「まさか、悪魔の女王とまで百合フラグ立てて見せるとはね。想像以上だよマジカル☆リリィ。こんなにも、人の新しい可能性を見せてくれるなんて!」


 満足げなステファニー。

 って、ええっ!? ミルちゃん、悪魔のボスだったの!?


「あら、そこまでは気付いてなかったのね?」


 ふふ、と微笑むミルちゃん。ああ、もう可愛いんだから♪


 でもミルちゃんが悪魔の女王様ってことは。

 私達はもう、争わなくていいかもしれない。

 百合でも、BLでも。傷付けあわずに、互いの大切なモノを。

 認め合い、尊重し合う。そんな未来が……。


 見つめ合う私とミルちゃん、どちらからともなく、指を絡ませ合って。


 キスシーン!?

 キスシーンかな!?って気分をぶっ壊す悪魔ブライファルケの声!


「どこだ、出てこい百合魔法少女! そして裏切り者よ! 俺様の美しさに恐れを為したかァァァッ!?」


 上空を旋回する戦闘機軍団。その上でポーズを取る全裸変質者!

 ……うん、まずはあいつをぶっ飛ばそう。


 そこでふと、私は思い出す。


「ねえ、ステファニー。その背中の羽根だけど……」


 なんか今夜急に生やしてる、光の翼を。くいくい引っ張ってみる。


「あん♪ だ、だめだよそこ弱いんだからぁ♪(イケメンボイスで)」


 ……引き千切ろっか。ま、まあここは我慢。

 前回彼が見せた、人間体……天使の姿を思い出す。

 あれと同じ翼が、私にあれば。私も、空を翔けることが出来たなら。


 空を舞う魔剣さえ届かない、悪魔ブライファルケの領域。

 果て無き天空にも、手が届く!!


「飛翔魔法か……」


 私の提案に、ステファニーしばし考え込んで。


「試す価値はあるね。問題は、膨大な百合魔力が必要になるだろう点だけど……」


 地上に、天使の奇跡を再現するために。

 膨大な百合魔力が要ると、彼は言った。

 つまり、愛のチャージが。百合キスが必要だと。


「と、いうことは……?」


 後は分かるね? 色々理屈付けてるけど、つまりはこれがしたいわけですよ!

 じー。ミルちゃんを凝視!


「な、なんで私を見てるのよぉッ!?」


 あ、私の意図が伝わった模様。

 顔を真っ赤にするミルちゃん可愛い♪


「えっと、だめ……?」


 ミルちゃんの初々しい反応に、私もついもじもじ。

 でも。


 キスしたい。ミルちゃんと。友情を深く、深く確かめ合いたい。

 乙女の愛の絆。百合キスの力があれば、私は空だって飛べる!


 好き。好き好き好き好き好き好き。

 早百合へのそれとは、また違う。でも、どちらも強い気持ち、大きな、好き。

 そんな感情が、私の瞳から輝きとなって溢れるのを、ミルちゃんも感じたのか。


 あー、うー、としばし百面相を見せた後。


 ……デレた。


「は、初めてなんだから。優しくしてよね……?」


 パンパカパーン!!! ファンファーレが聞こえたのは、私だけの幻聴じゃないよね! ね!?

 百合キス、オッケー頂きました♪


 銀髪ロリータ美幼女、ミルちゃん! デレた! デレたよ!!


「うん、任せて♪」


 ロケーションは。ミルちゃんファーストキスの思い出の場所は。

 戦場……炎に包まれた町の、小さな公園。滑り台の横。


 でも、この胸の高鳴りを前にしては、場所なんて。

 二人指を絡ませ合えば、伝わる互いの鼓動。

 潤んだ視線が交じわれば、そこはもう二人だけの世界。光に満ちた、幸せのキス空間。


「……っ!」


 きゅっと、ミルちゃんの指に力が籠る。初めての愛の儀式を前に、強く瞳を閉じて。

 緊張か、期待か。唇が震える。


 その初々しい反応に。

 私も。この子と愛し合いたい。大切にしたい。

 心まで、魂まで繋がる、そんな口づけを交わしたい。

 心臓から、ドキドキが溢れ出す。胸のキュンキュン、止まらないよ!


 ……貴女に届け、マイスイートハート。

 繊細な、雪細工に触れるように。少しずつ、震えながら。

 唇の距離は近付いて。そして……ゼロ距離へ。


「……ちゅっ♪」


 ああ、優しいキス。早百合との、愛を貪り合うような激しい獣のキスも大好きだけど。

 ミルちゃんと私の、一生で一度の「初めてのキス」は。


 唇を、唇で優しく撫で合う。吐息を噛み締め合う、そんな、静かで甘いキス。


「キ、キマシタワーッッッッッッッッッ!!!」


 潤んだ瞳に、もう言葉なんて! 唇を、キスを通して伝わり合う互いの想い、心、胸の内!


 黄金の光よ! 愛の光よ地上を照らして!

 今、世界を革命する百合の光! 世界の果てまで愛の尊さを宣言する、百合魔力の光!!


 唾液の糸を引いて、頬を染めたミルちゃんの顔が、唇が離れる。


「……ふふ」


 その微笑みが。羞じらいながらの笑顔が。

 無限の力を私にくれる!


 さあ、今こそ! 羽ばたきの時!!


「いくよ、マジカル☆リリィ!」


「オッケー、ステファニー!!」


 キスで、新たに繋がった絆。それが、ああ、それこそが!

 神話の勇者たちにだって私が誇れる、胸を張れる、百合魔法少女最大の武器!!

 今なら、何だって出来る。確信を抱いて、私達は。


 声を、重ねるッ!!


「「飛翔魔法、『極光の聖翼セラフィムフェザー』ッッ!!!」」


 ああ、そして。

 私の背中に広がる、六枚の、閃光の翼。


 愛の光を。聖なる百合の光を、天翔ける翼に変えて。

 今、私は征く。


 空へ。

 迷い無き空へ……!

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