第12話 愛輝く星の天使の剣④

 一触即発。ぼう、と炎が風に吹かれる。


 ステファニーと、ミルダレーナ。二人の視線が、刹那、火花を散らす。


「見事に人間に化けたものだね、悪魔ミルダレーナ。いや、『腐界の女王』!」


「そういう貴方こそ、やっぱりただのぬいぐるみじゃなかったのね。『守護者』さん?」


 パジャマ姿のミルダレーナ、ぱちんと指を鳴らし、自らに掛けていた幻視の魔法を解除。

 見えなくなっていた山羊の角、コウモリの翼が生えて、さらに文字通り、尻尾を出す。


「よく気付いたじゃない。魔力は完全に隠していたつもりだったのだけど」


 そして。

 パジャマが影のコウモリとなって飛び去り、ゴスロリドレスに変化。再び主の身を包む。


 ちなみに一瞬、全裸になる。重要なことである。


「悪魔の女王がホモ好きなのは知っていたからね。こんなロリ系だとは、いささか予想外だったけど」


 女性の悪魔は、個体数が少ない。

 彼女が悪魔だとすれば、それは敵の首領「腐界の女王」の可能性が高いと、ステファニーは考えていたのだ。


「わざわざ人間のふりをして、りりなにガチホモDVDまで見せて。彼女を腐女子の世界に引き込むつもりだったのかい?」


「……だ、だって、知ってほしかったんだもの。私の大切なものを、あの子に」


 唇を噛み、ぷいっと横を向くミルダレーナ。

 その表情に、


「ナイス百合! いいよ、その反応!!」


 シリアス展開早くも終了!?

 ツンデレ風味なミルダレーナに、ステファニー、親指をぐっと立てて萌える!!


「つまり君は! りりなと友達になりたかったんだね! 百合ん百合んな関係になりたくて近付いたんだね!?」


 ぐいぐい顔を近付けるステファニー! 異様な迫力である!


「そうなんだろう! そうだと言え!! それ以外は認めんぞ!?」


「なんでそうなるのよ! き、気持ち悪いわね!?」


 迫るステファニーを手で押しのけて、ミルちゃん叫ぶ。


「わ、私はただ! 百合魔法少女をホモの素晴らしさに目覚めさせれば、野望の達成が容易くなるって、そう思っただけよ。りりなのコトなんて! これっぽっちも気になってないんだからねー!?」


 なんたるテンプレ的ツンデレ台詞か! もちろん赤くなりながらである!!

 可愛い!!


「ふぉぉぉぉ、この悪魔萌える! 敵だけど、お兄さん許しちゃいそうだよ!!」


 ごろんごろん悶え転げるステファニー。

 そこへ、


 バシーン! バシーン!

 薔薇のムチが飛ぶ!


「……話を進めていいかしら?」


「ど、どうぞ女王様♪」


 鞭で引っ叩かれ、何かに目覚めたステファニーへ。

 ミルダレーナが聞く。


「それで、どうするつもり? 私の正体を、あの子に話すのかしら」


 短いながらも、重い沈黙。

 悪魔の襲撃を受け、炎に包まれた町。緊急事態の中ではあるが、ステファニーは、真剣な顔で思案する。


「……いいや、今はやめておくよ」


「あら、どうして?」


 ぬいぐるみ姿なのでいまいち分かり辛いが、シリアスな瞳でステファニーは、悪魔ミルダレーナの眼を見つめる。


「君に悪意を感じないのは確かだ。もう少しだけ、真意を見極めさせてもらうとするよ。りりなは君を気に入っているし、百合の芽を……摘み取りたくはないからね」


「そ、そう……」


 ほっとするように、胸を撫で下ろすミルダレーナ。


「でもね、りりなのパートナーとして、これだけは言っておくよ?」


 ステファニー、そんな彼女へ忠告する。

 一瞬だけ。その一瞬だけは彼本来の姿……イケメン人間体の時以上の、凛々しい面持ちで。


「りりなを傷付けることだけは、許さない。彼女を陥れようとするなら、いかに美少女でも許さないからね」


「……わかってる。ちゃんと、話すわよ。私の口から」


 やっぱりミルちゃん、いい子である。

 悪魔の女王と、百合の守護者。敵対する立場の二人の間に流れていた緊張が、かすかに緩んだ。


 ステファニー、今、町を襲っている悪魔について尋ねる。


「あの悪魔、奴は君の差し金ではないんだね?」


「ええ、そうよ。奴は男爵級悪魔ブライファルケ。あれは罪人……重い罪を犯し、私の手で幽閉していたの。解き放たれるはずなんて、なかった」


 そして彼女は語り始める。

 悪魔ブライファルケの犯した、許されざる過去の罪を。


 ※ ※ ※


 そして、回想シーン。

 悪魔の本拠地、池袋乙女ロードから腐女子パワーを吸い上げ続ける、魔城サンシャイン60の一室!


「ふ、ふふふ腐腐腐! ホモ最高! もっとホモアニメ増えないかしら♪」


 鼻血を流しながら、アニメに夢中の女王! おお、彼女の見ているのは!?


「やっぱり私は、正統派で黄黒かしら。第4話のエンドカードは永久保存よ♪」


 く、「黒〇のバスケ」である!

 これをホモアニメ扱いなど!! 集〇社に謝れ!!


「どぅふ腐ー、もっちろん『ハイ〇ュー!!』もチェック済みだから♪」


 そう、彼女は! 「腐界の女王」はジャ〇プ系が好きなのだ!

 熱い男の友情を、ホモ的な目で見るのが大好きなのだッ!!


「ああ、流れる汗! 一つの目的に向け手を取り合う姿!! ホモって美しい♪」


 そこは「青春って美しい♪」とかではないのか。

 残念ながら、腐女子にとって青春とはホモである。


 そこへ。

 萌え萌えしているミルダレーナの元へ。

 彼が歩いてくる。


 男爵級悪魔ブライファルケ。この時はまだ、鎖を巻いていない。


 ただし全裸だ!! それは変わらない!!


「なんだ女王よ。ずいぶんと下らないモノを観ているな!!」


「く、下らないですって!?」


 何を根拠にそんな発言を! カチンとくる女王!!


「ホモは美しいのよ! ゲイ術よゲイ術!! こんな美しいモノが他にあるっていうの!?」


「ふはははははははははははは!! 女王よ、貴女はまだ未熟だな!! 最上の美は! ここにあるだろうが!!」


「……?」


 腕組みして胸を反らすブライファルケに、ミルダレーナは首を傾げる。

 ホモより美しいモノ。そんなモノ、宇宙に存在するのか?


「おいおい女王よ。本当にわからないのか?」


「わからないわよ。どこにあるというの、そんなモノ」


 悪魔ブライファルケ、悲しげに天を仰ぐ!


「実に残念だ! 女王よ、貴女には審美眼というものが無いのか!? 美しいモノは、ここにあるだろうが! 目の前に!!」


 そしてブライファルケ、フル〇ンのままポージング!!


「よく見ろ!! この俺様の裸体こそ!! 究極至高の芸術作品だろうがぁぁぁぁーッ!!」


 ぶらーんぶらーん。ゾウさんが鼻を振ります。


「宇宙には、美しい俺様だけいればよい! BLも百合も! 俺様以外の醜い連中がいちゃつく姿なぞ、なにが美しいものか!!」


「ホ、ホモを馬鹿にするなァァァァァァーッ!?」


 ※ ※ ※


 ……回想シーン、終わり。


「奴は! ナルシストゆえにホモを侮辱したのよ!! それが奴の罪! けして償えない大罪ッ!!」


「あ、罪って全裸の件じゃないんだ……?」

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